フランチャイズ裁判例

フランチャイズ本部の構築失敗とコンサルティング報酬【fc-cases #16】

はじめに

(この記事は2021年6月4日に作成されたものです。)

フランチャイズ化を志向する事業者が、コンサルティング会社に対し、フランチャイズ本部の構築支援等を依頼することがあります。

コンサルティング会社の支援等にもかかわらず、事業者がフランチャイズ本部の構築を断念せざるを得ない場合、事業者において、コンサルティングの内容に比して報酬が高額に過ぎると主張し、コンサルティング報酬の全部又は一部の支払を拒絶するといった事態に発展することがあります。

それでは、フランチャイズ本部の構築に至らなかった場合に、事業者において、コンサルティング報酬の全部又は一部の支払を拒絶することができることはあるのでしょうか。

この点につき参考となる令和の裁判例を紹介します。なお、裁判例の紹介に際しては、フランチャイズ本部の構築失敗とコンサルティング報酬に関する内容のみを抽出しており、この点と関連しない記載には言及していません。

東京地判令和2年3月24日2020WLJPCA03248041

事案の概要

「原告」は、フランチャイズ化を志向する事業者であり、「ピラティススタジオ運営,ヨガスタジオ運営等を業とする株式会社」です。

「被告」は、コンサルティング会社であり、「フランチャイズ本部構築支援,のれん分け(社内の従業員が独立してフランチャイズ・オーナーとなる制度。社内フランチャイズ制度ともいう。)本部構築支援,フランチャイズ本部構築後の支援等を業とする株式会社」です。

「原告」と「被告」は、「フランチャイズ本部構築顧問契約」等を締結しましたが、「原告」は契約期間の途中から報酬を支払わなくなりました。

これを受け、「被告」は、「フランチャイズ本部構築顧問契約」等を解除し、未払の報酬を請求したのに対し、「原告」は、「被告がコンサルティング業務を完全に履行していない」(「被告」に債務不履行がある)と主張して、既払の報酬の一部の返還を請求しました。

争点

「被告」の債務不履行の有無

事業者(「原告」)の主張

(「A契約」=「フランチャイズ本部構築顧問契約」です。)

「A契約によって被告が取得する報酬額(2160万円(消費税込み))の高さや,A契約の目的(原告の事業組織をフランチャイズ・チェーン化すること)の明確性から,A契約に基づく被告の債務は,請負契約に近い性質を有するものであり,少なくとも被告のスタッフの数名が原告の事務所に常駐するなどして,同契約が終了した時点で確実にフランチャイズ・チェーン化を実現することを前提に,徹底したサポート体制を構築し,これを実行することを内容とするものであったというべきである。」

コンサルティング会社(「被告」)の主張

「被告の業務は,原告のフランチャイズ・チェーン本部構築及び社内フランチャイズ(のれん分け)制度構築を支援する顧問コンサルティング業務と,本部体制等に関するアドバイス業務であり,被告は,定例のコンサルティング会議,「のれん分け説明会」(「のれん分け」の候補者である原告の従業員に対して実施する説明会。以下同じ。),「社長塾」を開催したほか,個別の面談,メールや電話での打合せ・相談対応,書面作成の支援,資料や情報の提供,「フランチャイズ・ショー」出展に向けた助言,提案,被告主催のセミナーへの原告の従業員の招待等により,これらを履行した。」

裁判所の判断

(「A契約」=「フランチャイズ本部構築顧問契約」です。)

「被告は,概ね月に1回から2回程度の頻度で定例のコンサルティング会議を開催し,ヒアリングシートに対する原告の回答や原告から提供された資料等に基づく議論を通じて原告にアドバイスをし,期日間には,マニュアル等の作成を進めたり,参考となる他社の事例を提供するなどして原告の検討を促したりして,原告のフランチャイズ・チェーン本部及び社内フランチャイズ(のれん分け)制度の構築に向けた資料の作成やアドバイスをしていたことが認められるのであって,このような被告の活動状況からみて,被告は,A契約に基づく業務をその趣旨に沿って履行したものとみることができるのであって,債務の本旨に従ってその履行をしたということができる。」

「原告は,A契約によって被告が取得する報酬額の高さや,A契約の目的の明確性から,A契約は,請負契約に近い性質を有し,契約が終了した時点で確実にフランチャイズ・チェーン化を実現することを前提に,徹底したサポート体制を構築し,これを実行することを内容とするものであったと主張する。しかし,A契約で定められた報酬額の多寡によって直ちに本件各契約の性質が請負契約に近いものであったか否が決まるわけではなく,かえって,前記1(3)(4)でみたとおり,A契約に係る契約書には,本件各契約が「顧問契約」であって,被告が行う業務はあくまでフランチャイズ本部の構築等の「支援」であることが明記されているほか,被告による業務の履行方法も全体会議の開催等によるなど具体的に記載されているのであり,また,B契約に係る契約書にも,被告の業務として本部構築に関するアドバイスが含まれていたのであって,これらのことからみれば,A契約が請負契約に近い性質を有していたとか,その内容として原告においてフランチャイズ本部体制が完成し,フランチャイズ・チェーン化の実現に至ることが当然の前提にされていたなどとみることは,到底困難である。原告が前記第2の2(1)ア(ア)で主張しているその他の点も,本件各契約で定められている内容を超える業務の履行や,同契約で定められている方法とは異なる方法による業務の履行を被告に求めることができることを前提としたものとみざるを得ず,このような原告の主張も採用することができない。」

コメント

コンサルティング報酬の問題は、

①コンサルティング報酬が、その内容に比して著しく高額であり、公序良俗に違反しているか否か

②コンサルティング報酬は、フランチャイズ本部の構築の対価であるか否か

という2つの問題があります。

②は、法的には、コンサルティング契約の法的性質が、請負契約であるのか、準委任契約であるのか、といった観点から議論されます。

請負契約は、「当事者の一方がある仕事を完成することを約し、相手方がその仕事の結果に対してその報酬を支払うことを約する」(民法632条)もので、報酬を得るためには、仕事を完成させなければなりません。コンサルティング契約が請負契約であるとすると、コンサルティング会社が報酬を得るためには、フランチャイズ本部の構築という仕事を完成させなければならないことを意味します。

これに対し、準委任契約は、「法律行為でない事務の委託」をするものであり(民法656条、643条)、委任を受けた事務を処理すればよく、請負契約のような「仕事を完成する」ことなく報酬を得ることができます。

本件の「原告」は、②において、コンサルティング報酬が高額であることをもって、コンサルティング契約が請負契約の性質を持つとの主張をしましたが、裁判所は、「報酬額の多寡によって直ちに本件各契約の性質が請負契約に近いものであったか否が決まるわけではなく」と判示しました。

①と②は別の問題であることからも、この裁判所の判示は妥当なものであると思います。

そのうえで、裁判所は、「被告が行う業務はあくまでフランチャイズ本部の構築等の「支援」であることが明記されている」といった事情から、「A契約が請負契約に近い性質を有していたとか,その内容として原告においてフランチャイズ本部体制が完成し,フランチャイズ・チェーン化の実現に至ることが当然の前提にされていたなどとみることは,到底困難である。」と判示しました。

コンサルティング契約の実態からしても、妥当な判示であると思いますが、コンサルティング会社の側からは、契約書にあくまでも「支援」に過ぎず、フランチャイズ本部の構築という結果まで約束したものではないことを明記することが重要であることを再確認できる事案ではないかと思います。

反対に、フランチャイズ化を志向する事業者の側からは、多くのコンサルティング契約がこのような建付けになっており、報酬の多寡により、その結論が変わるものではないことには、注意が必要であると思います。

おわりに

以上、フランチャイズ本部の構築失敗とコンサルティング報酬につき参考となる令和の裁判例を紹介しました。