フランチャイズ裁判例

フランチャイジーの従業員とフランチャイザーとの間の雇用契約【fc-cases #12】

はじめに

(この記事は2021年5月17日に作成されたものです。)

フランチャイズ契約に基づく経営指導義務の履行の一環として、フランチャイザー(以下「本部」といいます。)の役員又は従業員が、日常的に、フランチャイジー(以下「加盟者」といいます。)の従業員と直接やり取りをすることがあります。

そのような場合に、加盟者の従業員が、加盟者のみならず、本部との間にも雇用契約が成立しているとして、例えば、本部に対して残業代を請求するなどの事例が見受けられますが、加盟者の従業員によるこのような請求が認められることはあるのでしょうか。

この点につき参考となる令和の裁判例を紹介します。なお、裁判例の紹介に際しては、フランチャイジーの従業員とフランチャイザーとの間の雇用契約に関する内容のみを抽出しており、この点と関連しない記載には言及していません。

東京地判令和元年10月8日2019WLJPCA10088001

事案の概要

「被告Y1社」は、「リラクゼーションサロン(マッサージなど,リラックスを目的とした施術を行う施設)の企画・経営等を目的とする株式会社」であり、リラクゼーションサロンの本部です。

「被告Y2社」は、「インターネットホームページの企画制作並びに運営管理等を目的とする株式会社」であり、「被告Y1社」の加盟者です。

「原告」は、加盟者である「被告Y2社」の従業員ですが、「原告」は、リラクゼーションサロンの本部である「被告Y1社」との間でも雇用契約を締結したと主張して、加盟者である「被告Y2社」のみならず、本部である「被告Y1社」に対しても、残業代を請求した事案です。

争点

「原告」と「被告Y2」との間に雇用契約が存在するか否か

加盟者従業員(「原告」)の主張

「ア 原告は,本件店舗において就労していた間,本件店舗を経営していた被告ら3社から共同で雇用されていた。」

「イ 本件店舗のホームページには,本件店舗の運営者として,被告Y1社の商号が掲載されていた。また,原告は,被告Y1社の代表者A(以下「A」という。)から,本件店舗の業務に係る指示を受けていた。被告Y1社は,本件店舗のスタッフの報酬額を決め,原告や本件店舗のスタッフに対し定期的に業務に係る指揮・命令をしていた。」

本部の主張

「ア 本件店舗を経営し,原告を雇用していたのは,被告Y2社のみである。

このことは,原告に対して本件店舗における労働に対する賃金を支払っていたのは被告Y2社であり,原告の特別区民税の徴収義務者,雇用保険に係る事業所,原告が提出した退職届の宛先がいずれも被告Y2社とされていたことから明らかである。」

「イ 被告Y1社は,被告Y2社との間でリラクゼーションサロン事業に係るフランチャイズ契約を締結していた会社であり,本件店舗につき,フランチャイザーとしてスタッフの報酬額の決定や助言・視察をしたり報告を受けたりしていたが,被告Y1社が原告を雇用していたことはない。Aが原告に対して指揮・命令をしていたこともない。」

裁判所の判断

「被告Y1社と被告Y2社は,被告Y1社が展開するリラクゼーションサロン「○○」について,被告Y1社をフランチャイザー,被告Y2社をフランチャイジーとするフランチャイズ契約を締結し,被告Y2社は同契約に基づき本件店舗を経営していたことが認められる。」

「他方,被告Y1社が被告Y2社と共に原告を雇用していたとの事実を認めるに足りる的確な証拠はない。」

「被告Y1社は,原告から本件店舗におけるイベントに係る企画の提案を受け,その結果の報告を求め(甲12の1及び2),本件店舗に係る日報や帳簿等の提出を受け,Aにおいて業務上の指導をするなどし(甲20,甲21の1ないし3,甲22,甲24,甲25),Bは,Aに対し,本件店舗におけるスタッフ採用の条件等について報告をしていた(甲19)ことが認められる。」

「しかしながら,B及びCの陳述書(乙30,乙31)及び本人尋問における供述中には,被告Y1社は,フランチャイザーとして本件店舗の経営に係る指導や助言等を行っていたものであるとの記載部分及び供述部分(以下併せて「供述等」という。)がある。そして,被告Y1社の上記指導等は,その態様において,B及びCの上記供述等のとおり,フランチャイザーとしての関与の域を出ないものと解して不合理でなく,原告に対する雇用関係に基づく業務命令であったとまで必然的に評価できるものではない。

コメント

加盟者自身が、本部の労働者である、と主張する事例もありますが、本件は、加盟者の従業員が、加盟者のみならず、本部との間にも、雇用契約が存在する(要するに、本部の従業員である)と主張した事案です。

労働基準法は、「この法律で「労働者」とは、職業の種類を問わず、事業又は事務所(以下「事業」という。)に使用される者で、賃金を支払われる者をいう。」(労働基準法9条)と定義しています。

「賃金を支払われる」は比較的明確であると思いますが、「使用される者」は抽象的であり、結局のところはケースバイケースで判断せざるを得ません。

本件においても、雇用契約の存否が、本部が実施した経営指導の態様が「フランチャイザーとしての関与の域」を出るか否かにより判断されていますが、具体的に「フランチャイザーとしての関与の域」が何であるかは明示されておらず、依然として抽象的なままです。

労働省「労働基準法研究会報告(労働基準法の「労働者」の判断基準について)」(昭和60年12月19日)によりますと、「仕事の依頼、業務従事の指示等に対する諾否の自由の有無」(具体的な仕事の依頼、業務従事の指示等に対して諾否の自由を有しているか否か)、「業務遂行上の指揮監督の有無」(業務の内容及び遂行方法について具体的な指揮命令を受けているか否か、通常予定されている業務以外の業務に従事することがあるか否か)、「拘束性の有無」(勤務場所及び勤務時間が指定され、管理されているか否か)、「代替性の有無」(本人に代わって他の者が労務を提供することが認められているか否か)が考慮要素となるとされています。

これを前提に、「フランチャイザーとしての関与の域」を出ているか否かを考えますと、例えば、

本部の役員及び従業員が、経営指導の対象となる事項以外の事項についてまで、加盟者の従業員に指導等していること

本部の役員及び従業員が、加盟者の従業員の勤務場所及び勤務時間を指定、管理していること

といった場合には、労働者性がより肯定されることになるのではないかと思います。

おわりに

以上、フランチャイジーの従業員とフランチャイザーとの間の雇用契約につき、参考となる令和の裁判例を紹介しました。