フランチャイズ裁判例

更新料の支払遅延とフランチャイズ契約の終了【fc-cases #10】

はじめに

(この記事は2021年5月11日に作成されたものです。)

フランチャイズ契約において、

フランチャイズ契約を更新するためには、フランチャイジー(以下「加盟者」といいます。)が、フランチャイザー(以下「本部」といいます。)に対し、一定の期限までに、更新料を支払う必要がある

と規定されていることがあります。

このような規定があるにもかかわらず、期限までに加盟者が更新料を支払わなければ、フランチャイズ契約が終了することになりますが、例えば、

従前の更新において、期限どおりに更新料を支払わなくとも許容されたことがある

本部から更新料の増額を請求されており、それを拒否していた経緯がある

といった場合にまで、フランチャイズ契約は当然に終了するのでしょうか。

この点につき参考となる令和の裁判例を紹介します。なお、裁判例の紹介に際しては、更新料の支払遅延とフランチャイズ契約の終了に関する内容のみを抽出しており、この点と関連しない記載には言及していません。

東京地判令和元年9月19日2019WLJPCA09198019

事案の概要

本部は、「フランチャイズチェーンシステムによるゴルフ用品店の加盟店募集及びその経営指導等を事業として行っている株式会社」です。

加盟者の代表者は、平成14年3月に本部とフランチャイズ契約を締結し、平成15年9月に店舗を開店し、(本部の同意を得て)平成17年1月に加盟者にフランチャイズ契約の地位を承継しました。

その後、フランチャイズ契約は、平成20年、平成23年及び平成26年に更新され、加盟者は、本部に対し、それぞれ更新料として50万円を支払いました。

平成29年の更新について、加盟者は、同年9月8日に、本部に対して更新料50万円を支払いました。

しかし、本部は、更新料の不払を理由にフランチャイズ契約の終了を主張し、同契約に基づく役務の提供をしませんでした。

そこで、加盟者は、店舗の経営を継続することができなくなったとして、本部に対し、債務不履行に基づきフランチャイズ契約を解除した上で、これにより被った損害の賠償を請求しました。

本部の主張

(「原告」=加盟者、「被告」=本部、「本件平塚契約」=フランチャイズ契約です。)

「原告は,本件平塚契約の期間満了日である平成29年9月5日の80日前である同年6月17日までに更新料を支払わず,被告が同年8月末日までその支払を猶予したにもかかわらず,それまでに更新料を一切支払わなかったのであるから,同年9月5日の経過により,本件平塚契約は終了した。」

「従前,被告が原告に対し更新料の増額を打診していたのに対し,原告がこれに応じず,更新料として50万円しか支払っていなかった経緯があるところ,被告は,全加盟店に対し更新料の増額を提案しており,原告を除く全加盟店にはこれに応じてもらっていた。しかし,原告は,加盟店の中で唯一更新料の増額に応じないばかりか,研修等への参加を繰り返し怠り,店舗運営に関する被告の指導に従わず,a店のリニューアルのための協議も行おうとせずに独断で看板を改修するのみであり,やがて,被告からの連絡に一切応じない状況に至ったのであるから,原告と被告との間の信頼関係は既に破壊されており,被告の対応がフランチャイザーとしての優越的な地位を濫用するものであったとか,信義則に反するものであったということはできない。」

加盟者の主張

「本件平塚契約の期間満了日につき書面による合意があったわけではないが,仮にそれが平成29年9月5日であったとしても,原告は,そのわずか3日後の同月8日に本件平塚契約に係る更新料として50万円を支払っている。」

「従前,被告が更新料を100万円に増額するよう求めるのに対し,原告がこれを断り続けてきた経緯があるところ,被告は,平成28年12月頃からは,更新料の支払にかかわらず,店舗改善に係る指示に従わない限り更新を拒絶する意向を示しており,これまでの更新時と同様に平成29年6月までに更新料の支払を求める内容の請求書を送付するのではなく,同年8月下旬になって,約定の更新料の倍額である100万円を同月末日までに支払うよう求めるとともに,その支払がないときは本件平塚契約の更新を拒絶する内容の文書を原告の関連会社の所在地に宛てて送付した。この文書は,原告が100万円の支払に応じないことを見越した上で,原告を排除することを意図して一方的に更新を拒絶するものであり,被告は,フランチャイザーとしての優越的な地位を濫用している。

「このような状況に照らせば,被告が本件平塚契約の終了を主張し,更新を拒絶することは,合理的理由を欠き,社会通念上も相当ではないから,信義則に反し許されないというべきであり,本件平塚契約は,平成29年9月6日に更に更新されていた。」

裁判所の判断

 「前記認定事実によれば,本件平塚契約については,契約締結日は平成14年3月20日であり,a店が開店したのはそれから11か月以上を経過した平成15年9月6日であるが,初回の更新は平成20年9月6日とされ,それから3年ごとに更新が繰り返される扱いとされてきたことが認められる。」

「これによると,平成26年9月6日に更新された契約の期間満了日は平成29年9月5日であり,契約上,原告は,その80日前である同年6月17日までに更新料50万円を支払うべき義務を負っていたこととなる。しかし,原告は,それまでに上記更新料を一切支払っていなかったのであるから,本件平塚契約は,同年9月5日限り,期間満了により終了したといわざるを得ない。」

「原告は,従前から更新料は被告の請求を受けてから支払っており,期間満了日から80日前の日より後の日を支払期限とする請求を受けたこともあったと主張するが,契約上は,所定の期限を徒過して支払われた場合には期間満了により契約が終了するとされているのであって,被告の請求は要件とされておらず,従前,所定の期限よりも後に更新料が支払われたにもかかわらず,契約が期間満了により終了しないこととされていたのは,被告が特別にそのような扱いを許容していたためにすぎない。

「これに対し,本件平塚契約に係る平成29年の更新料については,前記認定のとおり,同年5月頃から被告が契約の更新に関する面談の申入れをしていたのに対し,原告は,これに対し何らの反応も示さず,その後,被告から同年8月31日を支払期限とする請求を受けたため,同年9月8日に至ってようやく更新料50万円を支払ったのである。そして,被告において,同年8月31日までであればともかく,契約の期間満了日を超過した同年9月8日まで更新料の支払期限を特別に猶予し,契約が期間満了により終了しないこととする扱いを許容していたことを認めるに足りる証拠はないから,原告の上記主張は,本件平塚契約が同月5日限り終了したとの判断に消長を来すものではない。

「このように解したとしても,本件平塚契約は事業者間契約であり,原告においても契約内容を十分に把握し得たはずであるから,原告にとって殊更に不利益な結果を生ずるということはできない。」

「したがって,本件平塚契約は,平成29年9月5日限り終了していたから,その後,被告が本件平塚契約に基づく役務の提供を終了したとしても,被告に債務不履行は生じないというべきである。」

コメント

更新料を期限どおりに支払わなかったことにより、フランチャイズ契約が終了してしまった事案です。

本件の特殊性としては、

① 従前の更新において、期限どおりに更新料を支払わなくとも許容されたことがあること

② 本部から更新料の増額を請求されており、それを拒否していた経緯があること

かと思います。

①については、「従前,所定の期限よりも後に更新料が支払われたにもかかわらず,契約が期間満了により終了しないこととされていたのは,被告が特別にそのような扱いを許容していたためにすぎない。」と認定されているとおり、過去許容されたからといって、今回も当然に許容されるわけではない(更新料の支払に関するフランチャイズ契約の内容が変更されるわけではない)ことは注意が必要です。

②については、特に裁判所は言及していませんが、「これによると,平成26年9月6日に更新された契約の期間満了日は平成29年9月5日であり,契約上,原告は,その80日前である同年6月17日までに更新料50万円を支払うべき義務を負っていたこととなる。しかし,原告は,それまでに上記更新料を一切支払っていなかったのであるから,本件平塚契約は,同年9月5日限り,期間満了により終了したといわざるを得ない。」と認定されている以上、(増額について当事者間で合意が成立していないとしても)従前の更新料(本件では50万円)は期限どおりに支払うべきであった、ということになります。

契約書どおりの認定をしたものであり、特に加盟者側からすれば、「形式的に過ぎるのではないか。」との意見があるかもしれません。

しかし、裁判所も、「このように解したとしても,本件平塚契約は事業者間契約であり,原告においても契約内容を十分に把握し得たはずであるから,原告にとって殊更に不利益な結果を生ずるということはできない。」と認定しているとおり、フランチャイズ契約は「事業者間の契約」である以上、契約書どおりの認定となってもやむを得ないのではないかと思います。

なお、反対に言えば、本部において更新料の支払について疑義のある説明をしていたといった特段の事業があれば、結論は異なり得るように思います。

おわりに

以上、更新料の支払遅延とフランチャイズ契約の終了について説明しました。