フランチャイズ裁判例

フランチャイズセミナーの共同主催者による情報提供義務違反【fc-cases #7】

はじめに

(この記事は2021年5月1日に作成されたものです。)

加盟希望者がフランチャイズ事業について「知識も経験もなく,情報も有していない」ような場合、フランチャイザー(以下「本部」といいます。)は、加盟者募集の段階でも、加盟希望者に対し、信義則上の情報提供義務を負うことがあります。

加盟者の募集のために本部がフランチャイズセミナーや事業説明会等を開催することがありますが、フランチャイズセミナー等における情報開示が不適切である場合に、本部と共同でフランチャイズセミナー等を主催した共同主催者も、加盟希望者に対して情報提供義務違反の責任を負うことがあるのでしょうか。

この点につき参考となる令和の裁判例を紹介します。なお、裁判例の紹介に際しては、フランチャイズセミナーの共同主催者による情報提供義務違反に関する内容のみを抽出しており、この点と関連しない記載には言及していません。

東京高判令和元年9月4日2019WLJPCA09046003

原審は「東京地判平成31年3月14日2019WLJPCA03146009」です。

事案の概要

本部は、「自転車の買取り,販売,修理,レンタル等を目的とする会社」です。

共同主催者は、本部とともに、ビジネスセミナー(以下「本件セミナー」といいます。)を開催し、本件セミナーにおいて、説明用資料に基づいて放置自転車回収事業の内容を説明しました。

加盟希望者は、本件セミナーに参加し、その後、本部に対して加盟金を支払い、本部との間で、本部から放置自転車回収事業のノウハウの提供を受けること等を内容とするフランチャイズ契約を締結しました。

本部と共同主催者は、本件セミナーにおいて、説明用資料を用いながら、

  1. 「本件事業は他の業者が目をつけていないので競争のない未開拓の市場であること」
  2. 加盟者「みんなうまくいっていること,年収700万円は稼ぐことができ,それ以上の収入増も可能であることを説明し,原告との面談においてもパートナーはみんなうまくいっていると説明」

などしました。

しかし、実際には、

  1. 本件事業は「既に大手も含めて多数の業者が参入しており,ライバル業者のいない市場状態ではなく」
  2. 加盟者の売上は、本部と共同主催者の説明に反して極めて低く、大半の加盟者は毎月の本件システムの利用料などの経費を除くと赤字であること

など、本部と共同主催者による説明は、「本件事業の客観的状況とは異なるもの」でした。

裁判所の判断

共同主催者の情報提供義務違反について、裁判所は、以下のとおり判示しました(「被告Y2」は共同主催者のことです。)

「被告Y2も,被告Y2が本件セミナーを主宰していること(前記前提事実(2)ア)や本件パートナー契約の加盟金の振込先となっていること(同(3)ア)を踏まえると,本件パートナー契約に主体的に関与していたものと認められるから,被告会社及び被告Y1と同様に上記義務を負うものというべきである。

コメント

本部は、加盟者募集の段階でも、加盟希望者に対し、信義則上の情報提供義務を負うことがありますが、この情報提供義務は、将来フランチャイズ契約を締結する当事者間での保護義務の問題ですので、本来的には共同主催者が負うべき義務ではありません。

もっとも、従前より、加盟者募集を外部事業者に委託している場合において、当該外部事業者に信義則上の情報提供義務を認めた裁判例が存在していました(東京地判平成23年6月9日WLJPCA06098002)。

そして、本件は、完全な委託ではなく、共同での主催ではありますが、共同主催者がフランチャイズ契約に「主体的に関与していた」と評価できる場合には、共同主催者にも信義則上の情報提供義務を認められることが判示されました。

「(前記前提事実(2)ア)」には「ア 原告は,平成26年3月20日,被告Y1及び被告Y2が東京都千代田区〈以下省略〉所在の東京国際フォーラムにおいて開催した放置自転車ビジネスセミナー(以下「本件セミナー」という。)に参加した。」、「(同(3)ア)」には「なお,本件申込書には,宛先を●●,加盟金の振込先を●●のY2とする旨の記載がある。」との記述しかありませんので、より詳細に、どの程度の関与があれば、共同主催者がフランチャイズ契約に「主体的に関与していた」との評価となるかは、ケースバイケースでの判断とはなります。

もっとも、共同主催者としては、自らが信義則上の情報提供義務を負う可能性があることを前提に、本部から提供される情報をそのまま信じるのではなく、その客観的な根拠についてもきちんと把握する必要があります。

おわりに

以上、フランチャイズセミナーの共同主催者による情報提供義務違反について説明しました。