フランチャイズ裁判例

フランチャイズ契約解除の有効性(信頼関係の破壊)【fc-cases #19】

はじめに

(この記事は2021年6月13日に作成されたものです。)

契約の解除について、民法は、以下のとおり、催告が必要な解除(民法541条)と催告が不要な解除(民法542条)を規定しています。これらの民法上認められる解除権を「法定解除権」といいます。

(催告による解除)

第五百四十一条 当事者の一方がその債務を履行しない場合において、相手方が相当の期間を定めてその履行の催告をし、その期間内に履行がないときは、相手方は、契約の解除をすることができる。ただし、その期間を経過した時における債務の不履行がその契約及び取引上の社会通念に照らして軽微であるときは、この限りでない。

(催告によらない解除)

第五百四十二条 次に掲げる場合には、債権者は、前条の催告をすることなく、直ちに契約の解除をすることができる。

 債務の全部の履行が不能であるとき。

 債務者がその債務の全部の履行を拒絶する意思を明確に表示したとき。

 債務の一部の履行が不能である場合又は債務者がその債務の一部の履行を拒絶する意思を明確に表示した場合において、残存する部分のみでは契約をした目的を達することができないとき。

 契約の性質又は当事者の意思表示により、特定の日時又は一定の期間内に履行をしなければ契約をした目的を達することができない場合において、債務者が履行をしないでその時期を経過したとき。

 前各号に掲げる場合のほか、債務者がその債務の履行をせず、債権者が前条の催告をしても契約をした目的を達するのに足りる履行がされる見込みがないことが明らかであるとき。

(以下略)

民法

以上に対し、フランチャイズ契約においては、フランチャイジー(以下「加盟者」といいます。)に、民法542条1項各号以外の一定の事由が生じた場合でも、フランチャイザー(以下「本部」といいます。)が「何らの催告を要するすることなく直ちに本契約を解除できる」と規定されることが通常です。フランチャイズ契約において本部に認められたこの権利を「約定解除権」といいます。

この「一定の事由」には、軽重様々なものが列挙されますが、例えば、「加盟者がロイヤリティ等の支払を1回でも怠ったとき」と規定されている場合に、本部が、加盟者が1回でもロイヤリティ等の支払を怠れば、直ちにフランチャイズ契約を解除することができるのでしょうか。

この点につき参考となる令和の裁判例を紹介します。なお、裁判例の紹介に際しては、フランチャイズ契約解除の有効性に関する内容のみを抽出しており、この点と関連しない記載には言及していません。

大阪地判令和2年9月23日労経速2440号3頁

事案の概要

「債権者」は、本部であり、「コンビニエンスストアを事業展開している株式会社」です。

「債務者」は、加盟者であり、本部とフランチャイズ契約を締結し、「本件建物」でコンビニエンスストアを経営していた者です。

「本件建物」は、本部である「債権者」が所有しており、「債権者」は、フランチャイズ契約に基づき、これを加盟者である「債務者」に賃貸していました。

この事件は、「債権者」が申し立てた「第1事件」と、「債務者」が申し立てた「第2事件」がありますが、ここでは、フランチャイズ契約解除の有効性に関する判断がなされた「第1事件」を取り上げます(「第2事件」は本部による独占禁止法違反の有無が問題となりました。)。

「第1事件」は、「債権者が,上記フランチャイズ契約が解除されたことにより,債務者は本件建物の占有権原を喪失したにもかかわらず,本件建物を占有していると主張して,債務者に対し,本件建物の所有権に基づく建物引渡請求権を被保全権利として,本件建物を仮に引き渡すことを申し立てた事案」です。

なお、民事訴訟を提起し、判決を取得し、当該判決に基づく強制執行をするには相応の時間を要し、事案によっては、これらの手続きを経ていては、債権者に「著しい損害」等が発生してしまうこともあります。そこで、民事保全法は、「債権者に生ずる著しい損害又は急迫の危険を避ける」ために必要である場合に、民事訴訟よりも簡易・迅速な手続きにより、「仮の地位を定める仮処分命令」を発することを認めています(民事保全法23条2項)。この仮処分命令を申し立てた者を「債権者」(民事訴訟の「原告」)、申し立てられた者を「債務者」(民事訴訟の「被告」)といいます。

本件では、本部は、加盟者に対し、建物明渡請求訴訟を提起することもできましたが、それでは本部に「著しい損害」が発生するとして、「本件建物」の明渡しを求める仮処分の申立てを行っています。

争点

債権者によるフランチャイズ契約解除の有効性

本部の主張

 「(1) フランチャイズ契約に基づき,フランチャイザーが,フランチャイジーの行為が約定解除事由に該当することを理由に,契約を解除することができるのは,フランチャイジーの行為が約定解除事由に該当し,かつ,これにより両者間の信頼関係が破壊され,契約の継続を期待し難い重大な事態に陥っている場合である。

「 (2) 上記1(債権者の主張)のとおり,債務者による異常な顧客対応や債権者及びその取締役らに対する誹謗中傷は,いずれも約定解除事由に該当するものである上,債権者が債務者に対して繰り返し顧客対応の是正,改善を要請してきたにもかかわらず,債務者がこれを拒否し異常な顧客対応を継続していたことなども併せ考慮すると,債務者の上記各行為によって,債権者・債務者間の信頼関係は破壊され,契約の継続を期待し難い重大な事態に陥っていたといえる。」

加盟者の主張

 「(1) 債権者・債務者間の信頼関係が破壊され,契約を存続し難い重大な事態に陥っているとの点は否認ないし争う。」

裁判所の判断

 「本件各ツイートが正当な論評の域を逸脱して債権者及びその取締役らを誹謗中傷等するものや債権者の社会的信用を低下させ得るものであることに加え,債権者と契約関係にある債務者が実名を用いて本件各ツイートをしていること,本件各ツイートはツイッターという一般に広く利用されているソーシャルネットワーキングサービス上でされたものであり,その内容は広く伝播されたと認められること,以上の点を併せ考慮すると,本件各ツイートは,全体として,不特定多数の者に対し,債権者について否定的な印象を与えるものであって,その信用を低下させるものであると認められる。」

「(1)  上記2で述べたとおり,債務者による本件各顧客対応及び本件各ツイートの投稿は,いずれも本件フランチャイズ契約の解除事由に該当するものであるから,その存在自体が債権者・債務者間の信頼関係が破壊されていることを基礎付ける一事情であるといえる。この点に加え,①債務者は,平成31年2月及び令和元年8月に,債権者の担当者や取締役から,顧客対応の問題を指摘され,改善するように求められていた(認定事実(6),(7))にもかかわらず,自身の顧客対応に問題はないとの認識を示し続け,その後も顧客に対する暴力を含む「フレンドリーサービス」に反する顧客対応を繰り返していたこと,②同年12月20日の債権者の担当者等との面談の際も,債権者の担当者等に自身の主張を述べるのみで,自らの顧客対応を省みようとする態度を示さなかったこと(認定事実(10)),③債務者自身が,ツイッターに「既にもうお互い信頼関係は崩れています。」などとツイートし(本件ツイート目録記載14),債権者を信頼していないと公言していたこと,以上の点が認められ,これらの点からすると,債務者の債権者への対応は,全体として,契約当事者としての誠実さを欠くものといわざるを得ず,債権者・債務者間の信頼関係を破壊するに足りるものと認められる。

「(3)  以上によれば,債権者が本件催告兼通知書による催告をした時点で,債権者・債務者間の信頼関係は破壊されていたと認められる。」

コメント

信頼関係の破壊の要否

前提として、継続的契約の一種である賃貸借契約の約定解除権の行使について、判例は、以下のとおり判示し、解除事由の存在に加え、それによる信頼関係の破壊まで必要であるとの立場に立っています。これは、継続的契約の解消は一方当事者に多大な影響を与え得るものであり、それにもかかわらず軽微な違反をもって一律に契約の解消を認めることが酷であるとの価値判断が前提にあります。

「一般に、建物所有を目的とする土地の賃貸借契約中に、賃借人が賃貸人の承諾をえないで賃借地内の建物を増改築するときは、賃貸人は催告を要しないで、賃貸借契約を解除することができる旨の特約(以下で単に建物増改築禁止の特約という。)があるにかかわらず、賃借人が賃貸人の承諾を得ないで増改築をした場合においても、この増改築が借地人の土地の通常の利用上相当であり、土地賃貸人に著しい影響を及ぼさないため、賃貸人に対する信頼関係を破壊するおそれがあると認めるに足りないときは、賃貸人が前記特約に基づき解除権を行使することは、信義誠実の原則上、許されないものというべきである。」(最判昭和41年4月21日民集20巻4号720頁)

そして、同じく継続的契約の一種であるフランチャイズ契約の約定解除権の行使についても、裁判例は、以下のとおり、解除事由の存在に加え、それによる信頼関係の破壊まで必要であるとの立場に立っています。

「フランチャイズ契約は、フランチャイズチェーンの本部機能を有する事業者(フランチャイザー)が、その加盟店となる他の事業者(フランチャイジー)に対し、一定の店舗ないし地域内で、自己の商標、サービスマーク、トレードネームその他の営業の象徴となる標識及び経営のノウハウを用いて事業を行う権利を付与することを内容とする継続的契約である。フランチャイジーとなる事業者は、独立の事業者ではあるものの、店舗経営の知識や経験に乏しく、資金力も十分でないことが多く、蓄積されたノウハウや専門的知識を有するフランチャイザーがこうしたフランチャイジーを指導、援助することが予定されており、フランチャイザーは、信頼関係に基づきフランチャイジーの経営の指導、援助に当たることが要請されるものである。このように契約当事者間の信頼関係を基礎に置く継続的契約であるフランチャイズ契約においては、本件の被告●●のような行為は、原告との間の信頼関係を破壊するものとして、本件契約を継続しがたい重大な事由であるといわざるを得ない。そうすると、原告主張の本件契約の解除は、約定解除事由を認めることができるから、有効なものであるといわなければならない。」(東京地判平成11年5月11日判タ1026号211頁)

「コンビニエンスストアのフランチャイズ契約においては、契約が相当長期間にわたって存続することを想定して、本部が各加盟店に対して継続的に経営指導、助言や情報提供等を行い、各加盟店がこれを受けて店舗経営に専念し、その収益金の一郎等を本部に支払う形でコンビニエンスストア事業を展開することが予定されている。上記契約の各当事者は、相互の信頼関係の下にそれぞれの契約上の義務を履行することが求められている。このように、相互の信頼関係を前提とし、コンビニエンスストアの継続的な事業展開を内容とするフランチャイズ契約の性質に鑑みると、本件契約の当事者が、相手方の契約上の義務違反を理由にその契約を解除するには、当該義務の内容や性質、義務違反の具体的態様及び程度等を総合的に勘案して、本部・加盟店間の信頼関係の破壊によりフランチャイズ契約を継続し難いと認められる事情が備わって、本件契約41条2項、42条2項にいう「重大な違背」にあたると解される。」(東京地判平成14年10月16日2002WLJPCA10160006)

本件においても、本部である「債権者」の側から、「フランチャイズ契約に基づき,フランチャイザーが,フランチャイジーの行為が約定解除事由に該当することを理由に,契約を解除することができるのは,フランチャイジーの行為が約定解除事由に該当し,かつ,これにより両者間の信頼関係が破壊され,契約の継続を期待し難い重大な事態に陥っている場合である。」との主張しているのも、以上の確立した裁判実務を前提としているからです。

信頼関係の破壊の判断方法

前述のとおり、継続的契約の約定解除権の行使に、信頼関係の破壊まで必要されているのは、継続的契約の解消は一方当事者に多大な影響を与え得るものであり、それにもかかわらず軽微な違反をもって一律に契約の解消を認めることが酷であるとの価値判断が前提にあるからです。

したがって、ここでいう「信頼関係の破壊」は、「もはや相手のことを信用することができない」といった主観的な問題ではなく、契約関係を維持することができない程度の違反があったか否かが問題となります。そして、その有無は「当該義務の内容や性質、義務違反の具体的態様及び程度等を総合的に勘案して」判断されることになります。

フランチャイズ・チェーンの信用毀損

フランチャイズ・チェーンの信用を毀損する行為については、以下の裁判例のように、それが継続的に行われ、かつ、今後も継続する可能性が高い場合に「信頼関係の破壊」が肯定された事例がありました。

「本件において、●●及び●●夫婦は、本件店舗の経営に専従していたのであるから、本件契約が解除されると、それまでの投下資本がほとんど無駄となり、唯一の収入を失うことにつながることになる。この点を考慮すると、●●イメージを毀損したことを理由として、本件契約を解除するについては、単に一回限りの●●イメージ毀損行為があっただけでは足りず、一定の要請や警告をしたにもかかわらず、●●イメージ毀損行為が続き、今後も続く可能性が高いといった当事者間の信頼関係が破壊されたといえる事情が認められることが必要であると解すべきである。」(名古屋高判平成14年5月23日裁判所ウェブサイト)

これに対し、本件において、裁判所は、フランチャイズ・チェーンの信用を毀損する行為が今後も継続する可能性には言及しておりませんが、代わりに「債権者を信頼していないと公言していたこと」といった事後的な事情に言及しており、これらを総合考慮して「信頼関係の破壊」を認定している点が参考になります。

さいごに

以上、フランチャイズ契約解除の有効性につき参考となる令和の裁判例を紹介しました。