フランチャイズ裁判例

フランチャイザーによる建物明渡断行仮処分の申立て【fc-cases #20】

はじめに

(この記事は2021年6月14日に作成されたものです。)

店舗設置型の事業である場合、フランチャイザー(以下「本部」といいます。)は、地主から土地を賃借し、当該土地上に建築した建物をフランチャイジー(以下「加盟者」といいます。)に賃貸することがあります。

本部の加盟者に対する建物の賃貸は、フランチャイズ契約書において規定されることもあれば、フランチャイズ契約書とは別個独立の賃貸借契約書が作成されることもありますが、いずれにしても、フランチャイズ契約が終了すれば、加盟者は、本部に対し、建物を明け渡さなければならないようになっています。

本部と加盟者との間でフランチャイズ契約が終了したか否かについて争いが生じたような場合、最終的に、本部は、加盟者に対し、建物の明渡しまで請求することになります。

本部は、最終的には、民事訴訟である建物明渡請求訴訟を提起することになりますが、事案によっては、事前に、民事保全である建物明渡断行仮処分の申立てを行うことも考えられます。

建物明渡断行仮処分は、「債権者に生ずる著しい損害又は急迫の危険を避ける」ために必要である場合に、民事訴訟よりも簡易・迅速な手続きにより、仮ではありますが(最終的に民事訴訟で決着する必要がありますが)、裁判所が「債務者」に建物の明渡しを命じるものです(民事保全法23条2項)。

なお、「債権者に生ずる著しい損害又は急迫の危険を避ける」ことを「保全の必要性」、この仮処分命令を申し立てた者を「債権者」(民事訴訟の「原告」)、申し立てられた者を「債務者」(民事訴訟の「被告」)といいます。

それでは、どのような場合に、「債権者に生ずる著しい損害又は急迫の危険を避ける」必要がある(保全の必要性がある)として、本部による建物明渡断行仮処分の申立てが認められるのでしょうか。

この点につき参考となる令和の裁判例を紹介します。なお、裁判例の紹介に際しては、本部による建物明渡断行仮処分の申立て(保全の必要性)に関する内容のみを抽出しており、この点と関連しない記載には言及していません。

大阪地判令和2年9月23日労経速2440号3頁

事案の概要

「債権者」は、本部であり、「コンビニエンスストアを事業展開している株式会社」です。

「債務者」は、加盟者であり、本部とフランチャイズ契約を締結し、「本件建物」でコンビニエンスストアを経営していた者です。

「本件建物」は、本部である「債権者」が所有しており、「債権者」は、フランチャイズ契約に基づき、これを加盟者である「債務者」に賃貸していました。

この事件は、「債権者」が申し立てた「第1事件」と、「債務者」が申し立てた「第2事件」がありますが、ここでは、フランチャイズ契約解除の有効性に関する判断がなされた「第1事件」を取り上げます(「第2事件」は本部による独占禁止法違反の有無が問題となりました。)。

「第1事件」は、「債権者が,上記フランチャイズ契約が解除されたことにより,債務者は本件建物の占有権原を喪失したにもかかわらず,本件建物を占有していると主張して,債務者に対し,本件建物の所有権に基づく建物引渡請求権を被保全権利として,本件建物を仮に引き渡すことを申し立てた事案」です。

争点

保全の必要性の有無

本部(「債権者」)の主張

 「(1)  債権者は,仮処分命令が発令されないことにより債権者に著しい損害が生じるとして,具体的には,

①債権者は,直ちに本件建物の仮の引渡しを受けなければ,本件建物や設備機器類等の保守管理ができず,仮に本案訴訟に勝訴しても,これらの修理や買替え等により多額の損害が生じる,

②債務者が,債権者を誹謗中傷する発言を繰り返しており,本件建物の仮の引渡しが認められなければ,債権者は本件店舗を経営することができず,債務者により大きく毀損された債権者のブランドイメージを回復させる機会を与えられないまま,債務者から一方的にブランドイメージを毀損する誹謗中傷を受け続けることになる,

③本案審理を待っていては,多額の逸失利益(本件店舗を24時間営業することにより得べかりし利益及び仮に債権者との土地賃貸借契約が解除された場合には商圏喪失により失われる利益)が生じ,債務者から回収することはできない

などと主張する。」

裁判所の判断

①について

「債務者は,現在本件店舗での営業を休止しており,本件建物や設備機器類等を毀損するなど不適切に扱っていることを認めるに足りる的確な疎明は認められない。また,本案審理を待っていては,修理や買替えを必要とする程度に本件建物や設備機器類が劣化すること,ひいてはその費用が後日の金銭賠償では賄えないほどに著しく多額に上るということについて,これらを認めるに足りる的確な疎明も認められない。」

②について

「仮に債権者が主張するとおり,債務者が債権者を誹謗中傷し,債権者のブランドイメージが毀損されているとしても,それは本件建物の引渡しや本件店舗の営業再開とは次元を異にする問題であって,直ちに仮の引渡しを認めるべき保全の必要性に結びつくものとはいえない。」

③について

「(ア) まず,本件店舗を営業できないことによる逸失利益の点についてみると,目的不動産の使用収益ができないことにより逸失利益が生じることはこの種事案一般に生じる問題であり,債権者が日本国内で2万1000店ものコンビニエンスストアを事業展開していること(前記前提事実(1)ア)をも併せ考慮すると,この点をもって直ちに仮の引渡しを認めるべき保全の必要性を基礎付けるとはいえない。

「(イ) 次に,商圏喪失による逸失利益の点についてみると,債権者は,賃貸人との土地賃貸借契約において,本件土地を専らコンビニエンスストア事業の用に供する建物を所有するため使用するものとし,居住の用に供する建物を建築してはならない(第2条),賃貸人の書面による承諾を受けないで,本件土地の使用目的を変更し,又は第三者に賃借権を譲渡してはならない(第14条)等の義務を負っている(甲7,8)が,債務者が本件建物を退去しないことをもって,直ちに債権者が上記土地賃貸借契約に違背したと評価することはできない。また,そもそも賃貸人が上記賃貸借契約を有効に解除できることについて疎明がされているとはいえない上,賃貸人代表者の陳述書(甲51)の内容に照らしても,上記賃貸借契約が解除される現実的な危険が生じているとの疎明がされているとはいえない。そうすると,現時点において,債権者が主張するような商圏喪失による逸失利益が生じる蓋然性が高いとまで認めることはできない。」

小括

「(ア) 以上のとおりであって,第1事件の保全の必要性に係る債権者の上記①ないし③の各主張はいずれも採用できず,仮の引渡しが認められないことにより債権者に著しい損害が生じるということはできない。」

「(イ) なお,債権者は,仮処分命令が発令されたとしても,債務者に損害が生じることはない旨指摘する。

確かに,債務者は現在本件店舗での営業をしておらず,債権者が商品の供給等をしない以上,現時点において,今後も債務者において本件店舗での営業を再開できる見込みは乏しいのであり,債務者において本件建物を使用する必要性は低いといえる。しかしながら,債権者に対する仮の引渡しがされ,いったん債権者又は第三者が本件店舗での営業を再開してしまうと,仮に本案訴訟で債務者が勝訴しても,債務者が再び本件店舗で営業をすることが事実上困難になる可能性があることは否定し得ないのであるから,仮の引渡しがされることによって債務者に損害が生じないということはできない。したがって,債権者の上記主張は採用できない。

「以上によれば,第1事件に係る保全の必要性があるとは認められない。」

コメント

本部が主張した①及び③の事情は、店舗設置型の事業である場合、抽象的には本部に生じ得る事情かと思いますが、裁判所は、これらの抽象的な可能性だけで保全の必要性を認めることはしませんでした。

そうしますと、これらの具体的な事情が存在することが必要となりますが、

・ ①の事情として、建物や設備機器類の修理や買替えに要する費用が「後日の金銭賠償では賄えないほどに著しく多額に上る」ような具体的な事情が存在するケースは想定され難いこと

・ ③の事情として、本部の規模が小さい場合でも、わずか1店舗の加盟者からのロイヤリティ等に依存しているケースは想定され難いこと

から、これらの具体的な事情が認定されるケースは稀であると思われます。

また、本部が主張した②の事情は、「本件建物の引渡しや本件店舗の営業再開とは次元を異にする問題」と判示されていますので、具体的な事情の有無にかかわらず、②の事情のみで保全の必要性は認められないことになります。

以上からしますと、本件のような事案では、他に特別の事情がない限り、本部による建物明渡断行仮処分の申立てが認められる可能性は低いように思います。

おわりに

以上、本部による建物明渡断行仮処分の申立て(保全の必要性)につき参考となる令和の裁判例を紹介しました。