はじめに
(この記事は2021年10月11日に作成されたものです。)
フランチャイズ契約において、フランチャイザー(以下「本部」といいます。)が、フランチャイジー(以下「加盟者」といいます。)に対し、契約期間中及び契約終了後一定期間、一定の場所において、同種又は類似の事業を営んではならないとの義務(以下「競業避止義務」といいます。)を課すことが多いです。
加盟者が競業避止義務の違反を是正しない場合、本部は、裁判所に対し、加盟者を相手方として、競業避止義務違反となる営業行為等の差止請求訴訟を提訴します。
加盟者が競業避止義務の有効性を争うなどした場合、訴訟の審理には相当の期間を要しますので、訴訟中に競業避止義務の期間が経過してしまうこともあります。
このような場合、本部の営業行為等差止請求は、どのようになるのでしょうか。
この点につき参考となる裁判例を紹介します。なお、裁判例の紹介に際しては、フランチャイズ契約における競業禁止期間経過後の営業行為等差止請求に関する内容のみを抽出しており、この点と関連しない記載には言及していません。
東京地判平成31年3月26日2019WLJPCA03268027
事案の概要
「原告」は、寿司等のフランチャイズチェーンの本部を営む株式会社です。
「被告会社」は「飲食店業を営む株式会社」で、「被告Y1」は「被告会社の設立時以来の代表取締役」です。
「原告」と「被告会社」は、「原告をフランチャイザーとし,被告会社をフランチャイジーとして,原告が運営する寿司販売のフランチャイズチェーン(中略)に関するフランチャイズ契約(本件FC契約)を締結」しました。
このフランチャイズ契約において、「加盟店の契約終了後2年間,本件FC契約が解約によって終了した場合は最長で3年間,同一分野において競業する事業を行わない義務を負うこと」が定められていました。
「被告会社」と「原告」は、平成27年12月31日で「本件FC契約を解約・終了すること」を合意しましたが、「原告」は、「平成28年1月1日以降も,本件店舗において,「●●」の名称を用いて寿司店の営業を継続」しました。
そこで、「原告」は、「被告会社」及び「被告Y1」を相手方として、「平成30年12月31日まで,地域を問わず,寿司店の営業等をすることの差止め」と、「本件違約金条項に基づき算定された違約金」等を請求しました。
しかし、本件訴訟の審理を継続している間に、競業禁止期間の最終日である「平成30年12月31日」が経過しました。
裁判所の判断
「被告会社」は、「本件FC契約終了の日から3年間は,原告と同一分野の営業をすることができず,これに反した場合には,原告は,少なくとも被告会社に対しては,その差止めを求めることができる。」
「本件FC契約は,平成27年12月31日に解約により終了しており,競業避止義務を負う期間は,(中略),平成28年1月1日から平成30年12月31日までの3年間となる。」
「原告としても,被告らに対し,同日までの営業の差止めを求めるところ,同日が経過したことは顕著な事実であり,請求の趣旨第1項に係る原告の請求は,本件口頭弁論終結時においては,被告らに対して過去の一定期間における不作為を求めるものとなっているのであり,当該請求はもはや訴えの利益を失っているものといえ,却下を免れない。」
コメント
本件において、裁判所は、被告会社が競業避止義務に違反していると認定したうえで、競業禁止期間経過後の営業行為等の差止請求は「訴えの利益」がないものとして却下しました。原告は、別途、競業避止義務違反の違約金の請求をしていましたので、違約金請求のみが認められた形になりました。
この結論については、「加盟者は、違約金さえ支払えば、競業避止義務に違反して営業を継続できることになり、おかしいのではないか」とお考えの方もいるかもしれません。
しかし、この点について、裁判所は、
・ 競業禁止期間の始期を(契約終了時ではなく)競業避止義務違反行為の終了時としたいのであれば、その旨の合意が必要である
・ 当該合意がないのであれば、競業禁止期間中の競業行為の制裁を違約金の支払によって行うことを予定している
との見解に立っています(東京地判令和元年11月28日2019WLJPCA11288023、東京地判令和3年1月25日2021WLJPCA01258002 )。
以上より、本部において、競業避止義務に違反する営業行為等を、違約金の制裁をもって解決するだけではなく、差止めをすることが必要であると考えるのであれば、フランチャイズ契約において、競業禁止期間の始期を競業避止義務違反行為の終了時としておく必要があります。
おわりに
以上、フランチャイズ契約における競業禁止期間経過後の営業行為等差止請求について、参考となる裁判例を紹介しました。