はじめに
(この記事は2021年5月3日に作成されたものです。)
フランチャイズ契約において、フランチャイザー(以下「本部」といいます。)が、フランチャイジー(以下「加盟者」といいます。)に対し、契約期間中及び契約終了後一定期間、一定の場所において、同種又は類似の事業を営んではならないとの義務(以下「競業避止義務」といいます。)を課すことが多いです。
この競業避止義務は、どのような期間、場所の範囲、事業の範囲であっても、フランチャイズ契約において規定さえすれば、常に有効になるのでしょうか。
また、競業避止義務に違反した場合の違約金の金額又はその計算方法(例えば、ロイヤリティの●年分等)についても、フランチャイズ契約において規定されることがありますが、このような違約金条項は常に有効であり、これに違反した加盟者は、本部に対し、常に違約金条項のとおりに違約金を支払わなければならないのでしょうか。
この点につき参考となる令和の裁判例を紹介します。なお、裁判例の紹介に際しては、フランチャイズ契約における競業避止義務と違約金に関する内容のみを抽出しており、この点と関連しない記載には言及していません。
東京地判令和元年9月11日2019WLJPCA09118005
事案の概要
本部は、「建造物内外装・車輌内外装・家具等の補修・清掃・保守の各事業及び各事業に関わるフランチャイズチェーン店の加盟店募集・指導業務等を営む株式会社」です。
本部は、加盟者との間で、3つの事業のうち、2つの事業について「リペア共有地域本部契約」を、1つの事業について「リペア加盟店契約」を締結しました。
「リペア共有地域本部契約」は、いわゆるエリアフランチャイズ契約であり、「リペア加盟店契約」は、通常のフランチャイズ契約です。
これらのフランチャイズ契約には、
「契約終了後5年間又は契約満了までのいずれか長い期間,日本全国において,その名義・態様のいかんを問わず,直接又は間接的に,その事業及びその事業と類似する事業を行なってはならず,第三者に行わせてもならない」
とする競業避止義務条項と、
「競業避止義務に違反する行為をした場合には違約金として1000万円を支払うべき旨並びに当該違約金が原告から加盟店に対する損害賠償請求及び上記とは別途の違約金の請求を妨げるものではない」
とする違約金条項が規定されていました(「原告」は本部を意味します。)。
争点
- 競業避止義務条項の有効性
- 違約金条項の有効性
本部の主張
競業避止義務条項の有効性
「被告は,本件各フランチャイズ契約を解除した後も,少なくとも○○リペア及び△△リペアに係る各競業をしている。」
違約金条項の有効性
「本件違約金規定は,違約罰と捉えるのが相当であるから,一定程度の抑止力のある内容であることが要求されるところ,本件各フランチャイズ契約の月会費(合計9万円)の5年間の月会費相当額だけでも540万円(税別)となるから,1000万円という違約金の額は,月会費合計額相当の3倍よりも低額であり,本件違約金条項は,金額として何ら相当性を欠くとはいえない。」
加盟者の主張
競業避止義務条項の有効性
「原告の運営する○○リペア事業及び△△リペア事業は,日本国内において広範に流通している一般的な技術を用いた事業にすぎず,加盟店に対して競業避止義務を課さなければ,原告がそのノウハウや技術を守ることができなくなる事業ではないから,本件各フランチャイズ契約における本件競業避止義務規定は,公序良俗に反して無効である。」
違約金条項の有効性
「加盟店に一律にロイヤリティの200か月分に相当する1000万円の違約金を課す本件違約金規定は,公序良俗に反して無効である。仮に,相当な範囲で有効としても,ロイヤリティの6か月分程度に制限されるべきである。」
裁判所の判断
競業避止義務条項の有効性
「本件○○リペア契約及び本件△△リペア契約における本件競業避止義務規定が定める競業避止は,期間について,契約終了後5年間又は契約満了(契約締結日から10年間)のいずれか長い期間とされており,場所について日本全国を対象としており,態様等についても,直接又は間接的に当該事業及び類似事業をしてはならないものとされており,時的,場所的及び態様等について極めて広範なものである。」
「しかしながら,原告のフランチャイズ契約における加盟店が全国展開をしており,出張型の修理を中心とする事業であり,加盟店の参入障壁を低いものとするために初期投資や月会費を低額に設定しているため,原告のノウハウや商圏を維持する必要がある(中略)ことに照らすと,本件競業避止義務規定が定める競業避止義務については,一定の合理性が認められ,その存在自体が直ちに公序良俗に反するものや被告会社との信義則に反するものとはいえない。」
違約金条項の有効性
「本件違約金規定は,原告から被告会社に対する損害賠償請求及び本件違約金規定以外に定められた違約金の請求を妨げるものではない旨の定めがあることに照らすと,損害賠償額の予定ではなく,違約罰としての定めであると解される。」
「被告会社が車輌のアルミホイールの修繕等をした期間は,せいぜい1年程度と推認され,その態様としても,原告の商標を用いたとの事情がうかがわれず,事業の規模についても,本件各フランチャイズ契約を解除する以前からの作業場所で細々と事業を継続し,事業を拡張しておらず,それによって得た利益も大きいものとはいえないと推認される」
「以上に述べた事情のほか,本件○○リペア契約及び本件△△リペア契約におけるロイヤリティがいずれも月額5万円であること,本件○○リペア契約及び本件△△リペア契約においては,契約エリア内において加盟店が独占的・排他的に営業を行うことができるのではなく,最大6社まで地域本部を設けることができる旨が定められており(中略),被告会社による競業行為がされたとしても,その商圏に与える損害は独占的・排他的な営業を認めている場合と比べて限定的なものにとどまることとの事情が認められ,これらの事情を総合すると,本件違約金規定において一律にその額を1000万円と定めることは,被告会社において過度に重きに失するものというべきである。」
「もっとも,(中略)一定の範囲において違約罰を定めること自体については合理性を有し,被告会社の経費率が低いこと(被告会社の主張するところによると約6.5%)も併せ考慮すると,本件○○リペア契約及び本件△△リペア契約における違約罰としては,いずれも75万円を超える部分について公序良俗に反して無効とすべきである。」
コメント
競業避止義務条項の有効性
競業避止義務条項は、本部の営業秘密の保護と顧客・商圏の確保が目的であるとされており、この目的を超えて、加盟者の営業の自由を不当に制限するものは、公序良俗に反して無効となると解されています。
フランチャイズ契約終了後の競業避止義務条項の有効性は、禁止する目的に比して、
- 禁止される期間
- 禁止される場所
- 禁止される業務の範囲
等が過大なものでないかが検討されます。
本件においても、競業避止義務条項の内容が、
- 「契約終了後5年間又は契約満了(契約締結日から10年間)のいずれか長い期間」
- 「日本全国」
- 「直接又は間接的に当該事業及び類似事業」
であるとの分析から、「時的,場所的及び態様等について極めて広範なもの」と評価されています。
そのうえで、
「加盟店が全国展開をしており,出張型の修理を中心とする事業」であること、「加盟店の参入障壁を低いものとするために初期投資や月会費を低額に設定している」ことから、「ノウハウや商圏を維持する必要がある」として、競業避止義務条項を有効であると判断しました。
競業避止義務条項を有効とした裁判所の判断において、「契約終了後5年間又は契約満了(契約締結日から10年間)のいずれか長い期間」についての言及はありませんでした。
フランチャイズ契約において、競業避止義務が課される平均的な期間は、契約終了後2年間とされていますが(経済産業省「フランチャイズ・チェーン事業経営実態調査報告書」28頁(平成20年3月))、従前より、フランチャイズ契約終了後5年間の競業避止義務を有効とした裁判例も存在していたなかで(大阪地判平成22年5月27日判時2088号103頁)、本件においても、フランチャイズ契約終了後5年間の競業避止義務を有効としました。
競業避止義務条項の有効性は、禁止される期間のみで決まるわけではありませんが、フランチャイズ契約終了後5年間は、感覚としては限界ラインと考えられるのではないかと思います。
違約金条項の有効性
民法420条3項は、違約金の法的性質について、「違約金は、賠償額の予定と推定する。」と規定しています。「賠償額の予定」の場合は、損害賠償請求は、(実際の損害が予め合意された金額よりも大きくとも小さくとも)予め合意された金額しか請求できないことになります。
これに対し、「違約罰」である場合は、損害賠償ではなく、違反のペナルティとなりますので、実際の損害に加えて、予め合意された金額を請求できることになります。
本件においては、違約金条項は、「損害賠償請求及び本件違約金規定以外に定められた違約金の請求を妨げるものではない旨の定めがある」ことから、違約金のみ支払えば足りる「賠償額の予定」ではなく、「違約罰」であると解されました。
もっとも、「違約罰」として予め合意されれば、どのような金額であっても有効とは考えられておりません。
本件においても、「本件○○リペア契約及び本件△△リペア契約における違約罰としては,いずれも75万円を超える部分について公序良俗に反して無効とすべきである。」と判示されました。
本件のロイヤリティが月額5万円であることからすると、本件においては、15か月分のロイヤリティが認められたことになります。
従前の裁判例では、「ロイヤリティ平均月額の30か月分」の範囲で違約金を認めるものが相当数ありますので(東京地判平成6年1月12日判タ860号198頁等)、裁判所において「ロイヤリティ平均月額の30か月分」が一つの基準となっているようです(ただし、その倍の60か月分のロイヤリティの違約金を認めた裁判例(大阪地判昭和61年10月8日判タ646号150頁)もありますので、あくまでも目安に過ぎないことは注意が必要です。)。
本件においては、「本件○○リペア契約及び本件△△リペア契約」の2つの契約における違約金条項が問題となていますので、それぞれ15か月のロイヤリティ相当額の違約金を有効とすることで、最終的に合計30か月(15か月×2)のロイヤリティ相当額の違約金の支払を認めたのではないかと思います。
おわりに
以上、フランチャイズ契約における競業避止義務と違約金について、参考となる令和の裁判例を紹介しました。