フランチャイズ裁判例

商標権の譲渡とロイヤリティ【fc-cases #18】

はじめに

(この記事は2021年6月9日に作成されたものです。)

一般に、ロイヤリティは、継続的な経営指導の対価のみならず、継続的な商標使用許諾の対価でもあることが多いです。

そうである以上、フランチャイザー(以下「本部」といいます。)がフランチャイジー(以下「加盟者」といいます。)に使用を許諾する商標の商標権を有していることが前提となっています。

それでは、フランチャイズ契約の締結後に本部が第三者に商標権を譲渡し、この前提が失われた場合、加盟者は、引き続き商標を使用できたとしても、本部に対し、ロイヤリティの一部(継続的な商標使用許諾の対価に相当する部分)の支払を拒絶することができるでしょうか。

この点につき参考となる令和の裁判例を紹介します。なお、裁判例の紹介に際しては、商標権の譲渡とロイヤリティに関する内容のみを抽出しており、この点と関連しない記載には言及していません。

知財高判令和2年6月30日裁判所ウェブサイト

事案の概要

本件は、リハビリ型デイサービスに係るフランチャイズ事業等を営む「被控訴人」が、「控訴人」との間でフランチャイズ契約を締結したが、「控訴人」がロイヤリティ等の支払を怠ったことによりフランチャイズ契約を解除したとして,未払ロイヤルティ等を請求した事案です。

加盟者(控訴人)の主張

「ロイヤリティのうち一部は,被控訴人が本件登録商標権を有していることを前提に,これを使用許諾することの対価として徴収されていたが,本件商標権譲渡契約の後は,被控訴人は本件登録商標権の持分を有しておらず,その通常使用権者にすぎなかったから,他人に対して本件登録商標の使用許諾の権原を有していなかった。」

「また,同契約5条2項及び同3項の規定によれば,同契約の後は,」A社「が自らの商標権に基づき,控訴人に対して直接本件登録商標の無償使用を許諾していたということができる。」

「このように,被控訴人は,控訴人に対し,同契約がなされた平成27年4月30日以降,本件商標権に基づく商標使用料を徴収する権原を失っていたといえる。したがって,同日以降の未払ロイヤリティの請求のうち,商標使用の対価相当分は理由がない。」

本部の主張

「本件商標権譲渡契約の5条2項に基づき,被控訴人は,」A社「から,同契約締結時点の被控訴人の加盟店に対して本件登録商標の使用を再許諾できる権利の設定を受けているから,同契約の締結以降も,控訴人に対して使用料を請求できる。」

「なお,通常使用権者も,商標権者から再許諾権の設定を受けることにより,第三者に使用権を許諾できる。」

裁判所の判断

「控訴人は,本件登録商標権の持分移転の後は,被控訴人はその使用許諾の権原を失うから,ロイヤリティのうち商標使用の対価相当分につき控訴人は支払義務を負わない旨主張する。」

「しかしながら,本件商標権譲渡契約においては,被控訴人の加盟店が,同契約締結後も本件商標の使用を希望するときには,既存の事業所に限り,本件商標の使用を許諾し,その際,」A社「は,被控訴人に対しても,被控訴人の加盟店に対しても,使用料を請求しないものとされている(被控訴人に使用料を請求しないとされている前提として,」A社「が被控訴人に対して本件商標の使用を許諾しているものと解される。)こと,本件登録商標権の持分移転の後も,」A社「と控訴人との間で商標の使用許諾に関する契約が締結されていないことに照らすと,持分移転された本件登録商標権の使用につき,」A社「が被控訴人に対して,再許諾を許可した上で無償でこれを許諾し,これを更に被控訴人が控訴人に対して再許諾しているとみるべきである。

「したがって,控訴人と被控訴人との間には,本件商標権譲渡契約後も,本件商標の使用許諾(再許諾)関係が継続していたことになるから,控訴人の上記主張は採用することができない。」

コメント

加盟者がロイヤリティの一部(継続的な商標使用許諾の対価に相当する部分)の支払を拒絶できるか否かについて、裁判所は、本部が商標権を保有しているか否かではなく、(当該第三者から使用許諾を受けた)本部が加盟者に商標の使用を再許諾しているか否か、により判断しました。

この裁判例からすると、第三者が本部に商標の使用許諾を認めず、第三者が加盟者に直接商標の使用許諾をしているような場合には、加盟者は本部に対してロイヤリティの一部(継続的な商標使用許諾の対価に相当する部分)の支払を拒絶できることになります。

例外的な事例であると思いますが、本部において、加盟者に使用許諾している商標の商標権を譲渡する場合には、譲渡後の権利関係を明確にしておくべき必要があります。

おわりに

以上、商標権の譲渡とロイヤリティにつき参考となる令和の裁判例を紹介しました。