フランチャイズ裁判例

フランチャイズ契約における競業避止義務と違約金③【fc-cases #13】

はじめに

(この記事は2021年5月19日に作成されたものです。)

フランチャイズ契約において、フランチャイザー(以下「本部」といいます。)が、フランチャイジー(以下「加盟者」といいます。)に対し、契約期間中及び契約終了後一定期間、一定の場所において、同種又は類似の事業を営んではならないとの義務(以下「競業避止義務」といいます。)を課すことが多いです。

この競業避止義務は、どのような期間、場所の範囲、事業の範囲であっても、フランチャイズ契約において規定さえすれば、常に有効になるのでしょうか。

また、競業避止義務に違反した場合の違約金の金額又はその計算方法(例えば、ロイヤリティの●年分等)についても、フランチャイズ契約において規定されることがありますが、このような違約金条項は常に有効であり、これに違反した加盟者は、本部に対し、常に違約金条項のとおりに違約金を支払わなければならないのでしょうか。

この点につき参考となる令和の裁判例を紹介します。なお、裁判例の紹介に際しては、フランチャイズ契約における競業避止義務と違約金に関する内容のみを抽出しており、この点と関連しない記載には言及していません。

東京地判令和元年11月28日2019WLJPCA11288023

事案の概要

「原告」は、本部であり、「外国語教室の経営,フランチャイズシステムによる英語教室,数学教室,国語教室の経営などを目的とする株式会社」です。

「被告」は、加盟者であり、本部である「原告とのフランチャイズ契約に基づき,福島県白河市〈以下省略〉所在の被告の自宅において,原告の商標等を使用して,英語,算数,又は国語を教える教室(以下「本件教室」という。)を運営していた者」です。

本部である「原告」と加盟者である「被告」との間のフランチャイズ契約において、

「被告は,教室閉鎖処理清算終了後2年間は,原告の業務と同一の部類に属する教室,塾,その他の教育活動を行ってはならない。」とする競業避止義務条項と

「被告は原告に対し,違約金として,本件運営契約に基づく教室運営最終年度に原告から受領した売上金の2倍を支払うものとする。」とする違約金条項

がそれぞれ規定されていました。

そして、本件は、本部である「原告」、加盟者であった「被告が,原告と被告との間の教室開設・運営契約において定められていた競業避止義務に違反して,契約終了後も近隣で英語教室等を営んでいるとして,被告に対し,英語教室の運営の差止を求める」とともに、「被告の競業避止義務違反等の債務不履行に基づく違約金」の支払を求めた事案です。

争点

  1. 競業避止義務条項の有効性
  2. 違約金条項の有効性

加盟者の主張

競業避止義務条項の有効性

「本件競業避止義務規定は,制限の範囲が制限の目的との関係で合理的といえない上,競業避止規定の実効性を担保するための手段・態様が相当ではなく,被告の被る不利益が過大であって,社会通念上是認し難い場合ものであるから,民法90条により無効と解するべきである。」

「なお,原告は,地理的制限について限定して請求するが,本件競業避止義務規定を限定解釈することは許されない。」

違約金条項の有効性

「本件違約金は賠償額の予定であり,原告に生じる損害は,主にロイヤリティが得られなくなることによる損害であるから,これを基準に算定されなければ,原告に生じ得る損害を大きく超えた損害賠償が認められ,当事者間の衡平を著しく欠く。なお,原告が取得しているロイヤリティ自体は,売上げの3割ないし4割であり,相当に高額である。」

本部の主張

競業避止義務条項の有効性

「本件競業避止義務規定は,公序良俗に反するものではない。」

違約金条項の有効性

「争う。」

裁判所の判断

競業避止義務条項の有効性

(1)  本件競業避止義務規定の目的の合理性について

ア 前提事実及び上記1(1),(2)に認定した事実に照らせば,本件運営契約は,原告が,被告に対し,標章やノウハウ等を用いて事業を行う権利を与え,被告がその対価としてロイヤリティを支払うフランチャイズ契約であること,原告は,被告を含むホームティーチャーとの間で運営契約を締結することで事業を拡大させてきたこと,原告は,時間及び費用を投じて,経営ノウハウ及び授業法に関するノウハウを蓄積してきたこと(この点被告は,原告の授業法が一般的であるなどと主張するが,年次や理解度に応じて英語をどのレベルまで教授するかに関する原告のノウハウの蓄積であるティーチャーズブックを含む教授法が一般的であることを認めるに足りる証拠は存在しない。),原告は,多額の宣伝広告費を要してブランドイメージを宣伝しつつ,地域教室群という商圏確保の手段を用いて一定地域における教室生の確保を図っていることが認められる。

イ 本件競業避止義務規定は,原告が英会話授業に関して蓄積した上記のようなノウハウ等を確保するとともに,ノウハウ等に基づく授業及びその成果に対する評価や,宣伝広告等に基づき確立した,地域における商圏を確保することを目的としたものであり,このような目的に基づき,フランチャイジーであるホームティーチャーに対し,競業避止義務を課したものである。そうすると,本件競業避止義務規定の目的に合理性があるといえる。」

(2)  実効性担保の手段・態様について

 ア 文言の明確性について

前提事実によれば,本件競業避止義務規定において被告が負う競業の範囲は,「原告と同一の部類に属する教室,塾,その他の教育活動」とされているところ,この文言により禁止される範囲は,本件競業避止義務規定の目的に照らし,不明確であって広範であるとはいえない。

イ 教育活動終了から2年間という競業禁止期間について

上記2のとおり,本件競業避止義務規定による競業避止義務の期間は,教育活動が実施されている場合には教育活動の終了から2年間であると認められるところ,2年間という期間は,原告の商圏確保を考慮した場合,被告による旧教室生の侵奪や,同一商圏における生徒獲得の競合の回避という目的に照らし,同一商圏内におけるホームティーチャーの影響を排除する意味で,不合理に長期間であるとはいえない。

また,本件競業避止義務規定の目的が,ノウハウ等及び商圏の確保にあることに照らせば,本件競業避止義務規定に反したフランチャイジーが,避止義務規定に違反していながら2年間を経過すれば競業避止義務を負わなくなるとすることは,例えば本件のように訴訟で競業避止義務の存否を争っている間に競業避止義務期間を徒過したような場合に顕著にみられるように,原告の商圏やノウハウを侵害し,旧教室生等が義務違反者の設置した教室に移籍した結果を追認してしまうこととなって,競業避止義務が画餅に帰する結果となるのであるから,本件競業避止義務規定のように教育活動を終了した時点を期間算定の起算点と定めたとしても,過度の制約になるとまではいえない。

「 (3)  被告が被る不利益について

ア 本件競業避止義務規定によれば,競業をしてはならない距離の範囲について記載はないものの,本件において,原告は,本件教室に通学していた生徒の所在する学校の範囲や,広告の範囲に照らして,本件教室から半径10kmの範囲で教室運営等の差止めを求めており,証拠(甲4,5の1~3)に照らせば,この範囲を同一商圏内として差止めを求めることが,商圏の確保という目的に照らして過度の制約になるとはいえない。

イ また,本件運営契約はフランチャイズ契約であって,教室を終了するか否かは,フランチャイジー側が,自らの収入状況やその後の稼働予定を考慮して設定することができるものであって,教室終了に当たって考慮すべき代償措置を講じるべき事情はうかがわれないから,対価が存在しないことをもって,過度の制約に当たるとはいえない。」

「 (4)  以上のとおりであるから,本件競業避止義務規定が公序良俗に反するものとはいえない。」

違約金条項の有効性

「 (1)  被告は,本件違約金規定が公序良俗に反すると主張する。」

「 (2)  しかし,本件違約金規定は,本件誓約書に明示されており,この点について被告が原告の担当者より説明を受けたことは,上記3(2)とおりであること,本件違約金規定は,本件競業避止義務規定違反があれば原告のノウハウや商圏が現実におびやかされ,ノウハウ蓄積や商圏確保のために投下した資本の回収に支障を生じるばかりか,原告が採用する地域教室群におけるフランチャイズシステムにも多大な悪影響を生じさせ,他のホームティーチャーの離反を招くおそれもあり,さらなる被害を拡大させるおそれがあるものであること,本件競業避止義務規定における禁止期間が,教育活動終了後から2年間とされていることを考慮すれば,違約金の額を2年分の売上金と定めることが不合理であって高額にすぎるとまではいえない。

(3)  被告は,本件違約金規定が不当に高額であり,ロイヤリティ相当額で足りるなどと主張するが,上記のとおり,本件違約金規定は,単に原告が被った現実の損害を填補すれば足りるというものではなく,本件競業避止義務規定を実効化させるための規定なのであるから,本件違約金規定が現実の損害と均衡していないというだけで,本件違約金規定が公序良俗に反するものであるということはできない。

コメント

競業避止義務条項の有効性

競業避止義務条項は、本部の営業秘密の保護と顧客・商圏の確保が目的であるとされており、この目的を超えて、加盟者の営業の自由を不当に制限するものは、公序良俗に反して無効となると解されています。

そして、フランチャイズ契約終了後の競業避止義務条項の有効性は、禁止する目的に比して、禁止される業務の範囲、禁止される期間、禁止される場所等が過大なものでないかが検討されます。

本件においても、「ノウハウ等を確保する」ことと「商圏を確保する」ことが競業避止義務条項の目的であると認定され、そのうえで、「実効性担保の手段・態様」(禁止される業務の範囲、禁止される期間)と加盟者である「被告が被る不利益」(禁止される場所)がこの目的との関係で「過度の制約」であるか否かという基準で、競業避止義務条項の有効性を判断しています。

本件の特殊性としては、

①禁止される期間の開始時点が、契約終了時ではなく、競業避止義務違反行為の終了時であること(競業避止義務違反行為をしている間は期間が経過しない)

②競業避止義務条項に禁止される場所の限定はないが、実際の差止請求では一定の限定を付していること

についての裁判所の判断です。

①については、禁止される期間の開始時点を契約終了時でなければならないとすることは、「原告の商圏やノウハウを侵害し,旧教室生等が義務違反者の設置した教室に移籍した結果を追認してしまうこととなって,競業避止義務が画餅に帰する結果となる」として、これを競業避止義務違反行為の終了時とすることを認めました。したがって、本部としては、競業避止義務条項の実効性を担保するために、禁止される期間の開始時点を競業避止義務行為の終了時とすることが考えられます。

②については、「この範囲を同一商圏内として差止めを求めることが,商圏の確保という目的に照らして過度の制約になるとはいえない。」として、禁止される場所について、競業避止義務条項の文言ではなく、実際に差止めを求めている範囲を前提に判断しました。したがって、競業避止義務条項の目的との関係で、禁止される場所の制限がないことが過度の制約とされる可能性がある場合には、実際に差止めを求める範囲を限定することで、差止請求が公序良俗違反となることを回避することが考えられます。

違約金条項の有効性

フランチャイズ契約において違約金条項が存在するとしても、「適正な違約金額を超える部分」は無効となります。

裁判例には「ロイヤリティ平均月額の30か月分」の範囲で違約金を認めるものが相当数ありますので(東京地判平成6年1月12日判タ860号198頁等)、裁判所において「ロイヤリティ平均月額の30か月分」が一つの基準となっているのかもしれません。

これに対し、本件は、「2年分の売上金」が違約金とされた事案で、「本件違約金規定は,単に原告が被った現実の損害を填補すれば足りるというものではなく,本件競業避止義務規定を実効化させるための規定なのであるから,本件違約金規定が現実の損害と均衡していないというだけで,本件違約金規定が公序良俗に反するものであるということはできない。」と判示されました。

したがって、違約金条項の無効を主張する加盟者としては、違約金の金額が「現実の損害と均衡していない」と主張するだけでは足りず、これが競業避止義務条項を実効化するために必要な金額をはるかに超えることまで主張する必要があります。

もっとも、では何年分の「売上金」であれば無効となるのか、については、結局のところケースバイケースですが、前記のとおり、裁判所において「ロイヤリティ平均月額の30か月分」が一つの基準となっているように思いますので、この金額との比較を検討することが考えられるように思います。

おわりに

以上、フランチャイズ契約における競業避止義務と違約金について、参考となる令和の裁判例を紹介しました。