フランチャイズ裁判例

赤字経営とフランチャイズ契約の経営指導義務違反【fc-cases #1】

はじめに

(この記事は2021年4月12日に作成されたものです。)

フランチャイズ契約を締結し、店舗を開店した直後から赤字経営が継続するようなケースでは、そもそも本部が提供したフランチャイズ・システム自体に問題があったのではないか、また、本部は赤字経営の改善のために必要な経営指導をしてくれていないのではないか、といったトラブルに発展する可能性があります。

それでは、どのような場合に、本部が提供したフランチャイズ・システム自体に問題があると評価されるのでしょうか。また、本部としては、どの程度の経営指導をすれば、フランチャイズ契約に基づく経営指導を果たしたといえるのでしょうか。

これらにつき参考となる令和の裁判例を紹介します。なお、裁判例の紹介に際しては、経営指導義務に関する内容のみを抽出しており、この点と関連しない記載には言及していません。

東京地判令和元年5月4日2019WLJPCA05248014

事案の概要

加盟者(エステティックサロンの経営等を目的として設立された合同会社)は、本部( エステティックサロンなど美容・健康サービス業のフランチャイズシステムの運営、経営指導等を目的とする株式会社)との間で、エステティックサロンの経営に係るフランチャイズ契約(以下「本件フランチャイズ契約」といいます。)を締結していました。この加盟者は、本部が加盟者に欠陥のある営業方法を指示し、十分な経営指導をしなかったとして、本件フランチャイズ契約の債務不履行を主張し、本部に対し、約2000万円の損害賠償を請求しました。

 本部は、「セルライト潰し専門店 ○○」という名称のエステティックサロンをフランチャイズ展開しており、加盟者は、本部との間で、本件フランチャイズ契約を締結し、「セルライト潰し専門店 ○○ 府中店」(以下「本件店舗」といいます。)の営業を開始しました。

本件フランチャイズ契約の契約書には、以下のような条項がありました。

  1. 本部は、加盟者に対し、本件フランチャイズ契約を遂行するために必要な技術その他のノウハウを指導する。
  2. 本部は、加盟者の要望に可能な限り配慮しつつ、営業店舗の運営に関する指導及び援助を継続的に行う。

加盟者は、本件フランチャイズ契約のロイヤリティ等の支払をしなくなったため、本部は、本件フランチャイズ契約を解除しました。

争点

本部の本件フランチャイズ契約の債務不履行責任の成否

加盟者の主張

本部は、本件店舗の開業当初から、加盟者に対し、「△△」のコース(以下「△△コース」という。)により顧客を集め、他の役務及び商品を販売して収益を上げるという欠陥のある営業方法を行うよう指示し、本件店舗の赤字が続いても対応をしなかった。これらの対応は、営業店舗の運営に関し必要な指導及び援助を継続的に行うという本件フランチャイズ契約上の義務に違反する。

本部の主張

他の加盟者が経営する他の店舗においても同じ営業方法がとられているが、他の店舗では堅調な売上が達成されていることからすると、本部の営業方法の提案は不適切とはいえない。また、本部は、加盟者に対し、トレーナーの派遣等によって必要なノウハウを提供するとともに、「△△コース」の広告を提供するなど指導援助義務を履行していた。

裁判所の判断

本部が提案した営業方法の適否について

「被告は,1万9800円の代金で回数を問わず太腿の「セルライト潰し」を受けられるコースを提示し,それを目当てに来店する顧客を集めた上で,他の役務,商品等を販売することによって,本件エステサロンの収益を上げるという営業方法を採用しており,原告会社が開業した本件店舗においても,同営業方法が採用されていたこと,△△コースを導入している名駅店,六条店及び半田店では,多い時で月額1000万円以上の売上げがあったこと,○○のフランチャイズ加盟店のうち,一定の収益を上げる店舗と不採算になる店舗とは,およそ半分ずつの割合であったこと,上記加盟店の売上げの構成は,施術が75%,物品が25%であったことが認められる。」

「被告が採用し本件店舗においても導入されていた上記営業方法においては,顧客が△△コースに申し込む場合,最初に1万9800円の代金が支払われると,本件店舗は,それ以降,回数の制限なく,顧客に対し太腿の「セルライト潰し」の施術を提供しなければならない立場に立つことになる。このように,顧客が太腿の「セルライト潰し」の施術を受ける回数が多くなるほど,本件店舗の利益は減少する関係にあり,上記営業方法は加盟店であるフランチャイジー側にとって大きなリスクとなり得るものであったと認められ,現に前記1(1)イのとおり,加盟店舗のうち半数が不採算に陥っていた事実が認められる。しかし,他方で,名駅店,六条店及び半田店のように大きな売上げを上げた店舗もあり,また,△△コースは太腿のみを対象とする施術であって,顧客が同コースの施術を求めて来店を繰り返したとしても,併せて,他の有料の施術に誘引したり,商品を販売するなどの営業努力を通じて,収益を向上させることが困難であったとは認められない。そうすると,上記営業方法が,収益を上げる可能性のない不合理なものであったとまではいえず,被告が△△コースに係る集客方法を実行するよう指示したことが,本件フランチャイズ契約を遂行するために必要な技術その他のノウハウを指導する義務(本件契約書1条3項)に違反するとまでは認められない。」

指導援助義務の履行の有無について

「本件店舗の収支は,開業後,恒常的に赤字であったことが認められるが,被告は,本件店舗の開業前後において,同店舗の従業員に対し,研修センターでの7日間の研修と,トレーナーによる同店舗での直接の指導を提供したこと,被告は,店舗の従業員向けの話術に関するマニュアルを提供するとともに,「店長責任者会」,「社長塾」等の会合を定期的に開催していたことが認められる。」

「△△コースを含む営業方法は,申し込んだ顧客が同コースに係る施術を受けるほど,加盟店舗の利益が減少する関係にあり,収益を向上させるためには,上記顧客に対し他の役務,商品等を販売することが不可欠となるところ,被告は,本件店舗の従業員に対し研修をさせるとともに,トレーナーに直接の指導をさせたのであり,また,従業員の話術に関するマニュアルや,関係者から話を聞くための機会を提供していたことからすると,上記営業方法の収益の構造に照らして,被告が本件店舗が収益を向上させるための指導及び援助を怠っていたとはいえない。」

「したがって,被告が,原告会社の要望に可能な限り配慮しつつ,営業店舗の運営に関する指導及び援助を継続的に行う義務(本件契約書5条1項)に違反するとは認められない。」

コメント

この裁判例を踏まえると、本部が提供したフランチャイズ・システム自体に問題があると評価されるのは「収益を上げる可能性のない不合理なもの」に該当するような場合になります。そして、複数の加盟者が存在するようなケースでは、「一定の収益を上げる店舗と不採算になる店舗とは,およそ半分ずつの割合」では足りず、より「不採算になる店舗」の割合が大きい場合に該当することになりそうです。

経営指導義務の履行については、従前より、本部は「一応の合理的な経営指導」をすればフランチャイズ契約の経営指導義務違反にはならない、と解されています(大阪地判平成2年11月28日判時1389号105頁)。この裁判例では、このような規範についての言及はありませんが、判示からすると、この規範よりも厳しい規範を前提としているようには読めません。

経営指導はロイヤリティと対価の関係にありますので、「一応の合理的な経営指導」といっても、支払われるロイヤリティの金額にも影響しますので、結局のところはケースバイケースではあります。もっとも、共通して言えることは、本部としては、どのような経営指導をするのかを明確にし、これを十分に加盟者に説明しておくことが望まれますし、加盟者としても、フランチャイズ契約及び法定開示書面の記載内容を十分に理解することが望まれることに変わりはない、ということです。

さいごに

以上、赤字経営と経営指導義務違反に関する令和の裁判例を紹介しました。