不動産

賃借人の更新拒絶と「正当の事由」【real-estate #3】

はじめに

(この記事は2021年3月28日に作成されたものです。)

借地借家法の適用のある賃貸借契約について、賃借人が更新拒絶をした際に、これを否定したい賃貸人が、「賃借人による更新拒絶には、『正当の事由』が認められないため、賃貸借契約は更新される。」との主張をする場面に稀に出くわします。このような賃貸人の主張が認められるのか、以下、説明します。

借地借家法の規定

借地借家法における、借地契約及び借家契約の更新拒絶に関する規定は、以下のとおりです。

要するに、「正当の事由」が必要とされる更新拒絶は、あくまでも賃貸人(「借地権設定者」及び「建物の賃貸人」)による更新拒絶であることが明示されています。

借地契約

(借地契約の更新請求等)                                                           第五条 借地権の存続期間が満了する場合において、借地権者が契約の更新を請求したときは、建物がある場合に限り、前条の規定によるもののほか、従前の契約と同一の条件で契約を更新したものとみなす。ただし、借地権設定者が遅滞なく異議を述べたときは、この限りでない。(以下略)                                            

(借地契約の更新拒絶の要件)                                                      第六条 前条の異議は、借地権設定者及び借地権者(転借地権者を含む。以下この条において同じ。)が土地の使用を必要とする事情のほか、借地に関する従前の経過及び土地の利用状況並びに借地権設定者が土地の明渡しの条件として又は土地の明渡しと引換えに借地権者に対して財産上の給付をする旨の申出をした場合におけるその申出を考慮して、正当の事由があると認められる場合でなければ、述べることができない。

借家契約

(建物賃貸借契約の更新拒絶等の要件)                                                   第二十八条 建物の賃貸人による第二十六条第一項の通知又は建物の賃貸借の解約の申入れは、建物の賃貸人及び賃借人(転借人を含む。以下この条において同じ。)が建物の使用を必要とする事情のほか、建物の賃貸借に関する従前の経過、建物の利用状況及び建物の現況並びに建物の賃貸人が建物の明渡しの条件として又は建物の明渡しと引換えに建物の賃借人に対して財産上の給付をする旨の申出をした場合におけるその申出を考慮して、正当の事由があると認められる場合でなければ、することができない。

裁判例(東京地判平成22年6月25日2010WLJPCA06258023)

東京地判平成22年6月25日2010WLJPCA06258023は、原賃貸人から賃借人(転貸人)に、賃借人(転貸人)から転借人に、建物が転貸されていたところ、賃借人(転貸人)が原賃貸人との間の原賃貸借契約の更新を拒絶しました。そこで、原賃貸人が、転借人に対し、更新拒絶による原賃貸借契約の終了により転貸借契約も終了したとして、建物の明渡しを請求しました。これに対し、転借人は、賃借人(転貸人)の更新拒絶には「正当の事由」が認められず、原賃貸借契約は終了していない以上、転貸借契約も終了していない旨主張した事案です。

転借人の主張に対し、同判決は、「建物の賃貸借において適法な転借人が存在する場合、賃貸人が賃貸借契約の更新を拒絶するには、賃借人及び転借人との関係で借地借家法28条所定の正当の事由が認められることを要する。これに対し、同条は、その文言からして、賃貸人による更新拒絶等に関する規定であるから、賃借人が賃貸借契約の更新を拒絶した場合においては、上記正当の事由が問題となることはなく、賃貸借の終了を転借人に対抗することができると解するのが相当である。被告は、転貸人(賃借人)が、転貸借契約の更新を拒絶し得る正当事由がないにもかかわらず、本来更新することのできる原賃貸借について敢えて更新の権利を放棄することは、転借人に対する義務違反である旨を主張するが、賃借人が賃貸借契約の更新を拒絶することが転借人に対する転貸借契約上の債務不履行となり得るとしても、そのことと賃貸人が賃貸借契約の終了を転借人に対抗できるか否かは別の問題というべきであるから、上記判断を何ら左右するものではない。」と判示しました。

このように、(場面は異なりますが)裁判例においても、賃借人による更新拒絶に「正当の事由」が問題となることがないとされています。

おわりに

以上、賃借人の更新拒絶と「正当の事由」について説明しました。