フランチャイズ裁判例

特定商取引法に基づくフランチャイズ契約のクーリング・オフ【fc-cases #17】

はじめに

(この記事は2021年6月8日に作成されたものです。)

副業等により、フランチャイジー(以下「加盟者」といいます。)が自宅で事業を行うことを前提とするフランチャイズ契約も相当数あり、このような場合、加盟者は、フランチャイザー(以下「本部」といいます。)とは独立した事業者という側面だけでなく、保護されるべき消費者という側面も有します。

そして、一定の要件を満たす場合、加盟者は、特定商取引に関する法律(以下「特定商取引法」といいます。)に基づき、フランチャイズ契約をクーリング・オフすることができます。

具体的には、特定商取引法は、「業務提供誘引販売契約」の「相手方」による、契約書面を受領した日から20日間の、クーリング・オフを認めています(特定商取引法58条1項)。

業務提供誘引販売業を行う者がその業務提供誘引販売業に係る業務提供誘引販売契約を締結した場合におけるその業務提供誘引販売契約の相手方(その業務提供誘引販売業に関して提供され、又はあつせんされる業務を事業所等によらないで行う個人に限る。以下この条から第五十八条の三までにおいて「相手方」という。)は、第五十五条第二項の書面を受領した日から起算して二十日を経過したとき(相手方が、業務提供誘引販売業を行う者が第五十二条第一項の規定に違反してこの項の規定による業務提供誘引販売契約の解除に関する事項につき不実のことを告げる行為をしたことにより当該告げられた内容が事実であるとの誤認をし、又は業務提供誘引販売業を行う者が同条第二項の規定に違反して威迫したことにより困惑し、これらによつて当該期間を経過するまでにこの項の規定による業務提供誘引販売契約の解除を行わなかつた場合には、相手方が、当該業務提供誘引販売業を行う者が主務省令で定めるところによりこの項の規定による当該業務提供誘引販売契約の解除を行うことができる旨を記載して交付した書面を受領した日から起算して二十日を経過したとき)を除き、書面によりその業務提供誘引販売契約の解除を行うことができる。この場合において、その業務提供誘引販売業を行う者は、その業務提供誘引販売契約の解除に伴う損害賠償又は違約金の支払を請求することができない。

特定商取引に関する法律58条1項

「業務提供誘引販売業」は、以下の要件を具備する取引を言います(これらの「あっせん」も含まれますが、説明の便宜上省略しています。)(特定商取引法51条1項)。

  1. 物品の販売又は有償で行う役務の提供の事業であること
  2. その販売の目的物たる物品又はその提供される役務を利用する業務に従事することにより得られる利益(業務提供利益)を収受し得ることをもつて相手方を誘引すること
  3. 相手方と特定負担(その商品の購入若しくはその役務の対価の支払又は取引料の提供)を伴うその商品の販売又はその役務の提供に係る取引(業務提供誘引販売取引)をすること

要するに、「ある仕事を提供するので、相手方はその仕事により利益を得ることができる」と相手方を誘引し、相手方にこの仕事に必要な商品等を提供し、その代金等を得る取引を意味します。

具体例としては、以下のようなものがあります。

・販売されるパソコンとコンピューターソフトを使用して行うホームページ作成の在宅ワーク

・販売される着物を着用して展示会で接客を行う仕事

・販売される健康寝具を使用した感想を提供するモニター業務

・購入したチラシを配布する仕事

・ワープロ研修という役務の提供を受けて修得した技能を利用して行うワープロ入力の在宅ワーク

消費者庁「特定商取引法ガイド」(https://www.no-trouble.caa.go.jp/what/businessopportunity/)

ただし、特定商取引法58条1項のクーリング・オフを行うことができる「相手方」は、保護されるべき消費者である必要があり、「その業務提供誘引販売業に関して提供され、又はあつせんされる業務を事業所等によらないで行う個人に限る。」とされています(特定商取引法58条1項)。

フランチャイズ契約が「業務提供誘引販売契約」に該当する場合、本部から独立した事業者である加盟者は、例えば自宅にで業務を行うものである場合は、この「相手方」に該当し、特定商取引法58条1項のクーリング・オフを行うことができるのでしょうか。

この点につき参考となる令和の裁判例を紹介します。なお、裁判例の紹介に際しては、加盟者による特定商取引法に基づくフランチャイズ契約のクーリング・オフに関する内容のみを抽出しており、この点と関連しない記載には言及していません。

大津地判令和2年5月26日2020WLJPCA05266006

事案の概要

「被告」は、本部であり、「ハウスクリーニング事業のフランチャイズを展開する株式会社」です。

「原告」は、加盟者であり、「レンタカー会社や不動産会社において従業員として稼働しており,その頃,ハウスクリーニング事業を自営で始めることを考えていた」者であり、「被告」との間で、ハウスクリーニング事業のフランチャイズ契約を締結しました。

その後、「原告」は、「被告」に対し、フランチャイズ契約に係る取引が特定商取引法51条の業務提供誘引販売取引に該当するとして、同法58条1項に基づき、フランチャイズ契約のクーリング・オフを主張しました。

争点

フランチャイズ契約に係る取引が特定商取引法51条の業務提供誘引販売取引に該当するか否か

加盟者の主張

「原告は,自宅で本件契約に関する業務を行っており,「法人及び事業所等を構えて業務を行う個人」には該当しない。事業者間の取引であるからといって,業務提供誘引販売取引に係る規制の対象とならないわけではない。」

本部の主張

「本件契約が業務提供誘引販売取引に係る契約であるとしても,クーリングオフ規制の適用は認められない。原告は,自宅をその業務のための事業所としているところ,これは本件契約時における初期投資費用を節約するためであって,決して原告の事業規模が,一般消費者が行う内職等の作業程度のものであることを示すものではない。また,被告が原告に提供する業務は,原告の申出により,原告が独自に営業を行う不動産業者から紹介されるような空室のハウスクリーニングに限られており,消費者被害を防ぐために保護すべき者ではなく,特定商取引法のクーリングオフ規制による保護の必要はない。被告が,原告に対し提供又はあっせんする業務はなかったから,本件契約は業務提供誘引販売取引には該当しない。」

裁判所の判断

「被告は,原告は,自宅をその業務のための事業所としているところ,原告の事業規模が,一般消費者が行う内職等の作業程度のものであることを示すものではなく,また,被告が原告に提供する業務は,原告の申出により,原告が独自に営業を行う不動産業者から紹介されるような空室のハウスクリーニングに限られており,消費者被害を防ぐために保護すべき者ではなく,特定商取引法のクーリングオフ規制による保護の必要はない旨主張する。」

「しかし,原告は,被告から提供・あっせんされた「業務」を,肩書住所地の自宅(マンションの一室)で行うこととし,本件契約は,「事業所その他これに類似する施設によらないで行う個人との契約」に該当することが認められることなどに照らすと,原告が,特定商取引法のクーリングオフによる保護の必要はない者であるということはできない。

「また,被告は,被告が,原告に対し提供又はあっせんする業務はなかったから,本件契約は業務提供誘引販売取引には該当しない旨主張する。」

「しかし,被告は,被告が提供し,あっせんするハウスクリーニング業務に従事することにより得られる利益(業務提供利益)を収受し得ることをもって原告ら顧客を誘引しているのであり,原告においても,被告に対し,本件契約の当初から,ハウスクリーニング業務をあっせんするように要望していたことが認められるのであるから,本件契約後に自ら業務を獲得するために営業活動を行い,また,被告が,原告に対し提供又はあっせんする業務がなかったからといって,本件契約に係る取引が業務提供誘引販売取引に該当しないということはできない。

「したがって,被告の上記主張は採用することができない。」

「以上によれば,本件契約に係る取引は,開業初期費用や固定チャージ等を支払うなど特定負担を伴う,前記業務のあっせんに係る取引をするというものであり,業務提供誘引販売取引に該当する。」

コメント

本部は、加盟者が特定商取引法58条1項の「相手方」に該当しない理由として、「原告は,自宅をその業務のための事業所としているところ,これは本件契約時における初期投資費用を節約するためであって,決して原告の事業規模が,一般消費者が行う内職等の作業程度のものであることを示すものではない。」と主張しました。

要するに、加盟者が、形式的には「相手方」の要件に該当するとしても、実質的には保護すべき消費者ではない以上、加盟者に特定商取引法58条1項のクーリング・オフを認める必要はない、という主張です。

しかし、裁判所は、「原告は,被告から提供・あっせんされた「業務」を,肩書住所地の自宅(マンションの一室)で行うこととし,本件契約は,「事業所その他これに類似する施設によらないで行う個人との契約」に該当することが認められることなどに照らすと,原告が,特定商取引法のクーリングオフによる保護の必要はない者であるということはできない。」と判示しているとおり、「相手方」の該当性を、形式的に判断しました。

本件における「被告」は、「原告」の事業規模が多いことを示す具体的な事情を主張立証していませんので、実質的に判断しても結論は同じであったように思いますが、いずれにしても、特定商取引法58条1項が、「相手方」の要件を、事業規模(例えば、資本金●円以上)ではなく、事業所の所在地で決めることと」した以上、以上の判示になることはやむを得ないかと思います。

おわりに

以上、加盟者による特定商取引法に基づくフランチャイズ契約のクーリング・オフについて参考となる令和の裁判例を紹介しました。