不動産

業務委託契約と賃貸借契約の区別【real-estate #4】

はじめに

(この記事は2021年4月10日に作成されたものです。)

建物を賃借し、店舗として使用している事業者が、他の事業者に対し、賃借店舗内の一角での営業を許諾することがあります。

この営業許諾について、業務委託契約書(経営委託契約書、営業委託契約書)を締結すれば、賃貸借契約に該当すると評価されることはないのでしょうか。

賃貸借契約に該当すると評価されると、建物賃貸人から無断転貸として賃貸借契約を解除される可能性がありますし(民法612条)、更新拒絶の際に他の事業者から借地借家法の「正当の事由」が必要である旨の主張がなされる可能性がありますので(借地借家法28条)、以下、業務委託契約と賃貸借契約の区別について整理します。

業務委託契約と賃貸借契約の区別

最判昭和39年9月24日裁判集民75号445頁

判例は、「いわゆる経営の委任または委託の場合、法律上委任の形式をとるにかかわらず受任者が自己の計算において自己の裁量に従って経営を行い、委任者に対して一定の金員を支払うことが少なくない。かかる場合、経営の委任といっても実質は営業の賃貸借に外ならないと解すべきである。」と判示しています。

まず、「法律上委任の形式をとるにかかわらず」とありますので、業務委託契約書(経営委託契約書、営業委託契約書)を締結すれば、賃貸借契約に該当すると評価されることはない、とはいえません。

契約書のタイトル等の形式で判断されるのではなく、「業務委託」とされたものの実態が、真に業務委託と評価されるものであるのか、賃貸借と評価されるものであるのか、が判断されることになります。

そして、その実態として、判例は「受任者が自己の計算において自己の裁量に従って経営を行い、委任者に対して一定の金員を支払うことが少なくない。」という点を重視しました。

真に業務委託と評価されるものであれば、受任者は委任者の指揮監督の下に経営を行い、経営の結果としての損益は委任者に帰属することになります。また、業務委託の報酬も、得られた利益に連動する形となることも考えられますので、これらの実態がなければ賃貸借と評価されることになります。

東京地判平成8年7月15日判時1596号81頁

その後の裁判例においても、スーパーマーケット内の一角においてパンの売場部分の使用許諾が、業務委託契約であるのか、賃貸借契約であるのかが争点となった事案において、「以上認定したとおり、被告らは、本件店舗の中において原告の経営するスーパーマーケット部分とは明瞭に区画されている本件売場部分において、(中略)長年の間、場所を移動することもなく、内装工事費や設備機材費等全て自己負担のうえ、独自の経営判断と計算において、自ら開発したパンの製造販売技術を用いて、営業を行ってきたものである。」として、当該使用許諾は賃貸借契約であると判断されたものがあります。

小括

このように、業務委託契約か賃貸借契約かの区別は、契約書のタイトル等の形式では判断されず、

  1. 受任者が自己の計算において経営を行っているか(経営の結果としての損益が受任者に帰属するか、内装工事費や設備機材費等の費用を委任者が負担したか)
  2. 受任者が自己の裁量に従って経営を行っているか(委任者が受任者を指揮監督しているか)

といった実態を考慮して判断されることになります。

おわりに

以上、業務委託契約と賃貸借契約の区別について整理しました。