フランチャイズ裁判例

フランチャイズ契約における競業避止義務と違約金①【fc-cases #6】

はじめに

(この記事は2021年4月28日に作成されたものです。)

フランチャイズ契約において、フランチャイザー(以下「本部」といいます。)が、フランチャイジー(以下「加盟者」といいます。)に対し、契約期間中及び契約終了後一定期間、一定の場所において、同種又は類似の事業を営んではならないとの義務(以下「競業避止義務」といいます。)を課すことが多いです。

この競業避止義務は、どのような期間、場所の範囲、事業の範囲であっても、フランチャイズ契約において規定さえすれば、常に有効になるのでしょうか。

また、競業避止義務に違反した場合の違約金の金額又はその計算方法(例えば、ロイヤリティの●年分等)についても、フランチャイズ契約において規定されることがありますが、このような違約金条項は常に有効であり、これに違反した加盟者は、本部に対し、常に違約金条項のとおりに違約金を支払わなければならないのでしょうか。

この点につき参考となる令和の裁判例を紹介します。なお、裁判例の紹介に際しては、フランチャイズ契約における競業避止義務と違約金に関する内容のみを抽出しており、この点と関連しない記載には言及していません。

東京高判令和元年9月4日2019WLJPCA09046003

原審は「東京地判平成31年3月14日2019WLJPCA03146009」です。

事案の概要

「高齢者・身体障害者の介護施設,住宅及び有料老人ホームの企画・経営等を業とする株式会社」である加盟者は、「高齢者・身体障害者の介護施設,住宅及び有料老人ホームの企画・経営とそのフランチャイズ加盟店の募集及び指導等を業とする株式会社」である本部とフランチャイズ契約を締結しました。

フランチャイズ契約には、以下の競業避止義務条項及び違約金条項が規定されていました。

  • 加盟者は、本件加盟契約の有効期間中と本件加盟契約の終了後5年間、本部の書面による承諾なく、本フランチャイズ事業と同様の事業を経営してはならない。
  • 本部は、加盟者が競業避止義務に違反した場合、加盟者に対し、ロイヤリティ平均月額(違反行為が発生した月の前月から直近1年間の店舗における売上金総額に10%を乗じた額を12で除した額)に120か月を乗じた額の違約金を請求することができる。

加盟者は、フランチャイズ契約の締結後、介護・介護予防施設を開業していたが、本部に対し、フランチャイズ契約の解除を通知し、その約3か月後に、同一の場所において、デイサービス型介護施設を開業した。

争点

  1. 競業避止義務条項の有効性
  2. 違約金条項の有効性

本部の主張

加盟者は、フランチャイズ契約終了後も、介護施設を経営して競業避止義務に違反していることにより、約2500万円の違約金が生じ、これが未払である。

加盟者の主張

①競業避止義務条項は、保護すべきノウハウや営業秘密がなく、無効である。

②違約金は高額で暴利であり、違約金条項は無効である。

裁判所の判断

競業避止義務条項の有効性

(被告=本部、原告=加盟者です。)

「被告の○○に係る事業は,軽度介護認定者向けの介護整体,機能訓練及び足岩盤浴等を中心としたデイサービスを提供する点に特徴があり(前記1(3)),財産的価値を有するものといえるから,原告に対してこれと同様の事業の経営を禁じることは,原告が有する営業の自由を考慮しても,なお合理性があるというべきである。そして,禁止期間が本件加盟契約の有効期間中と本件加盟契約の終了後5年間であることや禁止範囲が日本全国であることについても,本件契約の期間が5年間であることや上記競業禁止規定がおよそデイサービス事業を禁じるものとは解されないことを考慮すると(前記第2の1(2)カ),長過ぎるとも広過ぎるともいえず,競業禁止規定は有効である。」

違約金条項の有効性

 (被告=本部、原告=加盟者です。)

「違約金規定(18条1項1号)については,被告が競業避止義務に違反した原告に対して違反した期間や態様を問うことなくロイヤリティ平均月額の10年分を請求し得るとするものであり(前記第2の1(2)キ),被告が違約金額を超える損害を被ったときはその超過分についても請求し得るとされていることも考慮すれば(甲第1号証(18条3項1号)),高額に過ぎるというべきであり,適正な違約金額を超える部分については,公序良俗に反して無効と解するのが相当である。そして,競業避止義務に違反した場合の一般的な違約金額や本件に現れた一切の事情を総合考慮すると,適正な違約金額は,ロイヤリティ平均月額の30か月分と解するのが相当である。」

コメント

競業避止義務条項の有効性

競業避止義務条項は、本部の営業秘密の保護と顧客・商圏の確保が目的であるとされており、この目的を超えて、加盟者の営業の自由を不当に制限するものは、公序良俗に反して無効となると解されています。

フランチャイズ契約終了後の競業避止義務条項の有効性は、禁止する目的に比して、禁止される業務の範囲、禁止される期間、禁止される場所等が過大なものでないかが検討されます。

フランチャイズ契約において、競業避止義務が課される平均的な期間は、契約終了後2年間とされていますが(経済産業省「フランチャイズ・チェーン事業経営実態調査報告書」28頁(平成20年3月))、これはあくまでも平均であり、2年以上であれば無効となるわけではありません。

現に、従前より、フランチャイズ契約終了後5年間の競業避止義務を有効とした裁判例も存在していたなかで(大阪地判平成22年5月27日判時2088号103頁)、以上の裁判例も、フランチャイズ契約終了後5年間の競業避止義務を有効としました。

前述のとおり、競業避止義務条項の有効性は、禁止される期間のみで決まるわけではありませんが、フランチャイズ契約終了後5年間は、感覚としては限界ラインと考えられるのではないかと思います。

違約金条項の有効性

以上の裁判例が「適正な違約金額を超える部分については,公序良俗に反して無効と解するのが相当である。」と判示しているとおり、フランチャイズ契約において違約金条項が存在するとしても、「適正な違約金額を超える部分」は無効となります。

しかし、以上の裁判例も「競業避止義務に違反した場合の一般的な違約金額や本件に現れた一切の事情を総合考慮すると,適正な違約金額は,ロイヤリティ平均月額の30か月分と解するのが相当である。」と判示しているとおり、「適正な違約金額」に決まった算出式はありません。

もっとも、従前の裁判例にも、以上の裁判例のように、「ロイヤリティ平均月額の30か月分」の範囲で違約金を認めるものが相当数ありますので(東京地判平成6年1月12日判タ860号198頁等)、裁判所において「ロイヤリティ平均月額の30か月分」が一つの基準となっているのかもしれません。ただし、その倍の60か月分のロイヤリティの違約金を認めた裁判例(大阪地判昭和61年10月8日判タ646号150頁)もありますので、あくまでも目安に過ぎないことは注意が必要です。

おわりに

以上、フランチャイズ契約における競業避止義務違反の違約金条項の有効性について説明しました。