フランチャイズ裁判例

フランチャイジーの行為についてのフランチャイザーの第三者に対する責任【fc-cases #14】

はじめに

(この記事は2021年5月21日に作成されたものです。)

フランチャイジー(以下「加盟者」といいます。)が、第三者との取引を履行しなかったり、第三者に違法な行為をした損害を発生させたりした場合に、第三者が、加盟者のみならず、フランチャイザー(以下「本部」といいます。)にも責任追及を行うケースがあります。

他方で、フランチャイズ契約を締結しているとしても、あくまでも本部と加盟者はそれぞれ独立した事業主体ですので、当然に本部が加盟者の行為の責任を負うことにはなりません。

そこで、本部が、第三者に対し、加盟者の行為の責任を負うことはあるのでしょうか。

この点につき参考となる令和の裁判例を紹介します。なお、裁判例の紹介に際しては、加盟者の行為についての本部の第三者に対する責任に関する内容のみを抽出しており、この点と関連しない記載には言及していません。

東京地判令和2年1月29日2020WLJPCA01298017

事案の概要

「原告」が、本部である「被告」の加盟者の店(以下「本件店舗」といいます。)において購入した氷菓「○○」(以下「本件○○」といいます。)を食して前歯を割り、その際に加盟者から適切な対応を受けられなかったなどと主張して、債務不履行に基づき損害金の支払を求めた事案です。

争点

本部は第三者に対して債務不履行責任を負うか。

第三者(「原告」)の主張

「原告は,本件店舗が販売した本件○○を食べたことにより歯が割れた。また,本件店舗の店長及び従業員は,けがをした原告に対して救急車を呼ぶなどの適切な対応をしなかった。したがって,本件店舗は,原告が本件○○を食べて歯が割れたことに関して債務不履行責任を負う。」

「原告が,本件○○を食べて歯が割れたこと,指定病院があれば教えてほしいということを本件店舗の店長に伝えたところ,同人は,原告に対し,被告のお客様相談室に電話をするように促し,本件店舗と被告との契約上,すべてのトラブル対応は被告が行うと述べていた。したがって,被告は,本件店舗が原告に対して負担すべき債務不履行責任を負うものである。」

本部(「被告」)の主張

「原告の請求は法的根拠も明らかではなく,いずれにしても,本件○○を食べて歯が割れたことに関して本件店舗が原告に対して債務不履行責任を負うことはない。」

「本件店舗の店長が,原告に対し,被告のお客様相談室に電話をするように伝えたことは認めるが,その趣旨は,同相談室が窓口として対応するというものに過ぎない。本件店舗は被告とは別法人のフランチャイズ店舗であり,仮に,本件店舗が原告に対して何らかの債務不履行責任を負うとしても,被告がその責任を負うものではない。」

裁判所の判断

「被告に対する請求の根拠となる主張の要旨は,原告は被告のフランチャイジーである本件店舗に対して債務不履行責任を追及できるから,フランチャイザーである被告は,本件店舗が原告に対して負担すべき債務不履行責任を負うというものであり,原告が,本件店舗に対して債務不履行に基づく損害賠償請求が可能であることが前提となっている。

「この点,前記認定事実(1),(2)に照らせば,本件○○を食したことにより原告の歯牙破折が生じたものであると認められるが,認定事実(3)のとおり,本件○○が通常有すべき安全性を欠いているものと認めることもできないから,そのことに関して本件店舗に何らかの債務不履行責任があったと認めることはできず,原告による本件店舗に対する損害賠償請求を認めるに足りない(なお,原告は,歯が割れたことを伝えた後のやり取りに関する本件店舗の店長らの対応の不適切さも指摘するが,前示のとおり,原告は,本件○○を食べて歯が割れたことについての責任追及を被告に対して行うものであるところ(このことは,原告が主張する損害内容からも明らかである。),原告と本件店舗の店長とのやり取りは,原告の主張によっても原告の歯が割れた後のものであるから,その不適切さと原告の歯が割れたことには因果関係が認められず,同主張を踏まえても上記結論は左右されない。)。」

「そうすると,原告の被告に対する請求はその前提を欠くことになり,原告の被告に対する本件請求は理由がない。」

コメント

本件における①「原告」の「被告」に対する損害賠償請求は、②「原告」の「加盟者」に対する損害賠償請求権の存在が前提としたものであるところ、②(加盟者の責任)が否定されましたので、その結果、①(本部の責任)も否定される、という流れになりました。

本件においては、どのような場合に、何を根拠として、②(加盟者の責任)が肯定されたうえで①(本部の責任)まで肯定されるのか、についての言及はありませんでした。

前提として、加盟者といえども、本部とは独立した事業主体である以上、原則として、加盟者の行為について、本部は責任を負うことはありません。

しかし、例外的に、本部に以下のいずれかの責任が認められる場合には、本部は、加盟者の行為について、第三者に対して責任を負うことになります。

  1. 名板貸責任(商法14条)
  2. 共同不法行為責任(民法719条)
  3. 使用者責任(民法715条)

名板貸責任(商法14条)

(自己の商号の使用を他人に許諾した商人の責任)

第十四条 自己の商号を使用して営業又は事業を行うことを他人に許諾した商人は、当該商人が当該営業を行うものと誤認して当該他人と取引をした者に対し、当該他人と連帯して、当該取引によって生じた債務を弁済する責任を負う。

商法

共同不法行為責任

(共同不法行為者の責任)

第七百十九条 数人が共同の不法行為によって他人に損害を加えたときは、各自が連帯してその損害を賠償する責任を負う。共同行為者のうちいずれの者がその損害を加えたかを知ることができないときも、同様とする。

 行為者を教唆した者及びほう助した者は、共同行為者とみなして、前項の規定を適用する。

民法

使用者責任

(使用者等の責任)

第七百十五条 ある事業のために他人を使用する者は、被用者がその事業の執行について第三者に加えた損害を賠償する責任を負う。ただし、使用者が被用者の選任及びその事業の監督について相当の注意をしたとき、又は相当の注意をしても損害が生ずべきであったときは、この限りでない。

 使用者に代わって事業を監督する者も、前項の責任を負う。

 前二項の規定は、使用者又は監督者から被用者に対する求償権の行使を妨げない。

民法

それぞれの責任が発生する要件については、また別の記事で説明したいと思います。

おわりに

以上、加盟者の行為についての本部の第三者に対する責任について、参考となる令和の裁判例を紹介しました。