はじめに
(この記事は2021年4月29日に作成されたものです。)
公正取引委員会は、2021年4月28日、「フランチャイズ・システムに関する独占禁止法上の考え方」(以下「フランチャイズ・ガイドライン」といいます。)を改正しました。
改正の経緯について、公正取引委員会は、以下のように説明しています。
また,公正取引委員会は,フランチャイズ・システムを用いて事業活動を行うコンビニエンスストアの本部と加盟者との取引等について,24時間営業をはじめとして,これまでのコンビニエンスストアの本部と加盟者との在り方を見直すような動きが生じていることなどを受けて,両者の取引の実態を把握すべく,我が国に所在する大手コンビニエンスストアチェーンの全ての加盟者を対象とした初めての大規模実態調査を行い,令和2年9月に調査報告書を公表しました。当該調査の結果,コンビニエンスストアの本部と加盟者との取引においては,今なお多くの取り組むべき課題があることが明らかとなったため,公正取引委員会は,当該課題を踏まえて,別紙のとおりフランチャイズ・ガイドラインを改正することを予定しています。
公正取引委員会「(令和3年1月29日)「フランチャイズ・システムに関する独占禁止法上の考え方について」の改正(案)に対する意見募集について」(2021年1月29日)
それでは、具体的には、どのような点が改正されたのでしょうか。
以下では、フランチャイズ・ガイドラインの令和3年改正の主な改正点について説明します。
フランチャイズ・ガイドラインの主な改正点
フランチャイズ契約締結前の情報開示
「重要な事項」の開示
前提として、フランチャイズ・ガイドラインは、
「フランチャイズ本部は,事業拡大のため,広告,訪問等で加盟者を募り,これに応じて従来から同種の事業を行っていた者に限らず給与所得者等当該事業経験を有しない者を含め様々な者が有利な営業を求めて加盟しているが,募集に当たり,加盟希望者の適正な判断に資するため,十分な情報が開示されていることが望ましい。」
としたうえで、
「十分な開示を行わず,又は虚偽若しくは誇大な開示を行い,これらにより,実際のフランチャイズ・システムの内容よりも著しく優良又は有利であると誤認させ,競争者の顧客を自己と取引するように不当に誘引する場合には,不公正な取引方法の一般指定の第8項(ぎまん的顧客誘引)に該当する。」
と記載しており、フランチャイズ契約締結前の情報開示が適切に行われないと、独占禁止法に違反する(ぎまん的顧客誘引に該当する)との見解を示しています。
そして、令和3年改正においては、このフランチャイズ契約締結前の情報開示について、以下のような改正を行いました。
まず、フランチャイザー(以下「本部」といいます。)によるフランチャイジー(以下「加盟者」といいます。)の募集について、令和3年改正により、以下の注の場所が移動しました。内容に修正はありませんが、重要な内容ですので、改めて言及します。
改正前 | 改正後 |
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移動 | (注1)中小小売商業振興法は,同法の対象となる本部が加盟希望者に対して,契約締結前に一定の事項を記載した書面を交付し,説明することを義務付けているが,独占禁止法違反行為の未然防止の観点からも,本部は,加盟希望者が契約締結について十分検討を行うために必要な期間を置いて,上記並びに下記イ及びウに掲げるような重要な事項について記載した書面を交付し,説明することが望ましい。 |
中小小売商業振興法により、法定開示書面の交付とその説明を義務付けられているのは、同法11条1項の「特定連鎖化事業」に該当するフランチャイズ事業を展開している本部に限られますので、それ以外の本部は法定開示書面の交付とその説明を行わずとも、中小小売商業振興法上は問題ありません。
フランチャイズ・ガイドラインは、中小小売商業振興法上法定開示書面の交付とその説明を義務付けられておらずとも、独占禁止法違反(ぎまん的顧客誘引)の未然防止の観点から、フランチャイズ契約の「重要な事項」について記載した書面を交付し、その説明を行うことが望ましいことが明記されていました。
「重要な事項」の追加
令和3年改正において、フランチャイズ契約締結前に情報開示することが望ましい「重要な事項」として、以下の事項が追加されました。
改正前 | 改正後 |
---|---|
新設 | ウ 加盟者募集に際して,本部が営業時間や臨時休業に関する説明をするに当たり,募集する事業において特定の時間帯の人手不足,人件費高騰等が生じているような場合等その時点で明らかになっている経営に悪影響を与える情報については,加盟希望者に当該情報を提示することが望ましく,例えば,人手不足に関する情報を提示する場合には,類似した環境にある既存店舗における求人状況や加盟者オーナーの勤務状況を示すなど,実態に即した根拠ある事実を示す必要がある。 |
「重要な事項」の補足
令和3年改正において、フランチャイズ契約締結前に情報開示することが望ましい「重要な事項」のうち、中途解約の条件、ドミナント出店の配慮をする場合の配慮の内容、モデル収益等を開示する場合の開示方法、について、以下の記載が追加されました。
改正前 | 改正後 |
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新設 | (注2)フランチャイズ契約において,中途解約の条件が不明確である場合,加盟に当たって加盟希望者の適正な判断が妨げられるだけでなく,加盟後においても,加盟者はどの程度違約金を負担すれば中途解約できるのか不明であるために解約が事実上困難となることから,本部は中途解約の条件をフランチャイズ契約上明確化するとともに,加盟者募集時に十分説明することが望ましい。 |
新設 | (注3)加盟者募集に際して,加盟希望者の開業後のドミナント出店に関して,配慮を行う旨を提示する場合には,配慮の内容を具体的に明らかにした上で取決めに至るよう,対応には十分留意する必要がある。 |
新設 | (注4) 加盟希望者が出店を予定している店舗における売上げ等を予測するものではないという点で厳密な意味での予想売上げ又は予想収益ではなく,既存店舗の収益の平均値等から作成したモデル収益や収益シミュレーション等を提示する場合は,こうしたモデル収益等であることが分かるように明示するなどした上で,厳密な意味での予想売上げ等ではないことが加盟希望者に十分に理解されるように対応する必要がある。 なお,中小小売商業振興法は,同法の対象となる本部に対して,周辺の地域の人口,交通量その他の立地条件が 類似する店舗の直近の三事業年度における収支に関する事項について情報開示・説明義務を課しているとこ ろ,予想売上げ等ではないことが加盟希望者に十分に理解されるように対応する必要がある。 |
中途解約の条件
中途解約条件の明確化の記載が新設されたのは、公正取引委員会の「コンビニエンスストア本部と加盟店との取引等に関する実態調査報告書」(2019年2月)において、「ロイヤルティの額はオーナー収入の5倍近くに達するため,経営不振店等の場合には,辞めたくても解約金を準備できずに辞められないといった状況も生じ得る。」(同47頁)として、以下のような「チェーンからの脱退に要する金銭に関する意見」が述べられていたことによるものと思われます(意見は抜粋です。)。
・ 具体的にいくら払えば辞められるか分からない/説明されたことがない/具体的な事例で明文化して欲しい/ケース別の解約金が分からない
公正取引委員会「コンビニエンスストア本部と加盟店との取引等に関する実態調査報告書」48頁(2019年2月)
・ 本当に取るのか取らないのか不明確。本部の意向に沿わない場合,取ることもあるらしい
・ 契約書に基づいて計算するととても払えない金額となり辞めたくても辞められない
・ 長期契約で途中解約時に多額の違約金が必要なのは不安要素である
・ 払えないので契約満了まで無理するしかない
本部としては、フランチャイズ契約において中途解約の条件が適切に明示されているかを改めて確認することが望ましいですし、加盟者としては、フランチャイズ契約において中途解約の条件が明示されていない又は不明確である場合には、本部にその条件を確認し、フランチャイズ契約に明示してもらうことが考えられます。
ドミナント出店の配慮の内容
ドミナント出店について配慮を提示する場合の記載が新設されたのは、ドミナント出店に関する本部と加盟者との間の認識の齟齬から紛争に発展する可能性があり、公正取引委員会の「コンビニエンスストア本部と加盟店との取引等に関する実態調査報告書」(2019年2月)において、独占禁止法との関係が以下のように整理されたことによります。
加盟店募集時の説明において,周辺地域への追加出店について,実際には配慮するつもりがないのに「配慮する」と説明することにより,実際のフランチャイズ・システムの内容よりも著しく優良又は有利であると誤認させ,競争者の顧客を自己と取引するように不当に誘引する場合にも,不公正な取引方法の一般指定の第8項(ぎまん的顧客誘引)に該当し得る。
公正取引委員会「コンビニエンスストア本部と加盟店との取引等に関する実態調査報告書」187頁(2019年2月)
次に,加盟契約において加盟者にテリトリー権が設定されているにもかかわらず,本部がその地位を利用してこれを反故にし,テリトリー圏内に同一又はそれに類似した業種を営む店舗を本部が自ら又は他の加盟者に営業させることにより,加盟者に対して正常な商慣習に照らして不当に不利益を与える場合には優越的地位の濫用に該当し得る。
公正取引委員会「コンビニエンスストア本部と加盟店との取引等に関する実態調査報告書」187~188頁(2019年2月)
また,加盟契約において周辺地域への出店時には本部が「配慮する」と定めた上で,加盟前の説明において,何らかの支援を行うことや一定の圏内には出店しないと約束しているにもかかわらず,本部がその地位を利用してこれを反故にし,一切の支援等を行わなかったり,一方的な出店を行ったりすることにより,加盟者に対して正常な商慣習に照らして不当に不利益を与える場合にも優越的地位の濫用に該当し得る。
ドミナント出店の配慮をするつもりがないにもかかわらず、配慮すると約束したり、配慮すると約束したにもかかわらず、その約束を反故にすることが問題となることは明らかであると思います。
ここで問題となるのは、フランチャイズ契約においてドミナント出店の配慮をすることを約束していないにもかかわらず、本部の担当者が、営業トークの一環として、権限がないにもかかわらず、口頭で加盟者にドミナント出店の配慮を約束するようなケースで、そもそも配慮の約束の有無から問題となるケースがあるように思います。
本部としては、担当者がこのような営業トークをしないように改めて注意喚起をすることが必要となりますし、加盟者としても、担当者の口頭の約束を信用するのではなく、きちんとフランチャイズ契約において明文化されているかを確認するようにすることが重要かと思います。
モデル収益等の開示方法
モデル収益等を開示する場合に、それが当該店舗の「予想売上げ」等であるとの誤解を招かないように、十分な説明をすることについての記載が新設されたのは、実態として、この点の誤解が生じている例が見受けられたことによります。
とりわけ,事業経営経験の無い加盟希望者等の場合,「参考」としての説明であっても「予想売上げ」や「予想収益」又はそれと同等のものと受け止める可能性もあることから,加盟者募集時の説明に当たっては特に丁寧な説明が必要になる点に留意する必要がある。
公正取引委員会「コンビニエンスストア本部と加盟店との取引等に関する実態調査報告書」202頁(2019年2月)
その他
その他、典型的にはコンビニエンスストアにおけるフランチャイズ契約が想定された記載ですが、ロイヤリティの算定方法の開示がぎまん的顧客誘引に該当するか否かについて、以下の改正がありました。
改正前 | 改正後 |
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ロイヤルティの算定方法に関し,必要な説明を行わないことにより,ロイヤルティが実際よりも低い金額であるかのように開示していないか。例えば,売上総利益には廃棄した商品や陳列中紛失等した商品の原価(以下「廃棄ロス原価」という。)が含まれると定義した上で,当該売上総利益に一定率を乗じた額をロイヤルティとする場合,売上総利益の定義について十分な開示を行っているか,又は定義と異なる説明をしていないか。 | ロイヤルティの算定方法に関し,必要な説明を行わないことにより,ロイヤルティが実際よりも低い金額であるかのように開示していないか。例えば,仕入れた全商品の仕入原価ではなく実際に売れた商品のみの仕入原価を売上原価(異なる名称であってこれと同一の意味で用いられるものを含む。以下同じ。)と定義し,売上高から当該売上原価を控除することにより算定したものを売上総利益(異なる名称であってこれと同一の意味で用いられるものを含む。以下同じ。)と定義した上で,当該売上総利益に一定率を乗じた額をロイヤルティとする場合(注5),当該売上総利益の定義について十分な開示を行っているか,又は定義と異なる説明をしていないか。 (注5)この場合,廃棄した商品や陳列中に紛失等した商品の仕入原価(以下「廃棄ロス原価」という。)は,「(売上高-売上原価)×一定率」で算定されるロイヤルティ算定式において売上原価に算入されず,算入される場合よりもロイヤルティの額が高くなる。 |
フランチャイズ契約締結後の本部と加盟者との取引
フランチャイズ・ガイドラインは、フランチャイズ契約締結後の本部と加盟者との取引において、優越的地位の濫用(独占禁止法2条9項5号)に該当し、独占禁止法違反となり得る行為の具体例を列挙しています。
令和3年改正においては、公正取引委員会「コンビニエンスストア本部と加盟店との取引等に関する実態調査報告書」(2019年2月)において本部と加盟者との間で優越的地位の濫用の問題が指摘された、無断発注、見切り販売の制限、24時間営業(営業時間の短縮に係る協議拒絶)、事前の取決めに反するドミナント出店等についての改正がされています。
無断発注
令和3年改正において、無断発注が優越的地位の濫用に該当し、独占禁止法違反となり得ることが明示されました。
改正前 | 改正後 |
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(仕入数量の強制) ○ 本部が加盟者に対して,加盟者の販売する商品又は使用する原材料について,返品が認められないにもかかわらず,実際の販売に必要な範囲を超えて,本部が仕入数量を指示し,当該数量を仕入れることを余儀なくさせること。 | (仕入数量の強制) ○本部が加盟者に対して,加盟者の販売する商品又は使用する原材料について,返品が認められないにもかかわらず,実際の販売に必要な範囲を超えて,本部が仕入数量を指示すること又は加盟者の意思に反して加盟者になり代わって加盟者名で仕入発注することにより,当該数量を仕入れることを余儀なくさせること。 |
見切り販売の制限
令和3年改正において、優越的地位の濫用に該当し、独占禁止法違反となり得る「見切り販売の制限」についての説明が追加されました。
改正前 | 改正後 |
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(見切り販売の制限) ○ 廃棄ロス原価を含む売上総利益がロイヤルティの算定の基準となる場合において,本部が加盟者に対して,正当な理由がないのに,品質が急速に低下する商品等 の見切り販売を制限し,売れ残りとして廃棄することを余儀なくさせること(注4) | (見切り販売の制限) ○実際に売れた商品のみの仕入原価を売上原価と定義し,売上高から当該売上原価を控除することにより算定したものを売上総利益と定義した上で,当該売上総利益がロイヤルティの算定の基準となる場合において,本部が加盟者に対して,正当な理由がないのに,品質が急速に低下する商品等の見切り販売を制限(注8)し,売れ残りとして廃棄することを余儀なくさせること(注9)。 |
新設 | (注8)見切り販売を行うには,煩雑な手続を必要とすることによって加盟者が見切り販売を断念せざるを得なくなることのないよう,本部は,柔軟な売価変更が可能な仕組みを構築するとともに,加盟者が実際に見切り販売を行うことができるよう,見切り販売を行うための手続を加盟者に十分説明することが望ましい。 |
(注4) コンビニエンスストアのフランチャイズ契約においては,売上総利益をロイヤルティの算定の基準 としていることが多く,その大半は,廃棄ロス原価を売上原価に算入せず,その結果,廃棄ロス原価が売上総利益に含まれる方式を採用している。この方式の下では,加盟者が商品を廃棄する場合には,加盟者は,廃棄ロス原価を負担するほか,廃棄ロス原価を含む売上総利益に基づくロイヤルティも負担することとなり,廃棄ロス原価が売上原価に算入され,売上総利益に含まれない方式に比べて,不利益が大きくなりやすい。 | (注9)コンビニエンスストアのフランチャイズ契約においては,売上高から売上原価を控除して算定される売上総利益をロイヤルティの算定の基準としていることが多く,その大半は,廃棄ロス原価を売上原価に算入しない方式を採用している。この方式の下では,加盟者が商品を廃棄する場合には,廃棄ロス原価を売上原価に算入した上で売上総利益を算定する方式に比べて,ロイヤルティの額が高くなり,加盟者の不利益が大きくなりやすい。 |
営業時間の短縮に係る協議拒絶
令和3年改正において、営業時間の短縮に係る協議拒絶が優越的地位の濫用に該当し、独占禁止法違反となり得ることが明示されました。
改正前 | 改正後 |
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新設 | (営業時間の短縮に係る協議拒絶) ○本部が,加盟者に対し,契約期間中であっても両者で合意すれば契約時等に定めた営業時間の短縮が認められるとしているにもかかわらず,24時間営業等が損益の悪化を招いていることを理由として営業時間の短縮を希望する加盟者に対し,正当な理由なく協議を一方的に拒絶し,協議しないまま,従前の営業時間を受け入れさせること。 |
事前の取決めに反するドミナント出店等
令和3年改正において、事前の取決めに反するドミナント出店等が優越的地位の濫用に該当し、独占禁止法違反となり得ることが明示されました。
改正前 | 改正後 |
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新設 | (事前の取決めに反するドミナント出店等) ○ドミナント出店を行わないとの事前の取決めがあるにもかかわらず,ドミナント出店が加盟者の損益の悪化を招く場合において,本部が,当該取決めに反してドミナント出店を行うこと。 また,ドミナント出店を行う場合には,本部が,損益の悪化を招くときなどに加盟者に支援等を行うとの事前の取決めがあるにもかかわらず,当該取決めに反して加盟者に対し一切の支援等を行わないこと。 |
おわりに
以上、フランチャイズ・ガイドラインの令和3年改正の主な改正点について説明しました。