フランチャイズ

中小小売商業振興法施行規則の改正【franchise #7】

はじめに

(この記事は2021年4月23日に作成されたものです。)

経済産業省は、2021年4月1日に、中小小売商業振興法施行規則の一部を改正する省令を公布し、法定開示書面の記載事項に「加盟者の店舗のうち、周辺の地域の人口、交通量その他の立地条件が類似するものの直近の三事業年度の収支に関する事項」を追加する等の改正が行われることになりました。

経済産業省は、2021年4月1日(木曜日)、中小小売商業振興法施行規則の一部を改正する省令を公布しました。本省令は、特定連鎖化事業(コンビニエンス・ストア等の小売商業に関するフランチャイズ・ビジネス)を行う方が、加盟希望者との契約前に書面で説明すべき事項として、「加盟者の店舗のうち、周辺の地域の人口、交通量その他の立地条件が類似するものの直近の三事業年度の収支に関する事項」を追加する等の改正を行うものであり、公布から1年後の2022年4月1日に施行されます。

経済産業省「中小小売商業振興法施行規則の一部が改正されます」

その概要は、以下のとおりです。

本省令は、中小小売商業振興法(昭和48年法律第101号)に基づき、特定連鎖化事業(コンビニエンス・ストア等の小売商業に関するフランチャイズ・ビジネス)を行う方が、加盟希望者との契約前に書面で説明すべき事項として、「加盟者の店舗のうち、周辺の地域の人口、交通量その他の立地条件が類似するものの直近の三事業年度の収支に関する事項」を追加する等の改正を行うものであり、公布から1年後の2022年4月1日に施行されます。

経済産業省「中小小売商業振興法施行規則の一部が改正されます」

以下では、この改正の内容と背景について説明します。

中小小売商業振興法施行規則の改正の内容

従前の法定開示書面の記載事項については、削除や修正等はされず、「加盟者の店舗のうち、周辺の地域の人口、交通量その他の立地条件(次条において単に「立地条件」という。)が類似するものの直近の三事業年度の収支に関する事項」が追加されました(改正中小小売商業振興法施行規則10条7号)。

より具体的には、以下の各事項を記載することとなります(改正中小小売商業振興法施行規則11条7号)。

  • イ 当該特定連鎖化事業を行う者が把握している加盟者の店舗に係る次に掲げる項目に区分して表示した各事業年度における金額(⑹にあっては、項目及び当該項目ごとの金額)
    • ⑴ 売上高
    • ⑵ 売上原価
    • ⑶ 商号使用料、経営指導料その他の特定連鎖化事業を行う者が加盟者から定期的に徴収する金銭
    • ⑷ 人件費
    • ⑸ 販売費及び一般管理費(⑶及び⑷に掲げるものを除く。)
    • ⑹ ⑴から⑸までに掲げるもののほか、収益又は費用の算定の根拠となる事項
  • ロ 立地条件が類似すると判断した根拠

施行は2022年4月1日ですので、フランチャイザー(本部)は、同日までに、同日以降の法定開示書面について、以上の記載事項の追記を検討しなければなりません。

なお、「立地条件が類似すると判断した根拠」を記載するためには、フランチャイザー(本部)は、既存の加盟店の中から「立地条件が類似する」ものがあるか否かを判断しなければなりません。改正中小小売商業振興法施行規則では、どのような観点で「立地条件が類似する」か否かを判断すればよいかまでは明示していませんので、ここはフランチャイザー(本部)にて判断する必要があり、ケースによっては難しい判断を迫られることもあろうかと思います。

中小小売商業振興法施行規則の改正の経緯

中小企業庁の説明

令和3年改正の経緯について、中小企業庁は、以下のとおり説明しています。

昨今の最低賃金の引き上げなど人的コストの上昇の中で、小売業や飲食業等の特定連鎖化事業においても、売上げが伸びなければ加盟店の利益は圧迫されていくこととなるが、こうした環境変化を受け、特にコンビニエンスストアについては、経済産業省「新たなコンビニのあり方検討会」報告書において、加盟希望者に対して店舗の経営に関連する様々な情報を開示し説明を尽くすことが本部とオーナーの認識ギャップを解消する有力な手段になるとして、例えば、フランチャイズ契約締結時に、既存の加盟店の経営状況が分かる定量的な情報を本部が適切に開示することの義務付けも検討すべきと提言されたところである。

また、公正取引委員会「コンビニエンスストア本部と加盟店との取引等に関する実態調査報告書」においても、調査結果を受けて、加盟者募集に際して「人件費が高騰してきている」といったリスク情報や加盟後にオーナーが負担することとなる経費等の情報を示すなど、加盟希望者が適切な判断を行えるよう丁寧な説明を行うことが望まれるとしている。

これらを踏まえ、特定連鎖化事業の持続的な成長の実現に向け、契約締結時の情報開示に係る取組を充実すべく所要の改正を行う。

中小企業庁「中小小売商業振興法施行規則の一部改正について」(令和3年1月29日)

要するに、フランチャイズ契約の締結時における情報開示について

  1. 経済産業省「新たなコンビニのあり方検討会」報告書の提言
  2. 公正取引委員会「コンビニエンスストア本部と加盟店との取引等に関する実態調査報告書」の指摘

があったことが背景にあるとの説明がなされています。

経済産業省「新たなコンビニのあり方検討会」報告書の提言

経済産業省「新たなコンビニのあり方検討会」報告書の提言とは、以下の記載を指しています。

新たなオーナーを確保する上では、コンビニオーナーという職業を魅力的なものにすること、その魅力を可視化することも重要である。そのためには、フランチャイズ契約を締結する際に、店舗の経営に関連する様々な情報を新たにオーナーになろうとする人に対して開示し、説明を尽くすことで、本部とオーナーの認識ギャップを解消することが有力な手段となる。例えば、フランチャイズ契約締結時に、既存の加盟店の経営状況が分かる定量的な情報を本部が適切に開示することの義務付けも検討すべきである。また、オーナーになろうとする人が店舗経営の実態を実地に経験した上で契約関係に入ることのできる仕組みの充実なども期待されるところである。

経済産業省「『新たなコンビニのあり方検討会』報告書」9頁(2020年2月10日)

この報告書においてこのような記載が挿入された背景については、「新たなコンビニのあり方検討会」の議事録等を見ていくと、加盟者ヒアリングで以下のような意見が提出されたことが理由のようです。

②新規オーナーとの関係

● 契約の募集の段階で、やっぱり本部の対応が問題あるのではないか。実際の事実を隠して募集している。(札幌)

●  新規オーナーの獲得のところに問題がある。各社のホームページでも、こんなに儲かるといったことを謳っている。(東京②)

● 本部は、嘘は言わないけれども、真実も伝えない。あえて誤解するような表現をする。例えば、複数店比率が上がれば上がるほど、実際の利益が増えていないのにオーナーの利益が増えたように見せかけて、新規オーナーを募集、リクルートしている。(福岡)

経済産業省「第3回 新たなコンビニのあり方検討会」「オーナーヒアリング調査の概要」11頁

公正取引委員会「コンビニエンスストア本部と加盟店との取引等に関する実態調査報告書」の指摘

公正取引委員会「コンビニエンスストア本部と加盟店との取引等に関する実態調査報告書」の指摘とは、以下の記載を指しています。

ア 調査結果(特に「予想売上げ又は予想収益の額に関する説明」について)

(中略)

以下では,41.1%のオーナーが「加盟前に受けた説明よりも実際の状況の方が悪かった」を選択した「予想売上げ又は予想収益の額に関する説明(モデル収益や収益シミュレーション等を含む)」を取り上げる。当該事項について,加盟前に受けた説明よりも実際の状況の方が悪かった」を選択した者に,加盟前に本部から受けた説明と実際の状況との間に差異が生じた原因(複数回答可)を尋ねたところ,「来店客数が過大に見積もられていたため」が63.3%,「人件費が過少に見積もられていたため」が47.0%,「廃棄ロス,棚卸ロス等が過少に見積もられていたため」が43.8%となっており63,本部の説明内容と加盟店の認識との間には大きなギャップがみられる。

(中略)

イ 独占禁止法上・競争政策上の評価

(中略)

他方で,当該説明事項に関しては,前記アのように本部の説明内容と加盟店の認識との間には大きなギャップがみられることから,加盟者募集に際して,「来店客数が減少傾向にあること」,「人件費が高騰してきていること」といったリスク情報や加盟後にオーナーが負担することとなる経費等の情報を示すなど,加盟希望者が適切な判断を行えるよう丁寧な説明を行うことが望まれる。とりわけ,事業経営経験の無い加盟希望者等の場合,「参考」としての説明であっても「予想売上げ」や「予想収益」又はそれと同等のものと受け止める可能性もあることから,加盟者募集時の説明に当たっては特に丁寧な説明が必要になる点に留意する必要がある。

(以下略)

公正取引委員会「コンビニエンスストア本部と加盟店との取引等に関する実態調査報告書」201~202頁(令和2年9月2日)

このように、依然として、加盟者募集段階における予想売上等の説明と実態が乖離するケースも相当程度存在し、フランチャイザー(本部)とフランチャイジー(加盟者)との間の紛争の種になっているようです。そこで、フランチャイザー(本部)に対して類似店舗の情報を開示させることで、できる限り乖離を埋めようというのが、今回の改正の経緯ということになります。

おわりに

以上、中小小売商業振興法施行規則の改正の内容及び経緯について説明しました。