フランチャイズ

フランチャイズ契約の情報提供義務違反における損害賠償の内容【franchise #10】

はじめに

(この記事は2021年5月28日に作成されたものです。)

フランチャイザー(以下「本部」といいます。)は、フランチャイジーになろうとする者(以下「加盟希望者」といいます。)に対し、「契約締結に関して的確な判断ができるよう客観的かつ正確な情報を提供する」義務(以下「情報提供義務」といいます。)を負います。

情報提供義務違反に基づく損害賠償請求は、(フランチャイズ契約の債務不履行に基づく損害賠償請求ではなく)不法行為に基づく損害賠償請求であると解されており(最判平成23年4月22日民集65巻3号1405頁)、不法行為に基づく損害賠償の内容は、不法行為と相当因果関係のある損害であると解されています。

それでは、具体的に、どのような損害が、フランチャイズ契約における情報提供義務違反と相当因果関係のある損害として、損害賠償の内容となるのでしょうか。

以下、フランチャイズ契約の情報提供義務違反における損害賠償の内容について説明します。

フランチャイズ契約の情報提供義務違反における損害賠償の内容

具体的な損害の名目ごとに、近時の裁判例の動向を整理したものが、以下のものとなります。

なお、最終的にはケースバイケースであり、裁判例によっては争いのあるものもありますし、最終的には過失相殺により減額され得るので、下記損害が全て賠償されるわけではないことはご注意ください。

加盟金原則として、損害賠償の対象となる(東京地判令和2年10月9日2020WLJPCA10098013、東京地判令和元年12月11日2019WLJPCA12118013、東京地判平成31年3月14日2019WLJPCA03146009、東京高判平成30年5月23日2018WLJPCA05236002、東京地判平成30年3月28日2018WLJPCA03288007、横浜地判平成27年1月13日判時2267号71頁)。

ただし、提供を受けたノウハウ、労務等が経済的利益を得たと評価し得るものである場合は、損害賠償の対象とならないことがある(名古屋地判平成10年3月18日判タ976号182頁)。
加盟保証金原則として、損害賠償の対象となる(東京地判平成30年3月28日2018WLJPCA03288007)。

なお、フランチャイズ契約において加盟者に返還請求権が認められる場合でも、損害賠償の対象となる(金沢高判平成17年6月20日裁判所ウェブサイト)。
店舗保証金原則として、損害賠償の対象となる(福岡高判平成13年4月10日判タ1129号157頁)。
店舗の礼金、仲介手数料原則として、損害賠償の対象となる(横浜地判平成27年1月13日判時2267号71頁、東京地判平成25年8月8日2013WLJPCA08088004)。

ただし、やや古い裁判例に、これを否定したものも存在する(名古屋地判平成10年3月18日判タ976号182頁)。
店舗の火災保険料原則として、損害賠償の対象となる(東京地判平成25年8月8日2013WLJPCA08088004)
店舗の工事費用原則として、損害賠償の対象となる(東京地判令和2年10月9日2020WLJPCA10098013、東京地判平成25年8月8日2013WLJPCA08088004)。

ただし、相当期間使用している場合は、損害賠償の対象はその一部に限定される(横浜地判平成27年1月13日判時2267号71頁)。
什器備品の購入費用、リース代金原則として、損害賠償の対象となる(東京地判令和2年10月9日2020WLJPCA10098013、東京地判平成30年3月28日2018WLJPCA03288007、東京地判平成25年8月8日2013WLJPCA08088004)。

ただし、相当期間使用している場合は、損害賠償の対象はその一部に限定される(横浜地判平成27年1月13日判時2267号71頁)。
商号登記費用原則として、損害賠償の対象となる(東京地判平成25年8月8日2013WLJPCA08088004)
研修費原則として、損害賠償の対象となる(東京地判平成30年3月28日2018WLJPCA03288007、東京地判平成25年8月8日2013WLJPCA08088004)。
広告宣伝費原則として、損害賠償の対象となる(横浜地判平成27年1月13日判時2267号71頁)
ロイヤルティ本部から一応の経営支援を受けて、ロイヤルティを上回る売上を得るなど対価を得ている場合は、損害賠償の対象とはならない(東京地判平成30年3月28日2018WLJPCA03288007)。
システム利用料原則として、損害賠償の対象となる(東京高判平成30年5月23日2018WLJPCA05236002)。

ただし、加盟者が営業を継続しても収益が得られることを認識し得た時点までのシステム利用料に限られる(東京地判令和2年10月9日2020WLJPCA10098013)。
店舗賃料原則として、損害賠償の対象となる(東京地判令和2年10月9日2020WLJPCA10098013、横浜地判平成27年1月13日判時2267号71頁)。
光熱費、通信費原則として、損害賠償の対象となる(東京地判令和2年10月9日2020WLJPCA10098013、東京地判平成30年3月28日2018WLJPCA03288007、横浜地判平成27年1月13日判時2267号71頁)。
人件費原則として、損害賠償の対象とはならない(名古屋地判平成13年5月18日判時1774号108頁)。
営業損失加盟者の独立性を重視する裁判例は損害賠償の対象とせず、加盟者の独立性を重視しない裁判例は損害賠償の対象とする。

近時の肯定例としては、東京地判平成30年7月25日2018WLJPCA07258015がある。
逸失利益(フランチャイズ契約において一定の売上・利益が保証されていない限り)原則として、損害賠償の対象にはならない。

(フランチャイズ契約を締結するために会社を退職した場合は)原則として、退職後フランチャイズ事業により生計を立てるまでの期間の給与相当額が損害賠償の対象となる(東京地判平成31年3月14日2019WLJPCA03146009)。
慰謝料(加盟者が、侵害された利益に対し、財産価値以外に考慮に値する主観的精神的価値をも認めていたような特別の事情が存在しない限り)原則として、損害賠償の対象にはならない(横浜地判平成27年1月13日判時2267号71頁、東京地判平成25年8月8日2013WLJPCA08088004)。
弁護士費用原則として、損害賠償額の約1割が損害賠償の対象となる(東京地判令和2年10月9日2020WLJPCA10098013、東京地判平成31年3月14日2019WLJPCA03146009、東京地判平成30年3月28日2018WLJPCA03288007、東京地判平成25年8月8日2013WLJPCA08088004)。

おわりに

以上、フランチャイズ契約の情報提供義務違反における損害賠償の内容について説明しました。