フランチャイズ裁判例

フランチャイズ契約における有責加盟者の加盟金返還請求【fc-cases #4】

はじめに

(この記事は2021年4月15日に作成されたものです。)

フランチャイズ契約の締結時に、フランチャイジー(以下「加盟者」といいます。)が、フランチャイザー(以下「本部」といいます。)に対し、加盟金を支払うことがあります。この加盟金は、マニュアル等のノウハウ等に対する対価であることが多く、ノウハウ等が開示された以上、たとえ開店に至らずにフランチャイズ契約が解約された場合でも、返還されないとの合意がなされることが多いです。

他方で、「開店に至らない場合には返還する。」との合意がなされることもあります。このような合意がなされた場合、加盟者の責めに帰すべき事由により開店に至らないとしても、本部は、加盟者に対し、加盟金を返金しなければならないのでしょうか。

これらにつき参考となる令和の裁判例を紹介します。なお、裁判例の紹介に際しては、有責加盟者からの加盟金の返還請求に関する内容のみを抽出しており、この点と関連しない記載には言及していません。

東京地判令和元年7月18日2019WLJPCA07188003

事案の概要

加盟者は、フランチャイズ契約の締結に際し、店舗の開店に至らない場合には返金するとの約定で、加盟金等を本部に預け入れていたところ、本部の債務不履行により店舗の開店に至らなかったと主張し、その返還を求めました。

争点

  1. 店舗の開店に至らなかった場合に返金する旨の合意の有無
  2. 店舗の開店に至らなかったことの責任の所在

加盟者の主張

①について

加盟者は、店舗の開店に至らなかった場合には返金するとの約束に基づいて本部に対して加盟金等を預け入れたのであり、実際、加盟者は本部からその旨が記載された差入書の交付を受けた。

②について

本部は、加盟者に対し、フランチャイズ契約の締結の際に、平成●年●月●日までに店舗開設の準備を整え、a施設にて開店できる状態とすることを約したにもかかわらず、同日時点において、同店では別店舗が営業を継続しており、加盟者において店舗を開店できる状態ではなかった。

本部は、その後も、いつ開店できるか分からないと自身の発言を撤回し、開店のための義務を尽くさなかったのであるから、店舗の開店に至らなかったことの責任は本部にある。

本部の主張

①について

差入書は、加盟者の強い希望により発行したものであるが、専ら本部の責めに帰すべき事由又は双方の責めに帰すことのできない事由により店舗の開店に至らなかった場合について返還を約したにすぎず、加盟者の責めによる場合についてまで返金を約したものではない。

②について

加盟者は、フランチャイズ契約に基づき、●●の物件において店舗を設置する義務を負っていたにもかかわらず、それに向けた賃貸借契約の手続を怠り、同物件における店舗の開店を不能にさせた。

裁判所の判断

①について

「本件契約に係る契約書において,加盟金はいかなる場合においても返却しないものとする旨が明記されていること(中略)が認められる。」

「このような加盟金(中略)の趣旨に照らすと,(中略)「店舗開店に至らない場合は,ご返金させて頂きます。」と記載された差入書(甲2)が被告により作成されたとしても,被告が,この差入書をもって,店舗開店に至らなかった責任が原告にある場合も含め,いかなる場合であっても返金する旨を約したものとはおよそ解し難く,また,(中略)認定した事実経過に照らし,そのように解すべき事情も何らうかがわれない。」

②について

「原告には,本件契約に基づき,対象店舗とされた東心斎橋の物件の1階及び2階部分について賃貸借契約を締結し,同部分において店舗を設置する義務があったにもかかわらず,これを怠ったものということができる。」

「店舗の開店に至らなかったことの責任は,原告にあると認めることができる。」

コメント

フランチャイズ契約においては、「加盟金はいかなる場合においても返却しない」とされていても、その後に、「店舗開店に至らない場合は,ご返金させて頂きます。」と記載された差入書が作成されれば、当該差入書がフランチャイズ契約を修正するものとして有効に成立します。

ご紹介した裁判例では、例外の記載なく「店舗開店に至らない場合は,ご返金させて頂きます。」と記載されたことから、加盟者の責めに帰すべき事由により終了した場合でも、開店に至らなければ加盟金が返還されるのかが争われました。

例外は必ず記載されなければ認められないというわけではなく、当事者の意思を合理的に解釈することにより、例外が記載されておらずとも、加盟者の責めに帰すべき事由により開店できない場合にまで加盟金が返還されることは予定されていないことが認定されました。

もっとも、加盟者としては、もし加盟者が翻意をして開店しないこととした場合でも返金して欲しいと考えるのであれば、「加盟者の責めに帰すべき事由により店舗開店に至らない場合でも」返金されることを明記するべきということになります。反対に、本部としては、加盟者の責めに帰すべき事由による場合には返金しないのであれば、「ただし、加盟者の責めに帰すべき事由により店舗開店に至らない場合は除く。」と例外を明記するべきということになります。

さいごに

以上、有責加盟者からの加盟金の返還請求について説明しました。