フランチャイズ裁判例

フランチャイズ契約の新規契約件数の情報提供義務【fc-cases #21】

はじめに

(この記事は2021年6月18日に作成されたものです。)

フランチャイザー(以下「本部」といいます。)が、加盟希望者に対し、フランチャイズ契約の締結前に、新規契約件数の見込みについての情報を提供することがあります。

本部が加盟希望者に対して提供した情報は「客観的かつ正確な情報」でなければならず、「客観的かつ正確な情報」を提供すべき義務を「消極的情報提供義務」といいます。

フランチャイズ契約の締結後、フランチャイジー(以下「加盟者」といいます。)が新規契約件数の見込みを達成できなかった場合、本部は、消極的情報提供義務に違反したことになるのでしょうか。

この点につき参考となる令和の裁判例を紹介します。なお、裁判例の紹介に際しては、フランチャイズ契約の新規契約件数の情報提供義務に関する内容のみを抽出しており、この点と関連しない記載には言及していません。

東京地判令和2年10月9日2020WLJPCA10098013

事案の概要

「原告」は、加盟者であり、「美容サロン全般の店舗経営を主な目的とする株式会社」です。

「被告」は、本部であり、「移動サービスの提供,携帯端末の販売など,移動通信サービスに関する事業を目的とする株式会社」です。

「原告」と「被告」は、

①「被告」が、「原告」に対し、「被告の主宰するMVNO事業」における「移動体通信端末(携帯電話等),移動体通信サービス等」の販売の媒介に関する業務等を委託する「代理店契約」

②「原告が被告からスマホ(スマートフォンを指す。以下同じ。)総合サービス店の経営に関するノウハウの提供を受け,そのノウハウに従って独立事業者として店舗を運営するフランチャイズ契約」

を締結しました。

これらの契約の締結に先立ち、本部である「被告」は、加盟者である「原告」に対し、

「新規契約件数として月間200件を記載した事業計画書を提供したものの,その数値の根拠を示すことはなく,原告代表者から既存の店舗の数値を見せるよう求められてもこれに応じなかった」

「b店について月間200件から300件の契約が決まりそうであること,c店について現状の月間新規契約件数は60件であるが増加が予想でき,月間300件から400件までいけると思うこと等の見通しを示した」

「被告の代理店において月間200件の新規契約が締結されるのはごく例外的な場合であった」

という事情がありました。

争点

  1. 被告の情報提供義務違反の有無
  2. 過失相殺
  3. 損害額

加盟者(「原告」)の主張(争点①のみ)

「フランチャイズ契約においては,フランチャイザーとフランチャイジーとの間に,情報の質及び量並びに交渉力の著しい格差があるため,フランチャイザーは,フランチャイジーとなる者に対し,契約を締結するか否かの判断に影響を及ぼす事項についての情報提供義務を負っている。」

「本件各契約において,来店数,新規契約数及びこれらの数値に基づいた収益の見通しは,契約を締結するか否かの判断に最も影響を与える事項である。」

「しかし,被告は,原告に対し,本件各契約の締結に先立ち,何の根拠もなく,毎月800人の来店数,200回線の新規契約数が見込めるかのような事業計画を示し,最低でも毎月50回線の新規契約数が見込めるかのような説明を行ったが,これらの新規契約数は,他の既存店舗の実績に全く基づかない虚偽の数字であった。」

「したがって,被告は,本件各契約の締結に先立ち,信義則上の情報提供義務に違反したものであり,原告は,被告の説明に合理的な根拠がないとわかっていれば,本件各契約を締結しなかったから,被告は,原告に対し,民法709条に基づき,損害賠償責任を負う。」

本部(「被告」)の主張(争点①のみ)

「原告が示されたと主張する事業計画書(甲10。以下「本件事業計画書」という。)は,被告が原告に交付したテンプレートを基に原告が数値を入力して作成したものであり,被告が提示した数値ではないから,被告に情報提供義務違反はない。」

裁判所の主張

被告の情報提供義務違反の有無

「原告と被告は,スマホ総合サービス店の運営に関する本件各契約を締結したものであるところ,被告は,原告に対し,本件各契約の締結に際し,原告が経営しようとする店舗の売上げや収支予測について,客観的な根拠に基づく合理的な情報を提供すべき信義則上の義務を負っていたというべきである。」

「被告代表者が原告代表者に対し,b店の来店者数やc店の現状の月間新規契約件数につき虚偽の実績を伝えたとまでは認め難いものの,両店舗の新規契約件数が将来的に月間200件から300件あるいは300件から400件となるとするのは,当時の実績に基づく裏付けを欠き,楽観的にすぎる見通しであったというべきである。」

「原告と被告が本件各契約を締結するに当たり,被告が原告に客観的な根拠に基づく合理的な情報を提供していたということはできず,被告は,上記の信義則上の情報提供義務を怠ったというべきであるから,原告に対し,民法709条に基づき,損害賠償責任を負う。」

「以上に対し,被告は,本件事業計画書につき,被告が原告に交付したテンプレートを元に原告が数値を入力して作成したものであり,被告が提示した数値ではないから,被告に情報提供義務違反はないと主張する。」

「しかし,本件事業計画書や前記1(1)の店舗事業計画書には,被告代表者から原告代表者に送信又は交付がされた当初から,新規契約数として200件が記載されており,特に上記の各事業計画書がテンプレートであるとか,記載されている新規契約数が仮の数値である等の説明がされた形跡は認められず,同(4),(5)のとおり,被告代表者は,原告代表者の求めにより,金融機関向けの必要書類として,損益及び貸借の試算表等の書類を持って行くことを約束し,その上で本件事業計画書を原告に交付したのであるから,その提供を受けた原告としては,被告が提示した予測数値として理解するのが自然であるというべきであって,被告の上記主張を採用することはできない。」

過失相殺

「原告は,本件各契約を締結した上でスマホ総合サービス店を経営しようとしていたのであるから,自らも店舗の立地を検討し,競合する店舗の有無等について調査を行うなどして,被告の示した見通しのとおりの収益を期待することができるかにつき慎重に検討し,被告の示した見通しの根拠となる情報が提供されない場合には,本件各契約の締結自体を見送ることも検討する必要があったというべきである。」

「しかし,実際は,原告代表者から被告代表者に対して既存の店舗の数値を見せるよう求めたほかは,原告が自ら積極的に調査を行ったり,被告の示した見通しの合理性について検証をした形跡は認められず,むしろこれを安易に信頼して本件各契約を締結するに至ったというほかない。特に,前記2のとおり,本件においては,被告の示した見通しについて何らの根拠も示されていないに等しいのであるから,これを安易に信頼した原告の責任も相応に重いというべきである。

「したがって,本件各契約の締結に至ったことについては,原告にも相応の責任があるというべきであるから,本件においては,原告につき7割の過失相殺をすることが相当である。」

損害額

「加盟金」、「システム利用料」(本件店舗の営業を継続しても収益が得られないことを認識し得た時まで)、「店舗造作費用」、「本件店舗の賃料」、「光熱費,通信費,備品代等」、「弁護士費用」が損害として認定された。

 なお、「二次代理店システム開発費」(「原告が他の法人又は個人と二次代理店契約を締結して販路を拡大する二次代理店システム」の開発費用)については、「二次代理店システムを開発するか否かについては,本件各契約を締結するか否かとは全く別個の経営判断を伴うものであるから,原告が上記システム開発費用を支出したとしても,被告の情報提供義務違反と相当因果関係のある損害であると認めることはできない。」として否定された。

コメント

「原告と被告は,スマホ総合サービス店の運営に関する本件各契約を締結したものであるところ,被告は,原告に対し,本件各契約の締結に際し,原告が経営しようとする店舗の売上げや収支予測について,客観的な根拠に基づく合理的な情報を提供すべき信義則上の義務を負っていたというべきである。」と判示されているとおり、新規契約件数の見込みに関する情報の提供について、本部に消極的情報提供義務があることが認められています。

判示からは、その理由についての説明はありませんが、加盟者である「原告」が主張するとおり、「本件各契約において,来店数,新規契約数及びこれらの数値に基づいた収益の見通しは,契約を締結するか否かの判断に最も影響を与える事項である。」ことが当然の前提となっているものと思われます。

そして、本件を前提とすると、本部が加盟者に対して提供した新規契約件数の見込みが、既存の加盟者において達成することが「ごく例外的な場合」である場合は、その他にこれを裏付ける客観的な根拠がなければ、情報提供義務違反であるとされる可能性が高い、ということになります。

他方で、本件においては、本部による情報提供が「当時の実績に基づく裏付けを欠き,楽観的にすぎる見通しであった」ものの、「被告の示した見通しについて何らの根拠も示されていないに等しいのであるから,これを安易に信頼した原告の責任も相応に重い」として、7割の過失相殺がされました。

「自らも店舗の立地を検討し,競合する店舗の有無等について調査を行うなどして,被告の示した見通しのとおりの収益を期待することができるかにつき慎重に検討し,被告の示した見通しの根拠となる情報が提供されない場合には,本件各契約の締結自体を見送ることも検討する必要があった」と判示されています。現実に加盟者がこのような調査、検討を実施できるかは疑問ですが、独立の事業者である以上、安易に本部から提供を受けた情報を鵜吞みにしてはいけないことが改めて分かるものとなっています。

おわりに

以上、フランチャイズ契約の新規契約件数の情報提供義務につき参考となる令和の裁判例を紹介しました。