フランチャイズ裁判例

フランチャイズ契約に規定のない競業避止義務【fc-cases #5】

はじめに

(この期日は2021年4月22日に作成されたものです。)

フランチャイズ契約書において、フランチャイザー(以下「本部」といいます。)が、フランチャイジー(以下「加盟者」といいます。)に対し、契約期間中及び契約終了後一定期間、同種又は類似の事業を営んではならないとの義務(以下「競業避止義務」といいます。)を課すことが多いです。

それでは、加盟者は、フランチャイズ契約書に競業避止義務の定めがない場合であっても、本部に対して競業避止義務を負うことはあるのでしょうか。

この点につき参考となる令和の裁判例を紹介します。なお、裁判例の紹介に際しては、フランチャイズ契約書に規定のない競業避止義務の存否に関する内容のみを抽出しており、この点と関連しない記載には言及していません。

大阪高判令和元年7月25日裁判所ウェブサイト

事案の概要

「原告」は、「高度管理医療機器の販売,医薬品及び医薬部外品の販売等を目的とする会社」であり、「A」という屋号でコンタクトレンズ販売店を経営しています。

「被告」は、「不動産の売買,賃貸及び管理,高度管理医療機器の販売,医薬品及び医薬部外品の販売等を目的とする会社」であり、「B」という屋号でコンタクトレンズ販売店を経営しています。

平成25年11月頃、「被告」は、「原告」に対し、「旧大阪駅前店」の運営を委託しましたが、この際に契約書等は作成されませんでした。

平成26年12月頃、仕入先より、「原告」から「被告」に商品を転売することは、仕入先と「原告」との間の契約に違反する旨の指摘があり、「原告」及び「被告」は、当該取引先に、「原告」及び「被告」の取引はフランチャイズ契約であることを説明するために、「覚書」を作成することを考えました。

この「覚書」において、競業避止義務は明記されていませんが、「原告」は、「覚書」のとおり、「原告」及び「被告」との間でフランチャイズ契約が締結され、「覚書」に競業避止義務が明記されておらずとも、フランチャイズ契約の性質上当然に競業避止合意も含まれており、「被告」はこれに違反した主張として、「被告」に対して損害賠償請求をしました。

争点

「被告は競業避止義務を負い,これに違反し,又は違法な競業行為をしたか」

「原告」の主張

「原告」と「被告」は、原告の屋号である「A」を用いてコンタクトレンズ販売を行う旨のフランチャイズ契約を締結した。

「被告」は、この契約に基づくフランチャイジーの義務として、フランチャイザーである「原告」に対し、競業避止義務を負っていた。

それにもかかわらず、「被告」は当該競業避止義務に違反し、原告の店舗の隣に被告の店舗をオープンした。

「被告」の主張

「覚書」は、「原告」が仕入先に、「原告」と「被告」との間にフランチャイズ契約があると見せかけるためだけに作成したものであり、実際に「原告」と「被告」が締結していたのは業務委託契約である。

「覚書」には、「被告」の競業避止義務を定める規定自体が存在しておらず、競業避止義務の合意は存在しない。

裁判所の判断

フランチャイズ契約の成否

「覚書」は、「取引先からの契約違反との指摘に対応するために,原告と被告の間には本来,「FC関係」はないものの,原告と被告がそのような関係にあることを,日付を遡らせて仮装するために作成された可能性が高いというべきである。」

 「もっとも,原告は従前からコンタクトレンズ店を展開しており,被告はそのような原告に対して旧大阪駅前店等の運営を委託したのであるから,それら店舗の運営は原告のノウハウを用いてされたものである」。しかし、「眼科の検査なしでコンタクトレンズを販売するというビジネスモデルはそれまでの」「原告」「の販売店とは異なるものであった上に,店舗で働く従業員の雇用も仕入先や顧客との間の取引も専ら」「原告」「が行っており,」「被告」「は主に店舗運営の経費を負担するにとどまっていたのであるから(中略),加盟店の営業のために本部が統制,指導,援助を行い統一的な方法による事業運営を行わせる一般的なフランチャイズ・システムにおける本部と加盟店との関係とは異質の関係であった。」

そして、「覚書」の作成経緯に照らすと、「原告と被告とが,各店舗の運営委託を超えて,被告が原告の傘下で店舗を展開し,原告に対して競業避止義務を負うようなフランチャイズ契約を締結する意思を有していたとまで認めることはできない。」

「したがって,」「被告」が「原告」に対して、「フランチャイズ契約に基づき競業避止義務を負っていたとする控訴人の主張を採用することはできない。」

信義則上の競業避止義務の存否

「原告」と「被告」は、「いずれもコンタクトレンズ販売店の経営を行う会社として,旧大阪駅前店等の運営委託関係があった当時から競業関係にあったといえる。」

「競業者同士が提携関係にある状況においては,提携によって利益を得つつ,一方が他方を出し抜いて自己の営業上の利益のみを追求する行動に出ることは,信義則に反すると評価される場合があり得ると考えられる。そのような場合,信義則上相互に競業避止義務を負うと説明することもできるであろう。しかし,提携関係が解消された後においては,両者とも営業の自由を有するのであるから,競業避止義務について特に合意をしたのでない限り,自由競争の範囲内において自己の営業上の利益を追求して競業することが妨げられることはないのであって,一方が他方に対し信義則上競業避止義務を負うということはできない。

コメント

以上の裁判例において、「原告」は、フランチャイズ契約であることを前提に、信義則上の競業避止義務の存在を主張しましたが、裁判所は、業務委託契約であるとの認定をしたうえで、競業避止義務についいて合意をしていない以上、提携関係の解消後に信義則上の競業避止義務を負うことはないとの判断をしました。

それでは、フランチャイズ契約の場合はどのような判断となるのでしょうか。

エリアフランチャイズの事案ではありますが、

  1. 本部と加盟者が長期にわたるフランチャイズ契約の関係にあったこと
  2. 加盟者が本部のフランチャイズ・チェーン屈指のエリアフランチャイザーであったこと
  3. フランチャイズ契約に契約期間中に加盟者が類似営業を行わないとの合意が存在したこと
  4. フランチャイズシステムを始めたのは本部であり、エリアフランチャイザーである加盟者は、本部が既に一定の成功を収めた事業のコンセプトやノウハウ等について情報の開示を受け、この無形の財産を使用することによって営業を行ってきたものであり、契約終了後の競業避止義務が全くないとすれば、加盟者は、本部から開示を受けたノウハウ等を利用して契約終了の日の翌日からでも別のフランチャイズシステムを構築して事業を展開することができ、これでは本部が甚大な損害を被ることとなり、本部が築いた無形の財産の保護にも欠けることとなること
  5. 別のエリアフランチャイザーとは、契約終了後1年間の競業避止義務を合意して、本部の営業を保護する措置を講じていること
  6. 加盟者においても、本部のフランチャイズシステムを維持するためには契約終了後1年間程度の競業避止義務が必要であるとの認識を有していること
  7. フランチャイズ契約において、加盟者の競業避止義務の発生を阻止する明文の規定は存在しないこと

を理由に、信義則上、エリアフランチャイズのテリトリー内において、1年間、フランチャイズシステムと同じ事業を、いかなる名称や態様によっても行わないとの競業避止義務の存在を認めたものがあります(東京高判平成20年9月17日判時2049号21頁)。

エリアフランチャイズではない、通常のフランチャイズ契約においても、上記④に該当するような事情が認められる場合には、信義則上の競業避止義務が認められる場合はあるように思います。

さいごに

以上、フランチャイズ契約書に規定のない競業避止義務が認められる場合について説明しました。