はじめに
(この記事は2021年5月29日に作成されたものです。)
フランチャイザー(以下「本部」といいます。)は、フランチャイジー(以下「加盟者」といいます。)とフランチャイズ契約を締結し、フランチャイズ・チェーンを拡大し、利益を上げるため、本部が加盟希望者を勧誘する際に、いわゆるセールストークが用いられることがあります。
セールストークとしては、例えば、「殊更に当該契約の利点を強調する説明」(東京地裁平成25年3月15日2013WLJPCA03158010)、「自己の商品やサービスの内容等について一定の誇張表現をすること」(仙台地判平成21年11月26日裁判所ウェブサイト)が該当しますが、どの程度の「誇張表現」等が許容されるのでしょうか。
以下、本部によるセールストークの限界について説明します。
セールストークが問題となる場面
前提として、セールストークが問題となるのは、以下のような場面です。
- 本部による勧誘行為が故意による詐欺に該当するか否かが問題となる場面
- 本部による勧誘行為が信義則上の情報提供義務(保護義務)に違反したか否かが問題となる場面
- 過失相殺の割合が問題となる場面
なお、①及び②は、本部による勧誘行為がセールストークとして許容される範囲を逸脱しているか否かが問題となるのに対し、③は、逸脱していることを前提に、セールストークを信じた加盟者の過失の有無(過失がある場合には、加盟者に生じた損害の何割を本部に賠償させるか)が問題となります(東京地判平成5年11月29日判時1516号92頁)。
セールストークの限界
前記②の場面(本部による勧誘行為が信義則上の保護義務に違反したか否かが問題となる場面)において、セールストークの限界について言及した裁判例としては、例えば、以下のようなものがあります。
「なお、被告は原告らに対し、「トマト(被告の登録商標)の看板を出せば、コージーコーナー(競合が予想された店舗)の方がつぶれてしまう」などと多少楽観的な説明をしたことが認められるが(中略)、この程度の誇張は、原告らの本件フランチャイズ契約締結に関する判断を誤らせるような内容ともいえず、通常の取引社会の駆け引きとして許容される範囲内と認められ、前記保護義務違反を構成するとはいえない。」(東京地判平成元年11月6日判時1363号92頁)
東京地判平成元年11月6日判時1363号92頁
要するに、本部によるセールストークは、一切許容されないものではなく、「通常の取引社会の駆け引きとして許容される範囲内」であれば許容されることになります。
そして、「通常の取引社会の駆け引きとして許容される範囲内」であるか否かを判断する際に、どのような要素が問題となるかについては、以下の裁判例が参考になります。
フランチャイザーは,フランチャイズ契約の締結に際し,上記ア記載の信義則上の保護義務の一内容として,フランチャイジーに対し,虚偽情報を提供しない義務及び相手方に誤解が生じている場合にはその誤解を解消するべく努力する義務を負っているものと解される。
一般に,契約締結の際,相手方当事者に対し,自己の商品やサービスの内容等について一定の誇張表現をすることも,セールストークの一環として許容される場合があることは否定できない。
しかし,フランチャイジーになろうとする者の中には,過去に全く事業経験がない者も多数含まれていることに照らせば,事業経験のない者を対象としたフランチャイズ契約の締結においては,一般の事業経験者間では許容されるセールストークであったとしても,虚偽の情報ないし誤認を生じさせるような情報を与え,もって信義則上の保護義務に違反したと評価される余地があるというべきである。
そこで,フランチャイザーの説明内容や説明方法が,虚偽の情報ないし誤認を生じさせるような情報を与えるものであったか否かは,当該説明内容や説明の状況等に加え,フランチャイジーになろうとする者のこれまでの事業経験や経営に関する知識の有無等も併せ考慮した上で,個別具体的に判断するのが相当である。
仙台地判平成21年11月26日裁判所ウェブサイト
「個別具体的に判断する」とあるとおり、この問題もケースバイケースの話ではありますが、この裁判例が列挙した考慮要素について、従前の裁判例をいくつかご紹介します。
説明内容や説明の状況等
具体的な数字が事実と大きく乖離する場合は、セールストークとして許容される範囲を逸脱し、信義則上の情報提供義務(保護義務)に違反したと認定されることになります。
例えば、加盟店1号店の数字のみを参考に「月に平均で80万円程度稼ぐことができる。」と説明し、実際は月数万円の売上に留まった事案において、「商取引の世界においては,契約を獲得するためのいわゆるセールストークとして,殊更に当該契約の利点を強調する説明が行われることが世上行われており,それが許容される場面も少なくないと解されるが,上記のような具体的な数値を掲げた説明が,このような許容されるセールストークの域を逸脱するものであることは明らかである。」と判示されています(東京地裁平成25年3月15日2013WLJPCA03158010)。
また、あまりに悪質な事案では、信義則上の情報提供義務(保護義務)違反のみならず、故意による詐欺であると認定される可能性があります。
例えば、加盟者の大半が「せいぜい月数万円程度の売上げしか上げることができていない」にもかかわらず、「月70万円から100万円程度の収入を得ることができる」と説明した事案において、本部による勧誘行為が「故意による詐欺として不法行為に該当する」と判示されました(東京高判平成30年5月23日2018WLJPCA05236002)。
他方で、具体的な数字ではなく、売上保証の有無が問題となった事案では、(具体的な数字の問題とは異なり、説明の内容の客観性、合理性ではなく)加盟者が誤解するような説明であったか否かが重要となります。
例えば、本部が「初期の投資金額の回収は,約3年で可能である」との説明をしたことが、売上保証に該当するか否かが問題となった事案において、「被告が原告らに対して売上保証をしたか否かについては,担当者Dの当初の発言はセールストークにとどまるもので,売上保証したものとはいえず,むしろ,本件契約の契約書には,フランチャイジーは契約店舗においてフランチャイザーの代理人としてではなく,自己の責任において経営に専念すると明示され,b店の事業計画書の初年度月次損益計画表には(甲6の10枚目),末尾に「売上は過去の実績に基づく予測ですので,上記売上を保証するものではありません。」と明記されているのであり,売上げ保証の主張には理由がない。」と判示されています(東京地判平成3年4月23日判タ769号195頁)。
事業経験や経営に関する知識の有無
「フランチャイジーになろうとする者のこれまでの事業経験や経営に関する知識の有無」については、以下のように考慮されることになります。
例えば、本部が「東北地方での承認日販が43万円であること,本件店舗の売り上げは43万円に達すると考えていること」を伝えたが、「説明の際に43万円の売り上げは間違いないなどといった断定的な表現」までは用いていない事案において、(加盟者は)「40年間という長期にわたって酒屋を経営しており,店舗の売り上げを予測することは困難であると十分に認識していた」ことから、「本件店舗の売り上げが確実に43万円を超えると誤信することは,通常考えられない」以上、本部による勧誘行為が「虚偽の情報ないし誤認を生じさせるような情報を与えるものであったと評価することはできない」と判示されています(仙台地判平成21年11月26日裁判所ウェブサイト)。
おわりに
以上、本部によるセールストークの限界について説明しました。