はじめに
(この記事は2021年6月3日に作成されたものです。)
フランチャイズ契約を締結すると、フランチャイザー(以下「本部」といいます。)は、フランチャイジー(以下「加盟者」といいます。)に対し、フランチャイズ・チェーンのノウハウを提供します。
フランチャイズ・チェーンを維持、発展させていくために、ノウハウの改良は非常に重要ではありますが、本部は、加盟者に対し、ノウハウを改良する義務を負うのでしょうか。
飲食店のフランチャイズ契約を例にすると、本部が、メニュー、調理方法及び経営マニュアル等の改良をせず、それにより加盟者の売上が年々減少していったような場合に、加盟者は、本部に対し、フランチャイズ契約の債務不履行に基づく損害賠償請求ができるか、という問題です。
以下、本部のノウハウ改良義務について説明します。
ノウハウ改良義務
フランチャイズ契約書に本部がノウハウを改良する義務を負う旨の規定がない場合において、本部が加盟者に対してノウハウ改良義務を負うか否かについて判断した判例は見当たりません。
もっとも、学説ではありますが、本部は、加盟者に対し、提供したノウハウが陳腐化しないように、その価値を維持すべき修補義務と、継続的にノウハウを改良・開発し、それを加盟者に開示して経営を指導・援助すべき義務を負うと解されています(金井高志『フランチャイズ契約裁判例の理論分析』475頁(判例タイムズ社、2005年))。
そうすると、本部がこれらの義務を怠り、ノウハウが陳腐化した結果、加盟者の売上が年々減少していったような場合に、加盟者は、本部に対し、フランチャイズ契約の債務不履行に基づく損害賠償請求や解除をすることが考えられます。
しかし、実際には、加盟者の請求が認められるためには、超えるべきハードルが相当程度存在するように思います。
まず、何をもって、ノウハウが陳腐化した(ノウハウの価値が維持されていない)といえるのかが難しい、という点です。
冒頭の飲食店のフランチャイズ契約の例でいえば、本部が、長期間、メニュー及び調理方法を変更しなかったとしても、それは顧客の評価が高いから、ということもあります。確立されたノウハウの評価手法がしない以上、本部においてある程度合理的な説明をした場合に、裁判所において、合理的な疑いなくノウハウが陳腐化した(ノウハウの価値が維持されていない)ことを認定することは難しいと思います。
次に、損害賠償請求をする場合は、加盟者において、本部の債務不履行と発生した損害の因果関係を主張立証する必要がありますが、加盟者の売上を増減させる要因には様々なものがあり、他の要因(例えば、競合他社が近隣に出店した等)が存在するような場合に、減少した利益のうち、どの部分がノウハウの陳腐化によって生じたものであるかの特定が難しいこともあります。
このように、本部は、抽象的にはノウハウ改良義務を負いますが、ノウハウの陳腐化が明らかなような場合を除き、具体的なノウハウ改良義務の違反を問われる可能性は低いように思います。
以上は、フランチャイズ契約書に本部がノウハウを改良する義務を負う旨の規定がない場合を前提としたものであり、フランチャイズ契約書において、具体的にメニューの改訂期間等が規定されている場合に本部がこれを怠れば、本部はフランチャイズ契約の債務不履行責任を問われることになります。
なお、フランチャイズ契約において、本部が「消費者の需要に適合した新しい指定メニューの開発に努力し,営業効率向上を図るため,調理方法及び経営マニュアルの改良および開発に努力すべき」と規定されていた事案において、裁判所は、「加盟店には,被告が指定するメニューを被告が指定する方法で調理・販売することが義務付けられており,これ以外の調理品を店舗で販売することが禁止されていることに照らすと,被告の前記努力義務は,加盟店の売上に直接的に影響を与えるものとして,加盟店に対する具体的な作為義務を生ずるものと解される。」と判示したものがあります(東京地判平成23年3月28日2011WLJPCA03288002)。この裁判例は、本部が「その都度,新たな指定メニューや季節商品を開発するためにこれらの商品販売を試み,販売促進活動を提案して実施し,加盟店の意見を聴取して必要な範囲で反映させるなど,売上増加努力義務を果たしてきた」として、本部のノウハウ改良義務違反を認定しませんでしたが、事案によってはこれが認定される可能性があることを示唆するものとして、参考になります。
おわりに
以上、フランチャイザーのノウハウ改良義務について説明しました。