フランチャイズ裁判例

従業員に対するハラスメントを原因とするフランチャイズ契約の解除【fc-cases #2】

はじめに

(この記事は2021年4月13日に作成されたものです。)

フランチャイズ契約において、本部は、加盟者が「フランチャイズ・チェーンの社会的信用を害したとき」に、フランチャイズ契約を(催告することなく)直ちに解除できる旨の規定が設けられることが多いです。

それでは、本部は、加盟者が、加盟者の従業員に対してハラスメントをした場合に、「フランチャイズ・チェーンの社会的信用を害したとき」に該当するとして、フランチャイズ契約を解除できるのでしょうか。反対に、加盟者は、どのようなハラスメントであっても、挽回の機会を与えられることなく、フランチャイズ契約を解除されてしまうのでしょうか。

これらにつき参考となる令和の裁判例を紹介します。なお、裁判例の紹介に際しては、ハラスメントとフランチャイズ契約の解除に関する内容のみを抽出しており、この点と関連しない記載には言及していません。

東京地判令和元年7月16日2019WLJPCA07168003

事案の概要

食料品、衣料品等販売のフランチャイズチェーンを展開する本部が、女性従業員に対するセクシャル・ハラスメント行為等を理由に、フランチャイズ契約を解除し、加盟者に対し、解除による損害金を請求した事案です。

フランチャイズ契約には、本部がフランチャイズ契約を無催告解除できる場合として、「甲の法令遵守規範に違反した事実が判明したとき。」を挙げていました。また、本部は、道徳・法令順守規定においてセクシャル・ハラスメント(性的嫌がらせ)を禁止し、当該規定を加盟者が閲覧可能な原告イントラネット上で公開し、加盟者は、本部に対し、当該規定を遵守する旨記載した宣誓書を提出していました。

そのような中、加盟者の従業員は、本部に対し、「●●(加盟者)によるセクシャル・ハラスメントパワーハラスメント及びその他関連項目」と題する文書(以下「本件文書」といいます。)を提出しました。本件文書には、多数の女性従業員が加盟者から何十回もセクシャル・ハラスメントを受けて精神的苦痛を被ったこと等が記載されていました。

そこで、本部は、加盟者に対し、「甲の法令遵守規範に違反した事実が判明したとき。」に該当するとして、フランチャイズ契約を無催告解除する旨通知し(以下「本件解除」といいます。)、解除による損害金を請求しました。

争点

無催告解除の成否

本部の主張

加盟者の女性従業員らに対するセクシャル・ハラスメント行為は、本部が展開する店舗全体の信用名誉を喪失させる行為であり、「甲の法令遵守規範に違反した事実が判明したとき。」に該当する。したがって、本件解除は有効である。

加盟者の主張

加盟者は本部とは別個の事業者であるから、その行為に疑義が生じたのであれば、本部は、まず注意を促すか、催告等をすべきであり、それでも是正がみられないときに限り契約の解除をすべきある。

裁判所の判断

「上記各行為は,本件店舗のオーナーの地位にある」加盟者「が,多数の女性従業員らに対し,その意思に反して臀部に触れるなどというものであったことからすると,その違法性は強く,」本部「としても展開する店舗の信用を保持するため,緊急かつ厳正な対応を要するものであったと認められ,」本部「による無催告解除を定めた」「甲の法令遵守規範に違反した事実が判明したとき。」「に該当することは明らかである。したがって,」加盟者「が独立した事業者である点を考慮しても,無催告でされた本件解除が無効であるということはできない。」

コメント

加盟者は、フランチャイズ契約の締結に際し、多額の投資をしていることも多いため、軽微な違反行為だけでフランチャイズ契約が解除されてしまいますと、多額の損害を被ることになります。そこで、裁判例は、本部によるフランチャイズ契約の約定解除が認められるためには、加盟者が違反した義務の内容や性質、義務違反の具体的態様及び程度等を総合的に勘案して、当事者間の信頼関係の破壊によりフランチャイズ契約を継続し難い事情が必要であると解しています(東京地判平成14年10月16日WLJPCA10160006)。

本裁判例は、信頼関係の破壊という枠組みでは判断はしていませんが、行為態様を踏まえて、「その違法性は強く,」本部「としても展開する店舗の信用を保持するため,緊急かつ厳正な対応を要するものであった」との認定をしていますので、実質的には同様の枠組みにより判断しているものと思われます。

もっとも、信頼関係の破壊の有無の議論でセクシュアル・ハラスメントの違法性の強弱を論じることは難しいので(臀部はダメだが腕ならよいといった議論はできませんので)、特段の事情のない限りはセクシュアル・ハラスメントの存在が認定されてしまうと本部による無催告解除は認められる可能性が高いのではないかと思います。

おわりに

以上、従業員に対するハラスメントを原因とするフランチャイズ契約の解除につき、参考となる令和の裁判例を紹介しました。