フランチャイズ

フランチャイズ契約における競業避止義務【franchise #18】

はじめに

(この期日は2021年7月12日に作成されたものです。)

フランチャイズ契約において、フランチャイザー(以下「本部」といいます。)が、フランチャイジー(以下「加盟者」といいます。)に対し、契約期間中及び契約終了後一定期間、一定の場所において、同種又は類似の事業を営んではならないとの義務(以下「競業避止義務」といいます。)を課すことが多いです。

以下では、

  1. フランチャイズ契約において競業避止義務が規定される目的は何か
  2. 競業避止義務は常に有効になるのか(どのような場合に無効になるのか)
  3. 競業避止義務を規定する場合の留意点は何か
  4. フランチャイズ契約において規定されない場合は競業避止義務は発生しないか
  5. 競業避止義務に違反した場合の効果は何か
  6. 競業避止義務に違反した場合の違約金は常に有効になるのか(どのような場合に無効になるのか)

について説明します。

フランチャイズ契約における競業避止義務の目的(①)

フランチャイズ契約において競業避止義務が規定される目的としては、

  1. 営業秘密の保護
  2. 顧客・商圏の確保

が挙げられ、最新の裁判例においても、「フランチャイズ事業の運営上のノウハウや商圏を保護するために,フランチャイズ契約終了後に元フランチャイジーが競業を行うことを禁止する旨の競業禁止条項を設けることも許される」(東京地判令和3年1月25日2021WLJPCA01258002)と判示されています(東京地判令和元年9月11日2019WLJPCA09118005、東京地判令和元年11月28日2019WLJPCA11288023、東京地判令和3年1月25日2021WLJPCA01258002も同旨。)。

営業秘密の保護

フランチャイズ契約を締結すると、本部は、加盟者に対し、ノウハウ等の営業秘密を提供し、その対価として、加盟者から、ロイヤリティ等を受領します。

ここで、加盟者が、競業避止義務を負うことなく、自由にフランチャイズ契約の対象となる事業と同種又は類似の事業を営むことができるとすると、加盟者は、本部にロイヤリティ等を支払うことなく、当該事業において、本部から提供を受けた営業秘密を使用できることになります。

これを本部の目から見ると、自らの営業秘密が、対価を得ることなく、使用又は流出することを意味しますので、本部としては、加盟者に競業避止義務を課すことで、自らの営業秘密を保護することができることになります。

顧客・商圏の保護

加盟者は、フランチャイズ契約において本部から使用を許諾された商標を使用して顧客を獲得したり、本部から提供を受けたノウハウ等の営業秘密を使用して商圏を確保します。

ここで、加盟者が、競業避止義務を負うことなく、自由にフランチャイズ契約の対象となる事業と同種又は類似の事業を営むことができるとすると、加盟者は、本部の商標・営業秘密を使用して獲得した顧客・商圏をそのまま獲得できることになります。

これを本部の目から見ると、本部は、自らの商標・営業秘密により獲得した顧客・商圏が加盟者に奪取されることを意味しますので、本部としては、加盟者に競業避止義務を課すことで、これらの顧客・商圏を保護することができることになります。

競業避止義務の有効性(②)

裁判例において、「競業の禁止は,フランチャイジーの職業選択の自由ないし営業の自由を制限するものであるから,その制限の範囲は必要かつ相当なものに限られるというべきであり,その限度を超える場合には,競業禁止条項は公序良俗に反し無効となるといわざるを得ない。」(東京地判令和3年1月25日2021WLJPCA01258002)と判示されているとおり、競業避止義務の目的を超える過度な制約は無効となります。

また、公正取引委員会の「フランチャイズ・システムに関する独占禁止法上の考え方」(いわゆる「フランチャイズ・ガイドライン」)において、「本部が加盟者に対して,特定地域で成立している本部の商権の維持,本部が加盟者に対して供与したノウハウの保護等に必要な範囲を超えるような地域,期間又は内容の競業禁止義務を課すこと。」とあるように、競業避止義務の目的を超える過度な制約は、民事上無効となるだけではなく、優越的地位の濫用(独占禁止法2条9項5号)に該当し、独占禁止法に違反することにもなります。

競業避止義務条項の留意点(③)

フランチャイズ契約において競業避止義務を設定する場合は、本部は、競業避止義務の目的を超える過度な制約とならないようにする必要があり、具体的には、①禁止される業務の範囲、②禁止される場所及び③禁止される期間を適正なものにする必要があります。

禁止される業務の範囲

フランチャイズ契約おける競業避止義務の目的が営業秘密の保護と顧客・商圏の保護にある以上、本部が加盟者に提供したノウハウ等の営業秘密を使用する可能性がない業務や、顧客・商圏の奪取に繋がる可能性のない業務についてまで禁止の範囲に含めることは許されません。

禁止される場所

同様に、禁止される場所についても、加盟者が禁止される業務を実施することにより、本部の顧客・商圏の奪取に繋がる可能性のある場所に限定されることになりますので、およそ禁止される場所についての限定をしないことや、特定の地域にしか商圏が設定されていないにもかかわらず「日本全国」とすることは許されません。

もっとも、このような場合、直ちに競業避止義務自体が無効となるわけではなく、裁判所において、禁止される場所を限定し、その範囲内での競業避止義務は有効と解されます(例えば、東京地判令和3年1月25日2021WLJPCA01258002では、禁止される場所の限定がありませんでしたが、商圏を「香川県高松市内」と設定し、これを超える範囲での競業避止義務のみが無効であると解されました。)。

禁止される期間

フランチャイズ契約において、競業避止義務が課される平均的な期間は、契約終了後2年間とされていますが(経済産業省「フランチャイズ・チェーン事業経営実態調査報告書」28頁(平成20年3月))、これはあくまでも平均であり、2年以上であれば無効となるわけではありません。

現に、従前より、フランチャイズ契約終了後5年間の競業避止義務を有効とした裁判例も存在していたなかで(大阪地判平成22年5月27日判時2088号103頁)、以上の裁判例も、フランチャイズ契約終了後5年間の競業避止義務を有効としました。

前述のとおり、競業避止義務条項の有効性は、禁止される期間のみで決まるわけではありませんが、フランチャイズ契約終了後5年間は、感覚としては限界ラインと考えられるのではないかと思います。

また、禁止される期間の起算点についても、フランチャイズ契約の終了の日の翌日とするのか、競業避止義務違反行為の終了時とするのか(競業避止義務違反行為をしている間は期間が経過しないようにするのか)を決めておく必要があります。

なお、後者(競業避止義務違反行為の終了時)とした場合でも競業避止義務条項が有効であるとされた事例として、東京地判令和元年11月28日2019WLJPCA11288023があり、後者であることを明文化していなかった場合に、起算点が前者(フランチャイズ契約の終了の日の翌日)であると認定された事例として、東京地判令和3年1月25日2021WLJPCA01258002があります。

明文の規定のない競業避止義務(④)

フランチャイズ契約において競業避止義務を規定していない場合、原則として、契約終了後に加盟者が競業避止義務を負うことはありません。

この点については、最新の裁判例においても、「競業者同士が提携関係にある状況においては,提携によって利益を得つつ,一方が他方を出し抜いて自己の営業上の利益のみを追求する行動に出ることは,信義則に反すると評価される場合があり得ると考えられる。そのような場合,信義則上相互に競業避止義務を負うと説明することもできるであろう。しかし,提携関係が解消された後においては,両者とも営業の自由を有するのであるから,競業避止義務について特に合意をしたのでない限り,自由競争の範囲内において自己の営業上の利益を追求して競業することが妨げられることはないのであって,一方が他方に対し信義則上競業避止義務を負うということはできない。」(大阪高判令和元年7月25日裁判所ウェブサイト)と判示されています。

もっとも、エリアフランチャイズの事案ではありますが、

  1. 本部と加盟者が長期にわたるフランチャイズ契約の関係にあったこと
  2. 加盟者が本部のフランチャイズ・チェーン屈指のエリアフランチャイザーであったこと
  3. フランチャイズ契約に契約期間中に加盟者が類似営業を行わないとの合意が存在したこと
  4. フランチャイズシステムを始めたのは本部であり、エリアフランチャイザーである加盟者は、本部が既に一定の成功を収めた事業のコンセプトやノウハウ等について情報の開示を受け、この無形の財産を使用することによって営業を行ってきたものであり、契約終了後の競業避止義務が全くないとすれば、加盟者は、本部から開示を受けたノウハウ等を利用して契約終了の日の翌日からでも別のフランチャイズシステムを構築して事業を展開することができ、これでは本部が甚大な損害を被ることとなり、本部が築いた無形の財産の保護にも欠けることとなること
  5. 別のエリアフランチャイザーとは、契約終了後1年間の競業避止義務を合意して、本部の営業を保護する措置を講じていること
  6. 加盟者においても、本部のフランチャイズシステムを維持するためには契約終了後1年間程度の競業避止義務が必要であるとの認識を有していること
  7. フランチャイズ契約において、加盟者の競業避止義務の発生を阻止する明文の規定は存在しないこと

を理由に、信義則上、エリアフランチャイズのテリトリー内において、1年間、フランチャイズシステムと同じ事業を、いかなる名称や態様によっても行わないとの競業避止義務の存在を認めたものがあります(東京高判平成20年9月17日判時2049号21頁)。

エリアフランチャイズではない、通常のフランチャイズ契約においても、上記④に該当するような事情が認められる場合には、信義則上の競業避止義務が認められる場合はあるように思います。

競業避止義務違反の効果(⑤)

加盟者が競業避止義務に違反した場合、本部は、加盟者に対し、

  1. 禁止される業務の差止請求
  2. 損害賠償請求

をすることができます。

違約金条項の有効性(⑥)

加盟者が競業避止義務に違反した場合、本部は、加盟者に対し、損害賠償請求をすることができますが、この場合、本部は、加盟者の競業避止義務違反と相当因果関係にある損害及び損害額を主張立証しなければなりません。

しかし、フランチャイズ契約において対象となる事業により本部が得る利益は、様々な要因に左右され、仮に本部の利益が減少したとしても、その全額が加盟者が競業避止義務に違反したことにより生じたものであることを立証することは非常に困難です。

そこで、予め、競業避止義務に違反した場合の違約金の金額又は算定方法を規定する違約金条項が設けられることが多いです。

もっとも、違約金の金額を恣意的に決定することは許されず、フランチャイズ契約において違約金条項が存在するとしても、「適正な違約金額を超える部分」は無効となります。

裁判例には「ロイヤリティ平均月額の30か月分」の範囲で違約金を認めるものが相当数ありますので(東京地判平成6年1月12日判タ860号198頁等)、裁判所において「ロイヤリティ平均月額の30か月分」が一つの基準となっているのかもしれません。

もっとも、「ロイヤリティ平均月額の30か月分」を超えれば直ちに無効となるわけではなく、本件においても、「競業を抑止する効果」を持たせるものとして、競業避止義務条項が有効となる3年間(36か月)のロイヤリティ(及び権利金)相当額が違約金として認められています。

おわりに

以上、フランチャイズ契約における競業避止義務について説明しました。