フランチャイズ裁判例

フランチャイズ契約における競業避止義務と法人格否認の法理【fc-cases #23】

はじめに

(この期日は2021年7月9日に作成されたものです。)

フランチャイズ契約において、フランチャイザー(以下「本部」といいます。)が、フランチャイジー(以下「加盟者」といいます。)に対し、契約期間中及び契約終了後一定期間、一定の場所において、同種又は類似の事業を営んではならないとの義務(以下「競業避止義務」といいます。)を課すことが多いです。

また、加盟者が個人である場合は、この競業避止義務の内容に、加盟者(個人)が競業行為を行う場合のみならず、加盟者(個人)の支配関係にある者をして競業行為をさせた場合や、加盟者(個人)が競業行為を行う法人の役員又は重要な従業員に就任する場合も含まれることが多いです。

しかし、フランチャイズ契約において、競業避止義務の内容が「フランチャイジーは、フランチャイズ契約存続期間中及びその終了後●年間は、本事業と同種もしくは類似の事業を行ってはならない。」とのみ規定されているとすると、加盟者(個人)が設立した法人が競業行為を行っても、競業避止義務に違反しないのではないか、という疑義が生じます。

このような場合に、本部は、法人が加盟者(個人)と別個独立の法人格を有していることを否認して(このような法人の主張を「法人格否認の法理」といいます。)、法人の行為=加盟者(個人)の行為とみなし、法人の行為が競業行為に該当することをもって、加盟者(個人)が競業避止義務に違反したと主張することがあります。

それでは、どのような場合に、本部が主張する「法人格否認の法理」が認められるのでしょうか。

この点につき参考となる令和の裁判例を紹介します。なお、裁判例の紹介に際しては、フランチャイズ契約における競業避止義務と法人格否認の法理に関する内容のみを抽出しており、この点と関連しない記載には言及していません。

東京地判令和3年1月25日2021WLJPCA01258002

事案の概要

「原告」は、本部であり、「建造物内外装・車両・家具等の補修・清掃・保守の各事業やその各事業に係わるフランチャイズチェーン店の加盟店募集・指導業務等を営む株式会社」です。

 「被告Y1」は、個人の加盟者であり、「原告」との間で、各種フランチャイズ契約を締結し、各種フランチャイズ契約に基づき、「車両や家具等の補修(リペア)・清掃(クリーニング)・着色(カラーリング)等の事業(以下「リペア事業等」という。)を行ってきた者」です。

「被告会社」は、加盟者ではありませんが、「被告Y1の住所地を本店所在地,被告Y1を代表取締役として設立され,自動車の内装補修・整備・ボディコーティング・ルームクリーニング及び家具の補修等の各事業を営む株式会社」です。

本件は、「原告」が、「被告Y1」が月会費の支払を怠ったことから各種フランチャイズ契約を全部解除したが、その後も「被告Y1」が「被告会社」名義でインテリアリペア事業及びホイールリペア事業を行うことで、競業禁止条項に反した行為を行っていると主張して、「被告ら」に対し、競業の禁止と違約金を請求した事案です。

争点

法人格否認の法理により、被告会社の法人格は否定されるか

本部(「原告」)の主張

 「フランチャイズ契約の当事者である個人と同契約の当事者ではない法人が実態として同一であると認められ,かつ,フランチャイズ契約の当事者である個人に,同契約の当事者ではない法人を利用することで同契約上の義務違反による責任を潜脱しようとする意図があると認められる場合には,当該法人の法人格を否認することが相当である。」

「被告会社は,被告Y1の住所地を本店所在地として,本件2契約における被告Y1の事業と同一の自動車のボディコーティング,家具補修等を業として設立された会社であって,唯一の取締役も被告Y1であり,実際に上記事業の作業を行っているのも被告Y1である。被告会社で使用されている電話番号は,被告Y1が原告に届け出ていた番号と同一であり,被告Y1が被告会社の代表者として発行している名刺に記載された携帯番号と,被告Y1が個人事業をしていた際の携帯番号も一致している。以上からすれば,被告Y1と被告会社は実態として同一であることは明らかである。」

「また,被告Y1は,本件2契約終了以前に被告会社を設立し,同社名義で,本件2契約所定の商標を使用せず,本件2契約における被告Y1の事業と同一の事業を行っていたこと,被告Y1は,被告会社を設立した後に原告に対して本件2契約の解除の意思表示をし,月会費を支払わなくなったことからすれば,被告Y1が本件2契約上の義務を潜脱する目的で被告会社を設立したことは明らかである。」

「以上からすれば,法人格が異なることを理由に,実際は被告Y1が行っている競業行為について,本件2契約における本件競業禁止条項や本件違約金条項が適用されないとすることは,正義・公平の理念に反することが明白であるから,本件では被告会社の法人格は否認されるというべきである。」

加盟者等(「被告ら」)の主張

 「被告Y1と被告会社は法人格が別であり,法人格否認の法理の要件を満たしていない。」

裁判所の判断

法人格が全くの形骸にすぎない場合,又はそれが法律の適用を回避するために濫用されているような場合においては,法人格を認めることは,法人格の本来の目的に照らして許されないものというべきであり,法人格を否認すべきである(最高裁判所昭和43年(オ)第877号同44年2月27日第一小法廷判決・民集23巻2号511頁参照)。

「前記1(4)及び(5)によれば,被告会社の設立時の本店所在地が被告Y1の住所地であり,被告会社として行われたリペア事業等の作業場所は,当初は被告Y1が個人事業者として作業していた場所であったこと,被告会社は設立の約1年後に本店所在地を移転させているが,移転先も本件各契約の契約エリア内である香川県高松市内であること,顧客向けに公開している電話番号も被告Y1が個人事業を行っていたときから変更していないこと,リペア事業等の作業も引き続き被告Y1のみが担当し,従業員が1名増えたのは被告会社としてのリペア事業等を開始した約3年後であったこと,以上の事実が認められるから,被告会社の設立の前後で,被告Y1が行っていた事業の形態に実質的な変化は生じていないといえる。このような場合において,被告会社が被告Y1と法人格が異なることをもって,被告Y1が本件各契約上のフランチャイジーの義務を免れると解することは,法人格の濫用といわざるを得ない。」

「したがって,被告会社は,原告との間では,その法人格は否認されるというべきである。」

コメント

「法人格が全くの形骸にすぎない場合」(法人格の形骸化)又は「それが法律の適用を回避するために濫用されているような場合」(法人格の濫用)に、法人格が否認されることは、最高裁判例(最判昭和44年2月27日民集23巻2号511頁)により確立された裁判実務です。

そして、本件のように、競業避止義務を負う者が法人を利用して競業避止義務の潜脱を試みる事案では、「それが法律の適用を回避するために濫用されているような場合」(法人格の濫用)に該当するか否かが問題となります。

フランチャイズ契約における競業避止義務違反の文脈では、本件において判示されているとおり、「被告会社の設立の前後で,被告Y1が行っていた事業の形態に実質的な変化」の有無により判断されます。

より具体的には、本件では、

  • 加盟者(個人)の住所と法人の本店所在地の関係
  • 加盟者(個人)の営業所と法人の事業所の関係
  • 加盟者(個人)の連絡先と法人の連絡先の関係
  • 法人において加盟者(個人)以外の役員・従業員の有無及びその業務内容

に実質的な変化がないことをもって、法人の法人格が否認されています。

本部の立場からすれば、このような場合も競業行為に該当するとして禁止したいのであれば、フランチャイズ契約において、加盟者(個人)の支配関係にある者をして競業行為をさせた場合や、加盟者(個人)が競業行為を行う法人の役員又は重要な従業員に就任する場合も含むことを明記するべき、ということになります。

また、加盟者の立場からしても、フランチャイズ契約の締結時において、この点が不明確であれば、本部に確認することが望まれますし、事後的に、法人格を否認されないようにするためには、以上の点に留意して、「事業の形態に実質的な変化」があることが明確な形式を整えるようにする必要があります。

おわりに

以上、フランチャイズ契約における競業避止義務と法人格否認の法理につき参考となる令和の裁判例を紹介しました。