はじめに
(この記事は2021年5月16日に作成されたものです。)
フランチャイズの対象となる事業が、典型的には飲食店、コンビニエンスストアのような店舗を設置するものである場合、店舗の外観及び内観が、フランチャイズ・チェーンのブランドイメージを構成することがあります。
そのような場合、フランチャイズ契約において、フランチャイジー(以下「加盟者」といいます。)は、舗の外観及び内観を構成する各種工事の設計・施工についても、フランチャイザー(以下「本部」といいます。)が定める規格等に従わなければならない旨規定されることが多いです。
規定の方法としては、
加盟者は、本部作成の図面等にさえ従えばよく、設計事務所及び施工業者の選定は自由に行うことができる
とされることもあれば、
本部が、設計事務所又は施工業者を指定する
とされることもあります(この記事での説明は省略しますが、店舗の設計及び施工についての過度の制限は独占禁止法に違反する可能性がありますので、注意が必要となります(公正取引委員会「フランチャイズ・システムに関する独占禁止法上の考え方」3⑴ア参照)。)。
本部が施工業者を指定するような場合、本部と施工業者との関係性から、本部が、実際の施工に関するやり取りに関与することがありますが、加盟者が承諾していないままに本部が施工業者とのやり取りを進めると、工事完成後に紛争に発展する可能性があります。
例えば、施工開始後に生じた追加工事について、施工業者が本部とやり取りをした結果、本部が必要であると判断し、施工業者に発注したとします。加盟者は、当該追加工事について承諾していない場合に、当該追加工事代金の支払を拒絶することができるのでしょうか。
これを法的に見れば、フランチャイズ契約において、本部は、加盟者から、店舗内装工事の発注にかかる代理権を授与されているのか、という観点から問題となります。
この点につき参考となる令和の裁判例を紹介します。なお、裁判例の紹介に際しては、フランチャイズ契約における店舗内装工事の発注にかかる代理権の授与に関する内容のみを抽出しており、この点と関連しない記載には言及していません。
東京地判令和元年9月30日2019WLJPCA09308011
事案の概要
本件の「原告」は、「店舗用家具,オフィス用家具の製造及び販売,建築工事業等を業とする株式会社」であり、内装工事の施工業者です。
本件の「被告」は、「ビル,建物の総合管理,飲食店の経営,企画及び管理等を業とする株式会社」であり、フランチャイザー(本部)であるA社との間で、飲食店に係るフランチャイズ契約を締結したフランチャイジー(加盟者)です。
本件は、「原告」が、「被告」に対し、当該フランチャイズ契約において「被告」が営業する店舗の内装工事に関する請負契約に基づき、未払の請負代金等の支払を求める事案です。
本件において、「原告」は、A社を通じて、被告から、店舗の内装工事を請け負うこととし、当該内装工事に着工しましたが、その後、当該内装工事の作業中に新たに生じた追加工事も行いました。「被告」がこの追加工事の内容を了承していたか否かについて、当事者間で認識の齟齬が生じたのが、紛争の背景となります。
争点
① 内装工事等の発注について、「被告」がA社に代理権を授与したか。
② 内装工事等の発注について、表見代理が成立するか。
施工業者(原告)の主張
内装工事等の発注について、「被告」がA社に代理権を授与したか。
被告とA社との間で締結された本件フランチャイズ契約においては、
A社が被告に対し開業指導をする旨
被告が店舗開設にあたり店舗の営業設備の設計及び施工等につきA社の指示に従いその承認を得る旨
A社の被告に対する指示権
等が定められている。
したがって、被告は、A社との間で本件フランチャイズ契約を締結したことにより、A社に対し、内装工事等の発注につき、代理権を授与していた。
原告は、A社との交渉によって被告の意思を確認し、A社の指示によって内装工事等を行ったから、A社を代理人として被告との請負契約が成立している。
内装工事等の発注について、表見代理が成立するか。
被告は、A社との間でフランチャイズ契約を締結したことにより、A社に対し、本件店舗の工事につき指導権及び代理権を授与していた。
原告は、内装工事等について、A社と交渉し、現場の点検や指示を受けていたのであるから、内装工事等の発注につき、A社に代理権があると信じるについて十分な根拠がある。
したがって、原告とA社との間の内装工事等の発注については、民法110条の表見代理が成立する。
加盟者(被告)の主張
内装工事等発注について、「被告」がA社に代理権を授与したか。
被告がA社に代理権を授与した事実はない。
設計変更についてA社から一切説明を受けておらず、これを承諾した事実はない。
また、被告がA社に確認したところ、A社も設計変更を指示していないと言っていたのであり、原告が勝手に工事をして代金を請求をしているものである。
内装工事等の発注について、表見代理が成立するか。
争う。
裁判所の判断
内装工事等の発注について、「被告」がA社に代理権を授与したか。
「 (1) 本件フランチャイズ契約の契約書(乙7)には,
『A社は,被告に対し,(中略)開業指導を行うものとする』(10条1項),
『被告は,本件店舗を開設するにあたっては,品質の維持のため,店舗の営業設備の設計及び施工並びに購入及び設置につき,A社の指示に従いその承認を得るものとする』(16条1項),
『A社は,被告に対し,本件店舗施設の品質及びイメージの維持を図るための措置を指示することができ,被告は,A社の指示に従った措置をとるよう努めなければならない』(16条5項)
などの定めがある。
したがって,被告は,本件フランチャイズ契約に付随する義務として,A社の指示・指導に従う義務があり,A社の意向を反映させて開業準備を進めることは本件フランチャイズ契約の内容となっていたと認められる。」
「そして,前記認定のとおり,A社は,原告に対し,被告に対して直接連絡をしないように告げて原告と被告との交渉はA社が間に入って行われ,実際に本件各工事はA社が原告に指示をして行われていたところ(前記1(3)),上記本件フランチャイズ契約におけるA社の指示・指導権を反映させる方法として,本件店舗の開業に向けた内装工事に関する交渉や具体的な現場指示をA社が行っていたものとみることができる。」
「また,被告代表者も,」A社の経営企画部長である「Dに対し,『総合計575万 この金額にて施工ができるように再調整を指示してください。』とメールをしたり(前記1(6)),本件仕様変更について,一次的にA社に対し抗議をするとともに,納得できない部分の工事代金は支払わない旨の申入れをA社にするなど(前記1(15)),被告においてA社を通じて原告との交渉を行っていたことが認められる。そして,被告代表者も,A社を通じたやり取りの中でなし崩し的に工事が始まったとしても,工事内容が的確に行われるのであれば総額600万円で行うことについてはやむを得ないと考えており(被告代表者本人3頁),図面通りの工事が行われれば600万円を支払うのは当たり前のことだと認識していた(被告代表者本人21頁)ことが認められる。」
「 (2) 以上の事実によれば,被告は,総額600万円の本件本工事に係る請負契約を締結するについては,A社を通じて原告と交渉しており,図面どおりの工事が行われれば同額の工事代金を支払うことについても了承していたのであるから,A社に対し,原告との本件本工事契約締結に係る代理権を授与していたものと認められる。そして,A社は,被告のためにすることを示して,原告に対し,本件本工事の発注をしたものと認められるから,遅くとも被告が工事代金の半分を入金した4月6日頃,被告は原告との間で本件本工事に係る契約を締結したものと認められる。」
内装工事等の発注について、表見代理が成立するか。
「(1) 前記したところに照らせば,被告は,総額600万円を超える工事について了承しておらず,A社に同額を超える追加工事の発注について代理権を与えていたとは認められない。
したがって,A社が原告に対しカウンター内部工事を含む本件追加工事を指示したことは,無権代理行為である。」
「 (2) 原告は,仮にA社に代理権がなかったとしても,表見代理が成立する旨主張する。
そこで検討すると,前記のとおり,A社は,本件本工事について被告の代理人であったと認められる。そして,原告に対し,本件追加工事を指示することにより,被告のためにすることを示して,本件追加工事を発注したものと認められる。
そして,前記認定のとおり,原告は,本件各工事について,A社との間で具体的な交渉をし,現場の点検や指示を受けていたのであるから,本件追加工事の発注等につき,A社に代理権があると信じるについて正当な理由がある。
したがって,原告とA社との間の本件追加工事の発注等については,本件本工事の代理権を基本代理権として,民法110条の表見代理が成立する。」
「 (3) 被告は,A社が本件追加工事を指示した事実はなく,表見代理は成立しない旨主張するが,A社が指示をしたと認められることは前記2のとおりである。
そして,前記のとおり,実際にはA社の指示は被告の意向に反するものであったことが認められるが,A社が被告の意に反する追加工事を指示したことについては,被告とA社との間において,無権代理人の責任を追及するなりして解決されるべき問題であって,原告との間において本件追加工事に係る請負契約の効力を否定すべき事情とはならない。
したがって,被告の主張は採用することができない。」
コメント
裁判所は、フランチャイズ契約の規定のみならず、実際の本部と施工業者との間のやり取り、加盟者の認識を認定していますので、「被告は,本件店舗を開設するにあたっては,品質の維持のため,店舗の営業設備の設計及び施工並びに購入及び設置につき,A社の指示に従いその承認を得るものとする」といった規定だけで、施工業者に対する発注等の代理権まで認定されるわけではありません。
したがって、加盟者として、予期せぬ代理権の授与が認定される事態は多くないのではないかと思います。
しかし、民法は、表見代理という規定があり、「代理人がその権限外の行為をした場合において、第三者が代理人の権限があると信ずべき正当な理由があるとき」にも、代理人に代理権を授与した者がその責任を負う旨規定しています(民法110条)。
本件においても、「原告は,本件各工事について,A社との間で具体的な交渉をし,現場の点検や指示を受けていたのであるから,本件追加工事の発注等につき,A社に代理権があると信じるについて正当な理由がある。」との記載で、表見代理の成立が肯定されていますので、加盟者としては、予期せず施工業者に対する責任が認められてしまう可能性があります。
したがって、加盟者としては、本部が施工業者とのやり取りを担当している場合でも、本部に対し、実際に本部が施工業者との間でどのようなやり取りをしているのか、特に、請負契約の内容等については注意深く確認する必要がありますし、本部としても、加盟者の意向確認及びその証拠化を慎重にする必要があります。
なお、「被告とA社との間において,無権代理人の責任を追及するなりして解決されるべき問題」と判示されているとおり、本部が加盟者の意向に沿わず、施工業者との間で無権代理行為をした結果、加盟者に損害が発生した場合、加盟者は、本部に対し、当該損害の賠償を請求することになります。
おわりに
以上、フランチャイズ契約における店舗内装工事の発注にかかる代理権の授与について参考となる令和の裁判例を紹介しました。