フランチャイズ

フランチャイズ契約における信義則上の情報開示義務【franchise #6】

はじめに

(この記事は2021年4月17日に作成されたものです。)

中小小売商業振興法11条1項の「特定連鎖化事業」に該当するフランチャイズ事業を展開しているフランチャイザー(以下「本部」といいます。)は、フランチャイジー(以下「加盟者」といいます。)に対し、法定開示書面の交付とその説明を行わなければなりません。

それでは、「特定連鎖化事業」に該当するフランチャイズ事業を展開している本部は、加盟者に対し、法定開示書面の交付とその説明さえ行えば足り、その他の事項については情報を開示する義務は負わないのでしょうか。

また、「特定連鎖化事業」に該当するフランチャイズ事業を展開していない本部は、加盟者に対し、法定開示書面の記載事項に対応する事項すら、情報を開示する義務は負わないのでしょうか。

フランチャイズ契約と中小小売商業振興法の関係

裁判例においては、中小小売商業振興法は「行政上の取締法規又は営業準則としての性質を有するにすぎない」ため、「フランチャイザーがこれらの定めに違反したか否かを形式的にみることによって私法上の違法性の有無を決すべきではないことはいうまでもない。」(大阪地判平成8年2月19日判タ915頁131頁)と解されています。

中小小売商業振興法は、本部に対し、法定開示書面の交付とその説明という行政上の情報開示義務を課していますが、本部がこの行政上の情報開示義務を履行したか否かによって、直ちに、本部が私法上の情報開示義務を履行したか否かまで決まることはありません。

要するに、本部と加盟者との間で、本部による民事上の情報提供義務違反が問題となっている場面において、本部が法定開示書面の交付とその説明を行っておれば当然に適法、反対に、本部がこれらを行っていなければ当然に違法、ということにはならない、ということです。

加盟者募集段階における信義則上の情報提供義務

それでは、加盟者を募集する段階(フランチャイズ契約を締結していない段階)において、本部は、加盟者に対し、そもそも情報を提供すべき民事上の義務を負うのでしょうか。

この点に関し、裁判例は、「一般に,フランチャイズ事業においては,フランチャイザーは当該事業に関し十分な知識と経験を有しているのに対し,フランチャイジーになろうとする者は,当該事業に対する知識も経験もなく,情報も有していないことが通常である。したがって,フランチャイザーは,フランチャイジーになろうとする者に対し,契約締結に関して的確な判断ができるよう客観的かつ正確な情報を提供するとともに,フランチャイジーが当該事業を適切に運営できるよう,指導,支援すべき信義則上の義務を負うというべきである。」(東京地判令和元年12月11日2019WLJPCA12118013等)と解しています。

したがって、加盟者がフランチャイズ事業について「知識も経験もなく,情報も有していない」ような場合には、本部は、加盟者に対し、加盟者募集の段階でも、情報提供義務(裁判例によっては「保護義務」と表現されることもあります。)を負うことになります。

それでは、「契約締結に関して的確な判断ができるよう客観的かつ正確な情報を提供する」とありますが、具体的にはどのような情報を、どの程度提供することを意味しているのでしょうか。

裁判例は、「これらの義務の内容及び義務違反の有無は,提示すべき情報をどの程度具体的に確定することが可能か,フランチャイジー希望者の理解能力及び具体的認識等を総合して,判断されるべきである。」(東京地判平成19年6月26日2007WLJPCA06268011)、「フランチャイザーが負うべき保護義務の範囲は,フランチャイザーとフランチャイジー間の知識及び経験の格差並びに契約締結に至る経緯等を総合考慮した上で決するべきである」(東京地判平成22年2月19日2010WLJPCA02198001)と判示しており、結局のところは、ケースバイケースで事例ごとの判断をしています。

「特定連鎖化事業」に該当するフランチャイズ事業の場合

「特定連鎖化事業」に該当するフランチャイズ事業を展開している本部としては、法定開示書面による開示が要請されていない事項についてまで、ケースバイケースで積極的に情報を開示しなければならないとすると、どのような情報を、どの程度提供すればよいか判断できず、予測可能性を害する結果となります。

この点については、「少なくとも、平成14年の同法施行規則改正によって開示の対象が拡大され、充実した現在では、小振法に従った開示が行われているかぎりフランチャイザーに情報提供義務の違反は発生しないことが原則となるべきではないか。」(小塚壮一郎著『フランチャイズ契約論』146頁(有斐閣、2006年))との指摘もあります。

したがって、加盟者募集段階において、本部は、法定開示書面や、加えるとすれば、公正取引委員会の「フランチャイズ・システムに関する独占禁止法上の考え方について」(以下「フランチャイズガイドライン」といいます。)に記載されている事項についての開示を原則とし、あとは業界やフランチャイジーの個性を考慮して、他に開示しておくべき情報がないかを検討するとの対応が考えれます。

「特定連鎖化事業」に該当しないフランチャイズ事業の場合

「特定連鎖化事業」に該当するフランチャイズ事業を展開していない本部は、民事上も、法定開示書面による開示が要請されている事項について、当然に情報開示義務を負うことはありません(東京地判令和2年2月27日2020WLJPCA02278003)。

しかし、「特定連鎖化事業」に該当するフランチャイズ事業を展開していない本部も、「契約締結に関して的確な判断ができるよう客観的かつ正確な情報を提供するとともに,フランチャイジーが当該事業を適切に運営できるよう,指導,支援すべき信義則上の義務を負う」ことに変わりはありません。

参考となるのは、結局のところ、法定開示書面やフランチャイズガイドラインとなりますので、加盟者募集段階における情報開示の対応は、「特定連鎖化事業」に該当するフランチャイズ事業の場合と同様の対応とならざるを得ないのではないかと思います。

法定開示書面及びフランチャイズガイドラインの記載事項

なお、法定開示書面やフランチャイズガイドラインの記載事項については、以下の記事で整理しています。

おわりに

以上、加盟者募集段階においてフランチャイザー(本部)が負う「信義則上の情報開示義務」の内容について、中小小売商業振興法の法定開示書面の記載事項との関係を踏まえて説明しました。