フランチャイズ裁判例

フランチャイズ契約における競業避止義務と違約金④【fc-cases #24】

はじめに

(この記事は2021年7月10日に作成されたものです。)

フランチャイズ契約において、フランチャイザー(以下「本部」といいます。)が、フランチャイジー(以下「加盟者」といいます。)に対し、契約期間中及び契約終了後一定期間、一定の場所において、同種又は類似の事業を営んではならないとの義務(以下「競業避止義務」といいます。)を課すことが多いです。

この競業避止義務は、どのような期間、場所の範囲、事業の範囲であっても、フランチャイズ契約において規定さえすれば、常に有効になるのでしょうか。

また、競業避止義務に違反した場合の違約金の金額又はその計算方法(例えば、ロイヤリティの●年分等)についても、フランチャイズ契約において規定されることがありますが、このような違約金条項は常に有効であり、これに違反した加盟者は、本部に対し、常に違約金条項のとおりに違約金を支払わなければならないのでしょうか。

この点につき参考となる令和の裁判例を紹介します。なお、裁判例の紹介に際しては、フランチャイズ契約における競業避止義務と違約金に関する内容のみを抽出しており、この点と関連しない記載には言及していません。

東京地判令和3年1月25日2021WLJPCA01258002

事案の概要

「原告」は、本部であり、「建造物内外装・車両・家具等の補修・清掃・保守の各事業やその各事業に係わるフランチャイズチェーン店の加盟店募集・指導業務等を営む株式会社」です。

 「被告Y1」は、個人の加盟者であり、「原告」との間で、各種フランチャイズ契約を締結し、各種フランチャイズ契約に基づき、「車両や家具等の補修(リペア)・清掃(クリーニング)・着色(カラーリング)等の事業(以下「リペア事業等」という。)を行ってきた者」です。

「被告会社」は、加盟者ではありませんが、「被告Y1の住所地を本店所在地,被告Y1を代表取締役として設立され,自動車の内装補修・整備・ボディコーティング・ルームクリーニング及び家具の補修等の各事業を営む株式会社」です。

各種フランチャイズ契約のうち、一部の契約には、加盟者は「本契約終了後,10年間は本部からノウハウ教示を受けた事業並びにこれに類似する事業又は商品の取り扱いを行ってはならない。」とする競業避止義務条項が存在しました。

本件は、「原告」が、「被告Y1」が月会費の支払を怠ったことから各種フランチャイズ契約を全部解除したが、その後も「被告Y1」が「被告会社」名義でインテリアリペア事業及びホイールリペア事業を行うことで、競業禁止条項に反した行為を行っていると主張して、「被告ら」に対し、競業の禁止と違約金を請求した事案です。

なお、本記事での説明は省略しますが、本件では、加盟者ではない「被告会社」が行った競業行為をもって、加盟者である「被告Y1」が行った競業行為であると評価できるかという、いわゆる「法人格否認の法理」についても問題となりました。

争点

  1. 競業禁止条項は民法90条により無効となるか
  2. 本件における違約金額

加盟者等(「被告ら」)の主張

競業禁止条項は民法90条により無効となるか

「本件競業禁止条項は,禁止の範囲が広範であり,これによって生じるフランチャイジーたる被告Y1の不利益がこれによって保護されるフランチャイザーたる原告の利益と比較して社会通念上是認し難いものということができる上,消費者契約法10条や独占禁止法2条9項5号の趣旨に反するものでもあることから,民法90条により無効となる。」

本件における違約金額

「本件競業禁止条項は民法90条に反して無効であるから,本件競業禁止条項を前提とする本件違約金条項も無効である。」

本部(「原告」)の主張

競業禁止条項は民法90条により無効となるか

「本件競業禁止条項によって生ずる被告の不利益が,同条項によって得られる原告及び原告のフランチャイジーの利益と比較して社会通念上是認し難いものということはできず,インテリアリペア事業及びホイールリペア事業並びにこれに類似する事業について,契約終了後10年間の競業を,場所を制限せず禁止する本件競業禁止条項には合理性があるから,同条項が民法90条によって無効になることはない。」

「なお,禁止期間が10年よりも短縮される場合には,その起算点は,契約終了時ではなく,競業終了時からとすべきである。」

本件における違約金額

「フランチャイザーたる原告は,フランチャイジーが安心してリペア事業等を行うことができるよう,競業行為を未然に防ぐために,競業した場合の違約金を強い抑止力が発揮できる額にする必要がある。従前の月会費相当額のみを継続して支払わせるのみでは違約罰としての性質を有することにはならないから,それ以上に権利金相当額を支払わせることが合理的である。そのため,本件違約金条項では,競業した場合の違約金額を,①契約エリアにおける権利金相当額,②契約終了から地域本部が競業をやめるまでの期間分の月会費相当額と定めている。」

裁判所の判断

競業禁止条項は民法90条により無効となるか

「原告」の「フランチャイズシステムの構築や運営には多大な資本やノウハウが投入されているのは明らかであるから,原告のフランチャイズ事業の運営上のノウハウや商圏を保護するために,フランチャイズ契約終了後に元フランチャイジーが競業を行うことを禁止する旨の競業禁止条項を設けることも許されるというべきである。」

「ただし,競業の禁止は,フランチャイジーの職業選択の自由ないし営業の自由を制限するものであるから,その制限の範囲は必要かつ相当なものに限られるというべきであり,その限度を超える場合には,競業禁止条項は公序良俗に反し無効となるといわざるを得ない。」

本件競業禁止条項は,禁止事業をインテリアリペア事業一般及びホイールリペア事業一般並びにこれに類似する事業とし,禁止期間は契約終了日の翌日から10年間とし,禁止する場所に制限を設けないものである。原告が提供するリペア技術が,その基本は従来の自動車や家具等の補修等において用いられてきた普遍的な技術や一般的な板金塗装等であることや,原告が提供する起業・営業等のノウハウは,一般的なものであって,フランチャイジーの契約エリアにおける個別具体的な情報等ではなかったこと,皮製品のリペア材料の販売業者の中には,リペア事業を起業しようとする者に,フランチャイズシステムによる技術等の提供ではなく,有料の技術講習及び初期導入キットを提供するのみの業者がいることからすれば,原告が提供する技術がインテリア,ホイール,ウッド,ポリマー加工の各分野にわたる総合リペア技術であることや,インテリアリペア用の材料が●社において独自に開発されたものであることも考慮に入れてもなお,期間として不当に長期であって,範囲として不当に広範であるといえる。

「そこで,まず期間について検討する。本件2契約においては,契約期間は10年であるが,いずれも第26条において,契約締結後3年が経過した後は,フランチャイジーからの解除が可能である旨規定されている。これは,原告に権利金収入及び3年間分の月会費収入を確保させる趣旨を有するものと解されるが,その他に,リペア事業等の商圏は契約締結後3年程度で確立するものであって,3年程度で確立していなければその後の事業続行は困難であることを前提として,フランチャイジーが契約関係から離脱できることを認めるものとも解される。そうすると,契約終了から3年間の営業を禁止すれば,フランチャイジーが一旦確立した商圏は消滅するということができるから,競業禁止期間は3年間が相当である。

なお,原告は,競業禁止期間を10年よりも短縮する場合には,競業禁止期間の起算点は競業行為終了後とすべきである旨主張する。しかし,本件競業禁止条項は競業禁止期間の起算点を本件2契約の終了後としているところ(第22条及び第30条),これは競業禁止期間中の競業行為の制裁を違約金の支払によって行うことを予定しているものと解され,この趣旨を競業禁止期間を契約よりも短縮する場合に変更する合理的理由はないことからすれば,競業禁止期間の起算点は本件2契約の終了の日の翌日とするのが相当である。

「次いで,範囲について検討する。本件2契約のいずれも第2条において,事業を独占的に実施できる契約エリアを定めているから,商圏も当該エリアにおいて確立するものと考えられる。そうすると,本件2契約に基づき確立した被告Y1のリペア事業等の商圏は,当該エリアでの競業を禁止すれば足りるということができるから,禁止場所は本件2契約の共通エリアである香川県高松市内とするのが相当である。

「以上のとおりであって,本件2契約における競業禁止条項は,本件2契約の終了の3年後である令和3年3月12日までの期間,本件2契約の契約エリアである香川県高松市内におけるインテリアリペア事業一般及びホイールリペア事業一般並びにこれに類する事業を禁止する限りで必要かつ相当といえ,その限りで有効性が認められるのであり,これを超える期間,超える範囲の競業禁止条項部分は公序良俗に反して無効というべきである。」

本件における違約金額

「本件違約金条項は,フランチャイジーが競業を行った場合,①契約エリアにおける権利金相当額,②契約終了から地域本部が競業をやめるまでの期間分の月会費相当額を違約金として定めるものである。」

「本件2契約に競業禁止条項を規定すること自体には合理性があるため,同条項に反した場合の違約金に関する条項を規定することにも合理性が認められる。その場合の違約金額は競業を抑止する効果が持てる程度の金額にする必要があるところ,当該契約エリアでの競業を禁ずるものであるから,契約エリアで事業を行うことについての対価である権利金に相当する額及び競業を止めるまでの月会費に相当する額とすることは妥当であり,本件違約金条項には合理性が認められる。

「本件2契約における競業禁止条項は契約終了後3年の限りで有効と解すべきであることから,本件違約金条項の②に該当するものは月会費の3年分とする限りで有効といえる。」

コメント

競業避止義務条項の有効性

競業避止義務条項は、本部の営業秘密の保護と顧客・商圏の確保が目的であるとされており、この目的を超えて、加盟者の営業の自由を不当に制限するものは、公序良俗に反して無効となると解されています。

そして、フランチャイズ契約終了後の競業避止義務条項の有効性は、禁止する目的に比して、禁止される業務の範囲、禁止される期間、禁止される場所等が過大なものでないかが検討されます。

本件においても、「フランチャイズ事業の運営上のノウハウや商圏を保護するため」の競業避止義務条項を設けることは許されるとしてうえで、「競業の禁止は,フランチャイジーの職業選択の自由ないし営業の自由を制限するものであるから,その制限の範囲は必要かつ相当なものに限られるというべきであり,その限度を超える場合には,競業禁止条項は公序良俗に反し無効となるといわざるを得ない。」と判示されており、その期間及び場所について一定の限定がなされました。

本件の特殊性としては、「本契約終了後,10年間」と規定された競業禁止期間の起算点が、フランチャイズ契約の終了の日の翌日であるのか、競業避止義務違反行為の終了時であるのか(競業避止義務違反行為をしている間は期間が経過しないのか)が問題となっている点です。

この点につき、裁判所は、「本件競業禁止条項は競業禁止期間の起算点を本件2契約の終了後としているところ(第22条及び第30条),これは競業禁止期間中の競業行為の制裁を違約金の支払によって行うことを予定しているものと解され,この趣旨を競業禁止期間を契約よりも短縮する場合に変更する合理的理由はない」として、競業避止義務条項の文言どおり、競業禁止期間の起算点をフランチャイズ契約の終了の日の翌日であると認定しました。

本部としては、競業禁止期間の起算点を競業避止義務行為の終了時としたいのであれば、その旨競業避止義務条項において明記することが必要となります(その条項の有効性を認めた裁判例を以下の記事において紹介しています。)。

違約金条項の有効性

フランチャイズ契約において違約金条項が存在するとしても、「適正な違約金額を超える部分」は無効となります。

裁判例には「ロイヤリティ平均月額の30か月分」の範囲で違約金を認めるものが相当数ありますので(東京地判平成6年1月12日判タ860号198頁等)、裁判所において「ロイヤリティ平均月額の30か月分」が一つの基準となっているのかもしれません。

もっとも、「ロイヤリティ平均月額の30か月分」を超えれば直ちに無効となるわけではなく、本件においても、「競業を抑止する効果」を持たせるものとして、競業避止義務条項が有効となる3年間(36か月)のロイヤリティ(及び権利金)相当額が違約金として認められています。

おわりに

以上、フランチャイズ契約における競業避止義務と違約金について、参考となる令和の裁判例を紹介しました。