はじめに
(この記事は2021年4月4日に作成されたものです。)
フランチャイズ契約は、フランチャイザー(本部)が作成し、かつ、定型的に用いられ、フランチャイジー(加盟者)ごとに変更されることもない、といった実態があることが多いため、フランチャイズ契約が民法の定型約款規定(民法548条の2から548条の4)の適用を受けるのではないか、との疑問を持たれる方もおられるようです。
そこで、以下、民法の定型約款規定について説明したうえで、フランチャイズ契約への適用の有無を整理させていただきます。
民法の定型約款規定
「定型約款」の定義
民法において、「定型約款」は、「定型取引において、契約の内容とすることを目的としてその特定の者により準備された条項の総体」と定義されています(民法548条の2第1項柱書)。
そして、「定型取引」は、「ある特定の者が不特定多数の者を相手方として行う取引であって、その内容の全部又は一部が画一的であることがその双方にとって合理的なもの」と定義されています(民法548条の2第1項柱書)。
「ある特定の者が不特定多数の者を相手方として行う取引」は、「ある取引主体が取引の相手方の個性を重視せずに多数の取引を行うような場面を抽出するための要件である。」(筒井健夫=村松秀樹編著『一問一答 民法(債権関係)改正』243頁(商事法務、2018年))とされています。
「その内容の全部又は一部が画一的であることがその双方にとって合理的なもの」は、「特別な規定を設けて取引の安定を図るとしても、定型約款を細部まで認識していない者を拘束することが許容されるのは、定型約款を利用しようとする定型約款準備者だけでなくその相手方(顧客)にとっても取引が画一的であることが合理的であると客観的に評価することができる場合に限られることを表すものである。」(筒井健夫=村松秀樹編著『一問一答 民法(債権関係)改正』243頁(商事法務、2018年))とされています。
これらの要件に該当するものとしては、「鉄道の旅客運送取引における運送約款、宅配便契約における運送約款、電気供給契約における電気供給約款、普通預金規定、保険取引における保険約款、インターネットを通じた物品売買における購入約款、インターネットサイトの利用取引における利用規約、市販のコンピュータソフトウェアのライセンス規約」(筒井健夫=村松秀樹編著『一問一答 民法(債権関係)改正』246頁(商事法務、2018年))が挙げられます。
定型約款規定の内容
以上の定型取引を行うことの合意(定型取引合意)をした者が、「定型約款を契約の内容とする旨の合意をしたとき。」又は「定型約款を準備した者(以下「定型約款準備者」という。)があらかじめその定型約款を契約の内容とする旨を相手方に表示していたとき。」のいずれかに該当する場合は、定型約款の個別の条項についても合意をしたものとみなされます(民法548条の2第1項)。
本来であれば、契約当事者は、契約の個別の条項の内容を認識したうえで契約を締結しなければ、当該条項に拘束されないことになりますが、以上の場合には、定型約款の個別の条項の内容を認識していなくとも、当該個別の条項に拘束されることになります。
また、定型約款準備者は、「定型約款の変更が、相手方の一般の利益に適合するとき。」又は「定型約款の変更が、契約をした目的に反せず、かつ、変更の必要性、変更後の内容の相当性、この条の規定により定型約款の変更をすることがある旨の定めの有無及びその内容その他の変更に係る事情に照らして合理的なものであるとき。」のいずれかに該当する場合には、定型約款の変更をすることにより、変更後の定型約款の条項について合意があったものとみなし、個別に相手方と合意をすることなく契約の内容を変更することができます(民法548条の4第1項)。なお、定型約款準備者は、当該定型約款の変更をするときは、その効力発生時期を定め、かつ、定型約款を変更する旨及び変更後の定型約款の内容並びにその効力発生時期をインターネットの利用その他の適切な方法により周知しなければなりません(同条2項)。
本来であれば、契約当事者は、個別に相手方と合意をしなければ、契約の内容を変更することはできませんが、以上の場合には、個別に相手方と合意をしていなくとも、定型約款の内容を変更することができます。
フランチャイズ契約の「定型約款」該当性
それでは、フランチャイズ契約は、「定型約款」に該当し、一定の要件の下、フランチャイジー(加盟者)はフランチャイズ契約の個別の条項を認識していなくとも、これに拘束され、また、フランチャイザー(本部)はフランチャイジー(加盟者)の個別の同意を得ることなくフランチャイズ契約の内容を変更できるのでしょうか。
この点につき、法務省は、フランチャイズ契約は民法の「定型約款」には該当しないとの見解に立っています。
第192回国会(衆議院)の法務委員会第15号(2016年12月9日)において、枝野幸男委員の「例えば、事業者間も、フランチャイズ契約みたいな話というのは、事実上、定型的なもので運用されていますが、これは、どこに店を出すかとかそういうのが違うからということで定型約款から外れるという理解でいいんですか。」との質問に対し、小川秀樹政府参考人(法務省民事局長)が「もちろん、フランチャイズ契約、いろいろと問題も指摘されるところもございますが、それは基本的に、定型約款の性質そのものというよりは、両者の交渉力の差の問題でございますので、その意味では事業者間の契約ということで整理をしております。」と回答しています。
要するに、フランチャイズ契約は、フランチャイザー(本部)にとってはひな形により取引の内容を画一化することが合理的であるとしても、フランチャイジー(加盟者)にとっては必ずしもそのようにいうことはできませんので、「その内容の全部又は一部が画一的であることがその双方にとって合理的なもの」には該当せず、「定型約款」の要件に該当しないと考えられています。
おわりに
以上、民法の定型約款規定のフランチャイズ契約への適用の有無を整理しました。