契約書チェック

契約不適合責任条項のチェックポイント(売買契約書)【legal-check #1】

はじめに

(この記事は2021年3月21日に作成されたものです。)

売買契約の目的物が契約の内容に沿ったものでなかった場合の処理について、予め売買契約書において適切に規定しておかなければ、後日、その処理を巡り当事者間で紛争に発展する可能性があります。

改正民法が2020年4月1日に施行され、瑕疵担保責任が契約不適合責任となりましたが、売買契約書のチェックにおける重要度に変わりはありません。

以下では、契約不適合責任条項のサンプルを用い、どのようなポイントをチェックする必要があるかを整理し、買主及び売主双方の立場から、具体的な修正案を検討したいと思います。

サンプル

(契約不適合責任)                                         第●条 本件商品が種類、品質又は数量に関して本契約の内容に適合しないもの(以下「契約不適合」という。)であるときは、買主は、売主に対し、履行追完請求、代金減額請求、損害賠償請求又は解除をすることができる。

2 買主は、契約不適合を知った時から1年以内にその旨を売主に通知しないときは、当該契約不適合を理由として、前項の各請求をすることができない。

チェックポイント

  1. 契約不適合責任条項の要否
  2. 契約不適合の定義
  3. 履行追完の方法
  4. 代金減額請求の要件
  5. 権利行使期間
  6. 損害賠償の範囲及び上限
  7. 権利行使期間経過後の対応

①契約不適合責任条項の要否

契約不適合責任を定める民法562条以下の規定は、契約当事者の合意によって排除できない強行規定ではありません(任意規定です)ので、売主の契約不適合責任を免除する旨の条項も原則として有効となります。

そこで、売主としては、売主の契約不適合責任を免除する旨の条項の挿入を検討することが考えられます。

ただし、当該免除条項が存在しても、売買契約の締結時に売主が契約不適合を「知りながら告げなかった」場合は、売主は当該契約不適合についての責任を免れることができないことは注意が必要です(民法572条)。なお、買主が消費者である場合は、消費者契約法8条2項により当該免除条項が無効となる可能性があることにも注意する必要があります。

また、民法は、契約不適合が買主の責めに帰すべき事由による場合(例えば、買主の指示や買主が提供した原材料に問題があり、目的物に欠陥が生じた場合)には、買主による履行追完請求は認めていません(民法562条2項)。そこで、売主としては、売主の契約不適合責任を免除する旨の条項の挿入は難しくとも、この点を確認する旨の文言の挿入を検討することが考えられます。

売主の修正案その1

(契約不適合責任)                                                            買主及び売主は、売主が買主に対して契約不適合責任を一切負わないことを確認する。

売主の修正案その2

第●条 本件商品が種類、品質又は数量に関して本契約の内容に適合しないもの(以下「契約不適合」という。)であるときは、買主は、売主に対し、履行追完請求、代金減額請求、損害賠償請求又は解除をすることができる。ただし、契約不適合が買主の責めに帰すべき事由によるものであるときは、買主は、売主に対し、これらの請求をすることはできない。

②契約不適合の定義

民法において、契約不適合は「引き渡された目的物が種類、品質又は数量に関して契約の内容に適合しないものであるとき」(民法562条1項)と定義されており、実際の売買契約書においても同様の表現が用いられることが多いです。

しかし、特に「品質」につきましては、どのような性質、性能、形状等を備えたものが「契約の内容」となっているかが一義的に明らかにならず、売買契約書において合意された「品質」とは何か、から紛争となることもあります。

買主であっても、売主であっても、仕様書、規格書その他の書面により「品質」の内容を特定することができるのであれば、売買契約書においてもその旨明記することが考えられます。

その他にも、契約の目的として、「売主及び買主は、買主が●●のために売主から本商品を購入することを確認する。」と規定することで、その目的に使用できない「品質」である場合には契約不適合責任の問題となり得ることを示すことも考えられます。

修正案その1

(契約不適合責任)                                         第●条 本件商品が別紙仕様書記載の種類、品質又は数量に関して本契約の内容に適合しないもの(以下「契約不適合」という。)であるときは、買主は、売主に対し、履行追完請求、代金減額請求、損害賠償請求又は解除をすることができる。

修正案その2

(契約不適合責任)                                         第●条 本件商品が種類、品質又は数量に関して本契約(別紙記載の規格書を含む)の内容に適合しないもの(以下「契約不適合」という。)であるときは、買主は、売主に対し、履行追完請求、代金減額請求、損害賠償請求又は解除をすることができる。

③履行追完の方法

民法は、履行の追完の方法について「買主は、売主に対し、目的物の修補、代替物の引渡し又は不足分の引渡しによる履行の追完を請求することができる。ただし、売主は、買主に不相当な負担を課するものでないときは、買主が請求した方法と異なる方法による履行の追完をすることができる。」(民法561条1項)と規定しています。

要するに、買主は、売主に対し、修補を請求してもよいですし、代替物等の引渡しを請求してもよいですが、売主は、「買主に不相当な負担を課するものでないとき」は、買主が修補を請求しても代替物等を引き渡すことができますし、反対に、買主が代替物等の引渡しを請求しても修補することができます。

買主としては、原則して自らが指定した方法で売主に履行の追完をさせたい、という場合には、「売主による方法の変更は認めない」と規定することが考えられます。なお、例えば、代替物等の引渡しに比して修補に莫大な費用がかかるような場合において、買主が、代替物等の引渡しでも特段の負担はないにもかかわらず、当該規定の存在を理由に、売主に対して修補を請求するような場合に、当該請求が権利の濫用(民法1条3項)により制限される可能性はあると思います。

また、目的物によっては、買主としては、買主が指定した期限までに売主が修補をしない場合には、自ら又は第三者による修補をしたい場合もあろうかと思います。その場合には、「買主が指定した期日までに売主が修補をしない場合、買主又は買主が指定する第三者において、当該契約不適合の修補を行うことができるものとする。この場合、当該修補に要した一切の費用は、売主が負担するものとする。」と規定することが考えられます。

売主としては、自らが方法を選択できるようにしたい、という場合には、その旨を規定することが考えられます。

買主の修正案

(契約不適合責任)                                         第●条 本件商品が種類、品質又は数量に関して本契約の内容に適合しないもの(以下「契約不適合」という。)であるときは、買主は、売主に対し、履行追完請求(修補請求、代替物又は不足分引渡請求のうち、買主が請求する方法とし、売主による方法の変更は認めない。)、代金減額請求、損害賠償請求又は解除をすることができる。買主の修補請求において指定された期日までに売主が修補をしない場合、買主又は買主が指定する第三者において、当該契約不適合の修補を行うことができるものとする。この場合、当該修補に要した一切の費用は、売主が負担するものとする。 

売主の修正案

(契約不適合責任)                                         第●条 本件商品が種類、品質又は数量に関して本契約の内容に適合しないもの(以下「契約不適合」という。)であるときは、買主は、売主に対し、その旨を通知するものとする。この場合、売主は、履行追完(修補並びに代替物又は不足分の引渡し)請求及び代金減額請求を任意に選択して行う、損害賠償請求又は解除をすることができる。 

④代金減額請求の要件

民法は、「履行の追完が不能であるとき」等の例外を除き、買主が代金減額請求をするためには、原則として買主が売主に対して「相当の期間を定めて履行の追完の催告」をしなければならないと規定しています(民法563条1項)。

買主としては、催告を不要とし、最初から代金減額請求を行うことができるようにすることが考えられます。

売主としては、「③履行の追完の方法」のように自らが方法を選択できるようにするか、民法のとおりに原則として催告が必要であるとすることが考えられます。

買主の修正案

(契約不適合責任)                                         第●条 本件商品が種類、品質又は数量に関して本契約の内容に適合しないもの(以下「契約不適合」という。)であるときは、買主は、売主に対し、(事前に/予め)催告することなく、履行追完請求、代金減額請求、損害賠償請求又は解除をすることができる。   

売主の修正案

(契約不適合責任)                                         第●条 本件商品が種類、品質又は数量に関して本契約の内容に適合しないもの(以下「契約不適合」という。)であるときは、買主は、売主に対し、履行追完請求、代金減額請求、損害賠償請求又は解除をすることができる。ただし、代金減額請求については、買主は、売主に対し、民法563条2項各号に該当する場合を除き、相当の期間を定めて履行の追完の催告をし、その期間内に履行の追完がないときに限り、行うことができるものとする。

⑤権利行使の期間

民法は、買主が契約不適合を知った時から1年以内にその旨を売主に通知しなければ、買主は売主に対して契約不適合責任を追及することができない旨規定しています(ただし、売主が引渡しの時に契約不適合を知り、又は重大な過失によって知らなかったときは、この限りではありません。)(民法566条)。

そこで、買主としては、権利行使期間をより長くすることが考えられますし、反対に、売主としては、権利行使期間をより短くすることが考えられます。

商人間の売買契約である場合、買主は、目的物を受領したときは、遅滞なく、その物を検査しなければなりません(商法526条1項)。そして、買主が当該検査により契約不適合を発見したときは、直ちに売主に対してその旨の通知を発しなければ、買主は売主に対して契約不適合責任を追及することができませんし、買主が当該検査により直ちに契約不適合を発見できない場合でも、6か月以内に発見できなければ、買主は売主に対して契約不適合責任を追及することができません(ただし、いずれも売主が引渡しの時に契約不適合について「悪意」であった場合はこの限りではありません。)(商法526条2項及び3項)。

商法526条も強行規定ではありません(任意規定です)ので、買主としては、商法526条の適用の排除を検討することが考えられますし、反対に、売主としては、商法526条が適用されるようにすることが考えられます。

なお、買主は、以上の通知さえすればいつまでも権利行使をすることができるわけではなく、「権利を行使することができることを知った時」(=契約不適合を知った時)から「5年間」行使しないとき、「権利を行使することができる時」(=目的物の引渡しを受けた時)から「10年間」行使しないときは、時効により請求権が消滅することになります(民法166条1項)。

買主の修正案

(契約不適合責任)                                         第●条(略)

3 本契約には、商法526条は適用しない。

売主の修正案

(契約不適合責任)                                         第●条 買主は、第●条の検査において、本件商品が種類、品質又は数量に関して本契約の内容に適合しないもの(以下「契約不適合」という。)であることを発見したときは、直ちに売主に対してその旨の通知を発しなければ、買主は、売主に対し、履行追完請求、代金減額請求、損害賠償請求又は解除をすることができない

2 買主が契約不適合を直ちに発見することができない場合において、買主が6か月以内に契約不適合を発見したときも、前項と同様とする。買主は、契約不適合を知った時から1年以内にその旨を売主に通知しないときは、当該契約不適合を理由として、前項の各請求をすることができない。    

⑥損害賠償の範囲及び上限

契約不適合責任の損害賠償の範囲及び上限について予め規定しておくことも考えられます。

損害賠償の範囲としては、民法により契約不適合責任は債務不履行責任として整理されましたが、債務不履行責任に基づく損害賠償請求において、(不法行為に基づく損害賠償請求とは異なり)弁護士費用は損害として含まれないと解されるのが原則となります。そこで、買主としては、当事者間で紛争に発展した場合に備えて、損害賠償の範囲に弁護士費用が含まれることを明記することが考えられます。

また、取引の金額が高額となる売買契約においては、契約不適合にいよる損害賠償額が高額となる可能性がありますので、売主としては、損害賠償の上限を明記することが考えられます。

買主の修正案

(契約不適合責任)                                         第●条 本件商品が種類、品質又は数量に関して本契約の内容に適合しないもの(以下「契約不適合」という。)であるときは、買主は、売主に対し、履行追完請求、代金減額請求、損害賠償請求(弁護士費用を含む)又は解除をすることができる。

売主の修正案

(契約不適合責任)                                         第●条 本件商品が種類、品質又は数量に関して本契約の内容に適合しないもの(以下「契約不適合」という。)であるときは、買主は、売主に対し、履行追完請求、代金減額請求、損害賠償請求(賠償額は●万円を上限とする。)又は解除をすることができる。

⑦権利行使期間経過後の対応

契約不適合責任の権利行使期間が経過すれば、売主は契約不適合責任を負いません。

他方で、特に商法526条の適用がある場合には、検査後6か月を経過した後に買主が契約不適合に気付くこともあります。そのような場合に、目的物次第では、買主としては、有償でもよいので、売主に目的物の修補や代替品等の引渡しをして欲しい、と考えることもあります。

そこで、買主としては、契約不適合責任の権利行使期間経過後の対応について明記しておくことが考えられます。

買主の修正案

第●条(契約不適合責任の権利行使期間経過後の対応)                         買主が検査から6か月が経過した後に契約不適合を発見した場合、買主が売主にその旨通知すれば、売主は、通知後速やかに、買主に対して有償にて修補並びに代替物又は不足分引渡しを行う

おわりに

以上、売買契約書の契約不適合責任のチェックポイントについて説明しました。