フランチャイズ裁判例

フランチャイズ契約締結前の情報提供義務違反を理由とするロイヤリティの支払拒絶【fc-cases #3】

はじめに

(この記事は2021年4月14日に作成されたものです。)

例えば、フランチャイズ契約の締結前に本部が加盟者に対して提供した売上予測、利益予測等の情報が不適切であった場合に、加盟者が、フランチャイズ契約のロイヤリティの支払を拒絶することがあります。これに対し、本部は、(提供した情報が不適切ではないことを前提として)ロイヤリティの不払を理由として、フランチャイズ契約の解除をすることになります。

このような事例において、加盟者は、ロイヤリティの支払を拒絶することができるのでしょうか。反対に言えば、本部は、加盟者のロイヤリティの不払を理由にフランチャイズ契約を解除することができるのでしょうか。

これらにつき参考となる令和の裁判例を紹介します。なお、裁判例の紹介に際しては、契約締結前の情報提供義務違反を理由とするロイヤリティの支払拒絶に関する内容のみを抽出しており、この点と関連しない記載には言及していません。

東京地判令和元年7月16日2019WLJPCA07168005

事案の概要

リハビリ型デイサービスに係るフランチャイズ事業等を営む本部が、加盟者がロイヤリティ等の支払を怠ったとしてフランチャイズ契約を解除し、加盟者に対し、未払ロイヤリティ等を請求した事案です。

争点

ロイヤリティ支払義務の有無

加盟者の主張

本部は、以下のとおり、フランチャイズ契約に基づく情報提供義務等を履行していないため、加盟者がロイヤリティを支払う義務はない。

  1. 加盟者の事業所の開所に当たり、加盟者は生活相談員1名を雇用し、平成26年1月以降は開所できる状態であった。それにかかわらず、本部が開所には2名の生活相談員が必要であるとの誤った指導をしたため、加盟者は開所の手続を進めることができず、損害を被った。
  2. 加盟者の事業所の開所前に、本部は、加盟者に対し、売上や利益の予測につき客観的かつ的確な情報を提供する信義則上の義務を負っていた。それにかかわらず、本部は売上実現の見通しや根拠に係る情報提供義務を怠り、加盟者に安易に稼働率をあげることができると誤信させた。
  3. 加盟者の事業所は、開所後の売上が低迷し損益分岐点に達しない状況であったのに、本部は売上向上のための具体的なアドバイスや販促提案などせず、フランチャイズ契約に規定する「事業所運営上の各種アドバイス」や「販促提案」を提供する義務を怠った。

本部の主張

  1. 加盟者の事業所の開所が遅れたのは、加盟者による生活相談員の雇用が遅れたことが原因である。
  2. 開所前の本部による情報提供は本件契約締結前の事情である。
  3. 本部の示した売上や利益予測は客観的かつ的確な根拠に基づくものであった。また、本部は加盟者に商標の使用を認め、売上や利益を上げるための情報やノウハウの提供等の義務を履行した。

裁判所の判断

①について

「上記経過によれば,被告事業所の開所が平成25年12月でなく,平成26年2月になったのは,開所許可の条件である生活指導員の雇用が遅れ,雇用契約書の作成が同年1月15日にずれ込み,行政申請のための必要書類の提出が遅延したことによるものとみるのが自然である。しがたって,被告事業所の開所が遅れたことにつき,原告に責任があるとは認められない。」

②について

「被告が主張するように,原告が開所前に売上予測について客観的かつ的確な情報を提供する信義則上の義務を負うかという点については措くとしても,被告の主張は,本件契約成立前の原告の行為を問題とするものであって,開所後の原告の支援に対する対価としての性質を持つロイヤリティの支払を拒絶する理由にはなり得るものとはいえない。

 「また,この点を措いても,(中略),契約書の冒頭部分には,原告と被告は独立の事業主として自己責任に基づき本件契約を締結すること,原告が示した資料は事業の成功の可能性について述べたものであって被告の利益を保証するものではない旨が明記してあることに加え,被告事業所が開所した京都市には一定の介護の需要があり,ある程度の事業収益が期待できるものであったこと,さらに,(中略),被告は,本件解除の前後を通じて,ある程度の売上は上げており,現に,(中略),被告は本件解除後も被告事業所の営業を継続していることなどの事情に鑑みれば,原告が開所前に提供したデータが客観的かつ的確な根拠を欠き被告事業所の収益が見込めないものであったとする被告の主張は採用することができない。」

③について

「原告は,被告に対し,本件商標の使用を許諾し,事業開始前には被告の従業員らに対し5日間にわたる研修を行い,開所時には,原告におけるノウハウを記載した各種マニュアル等を被告に貸与した事実が認められるほか,事業開始前後には,Eメール,電話,ニュースレターの送付,スーパーバイザーの定期的な訪問等を通じて,被告に対し,介護保険請求に関するレセプトの導入サポート,リハビリの成果の向上等の情報提供などの支援を行っていた事実が認められる。したがって,原告が,開所後において事業所運営上の各種アドバイスや販促提案などの情報を提供する義務を怠ったということはできない。」

コメント

フランチャイズ契約におけるロイヤリティは、一般的には、商標等の使用の対価、継続的な経営指導の対価であることが多いです。この場合、本部が、加盟者に対し、商標の使用を許諾し、継続的な経営指導を実施しているのであれば、加盟者は、本部に対し、これらの対価であるロイヤリティを支払わなければなりません。それにかかわらず、加盟者がロイヤリティの支払を怠ると、フランチャイズ契約の債務不履行として解除事由に該当してしまいます。

ご紹介した以上の裁判例も、結局は、本部の加盟者に対する情報提供義務違反自体を否定しましたが、その前段として、「被告の主張は,本件契約成立前の原告の行為を問題とするものであって,開所後の原告の支援に対する対価としての性質を持つロイヤリティの支払を拒絶する理由にはなり得るものとはいえない。」と判示しており、以上の立場を明確にしています。

そもそも本部に情報提供義務違反があるか否か、あるとして加盟者にどのような損害賠償請求権が発生しているのか、については、一義的に決めることが難しい問題です。加盟者としては、本部の情報提供が不適切であると考えても、直ちに情報提供義務と対価の関係にないロイヤリティの支払を停止することまで当然に認められるわけではないことを念頭に置き、対応につき慎重に検討すべきことになります。他方で、本部としては、仮に情報提供義務違反が疑われる場合であっても、直ちに情報提供義務と対価の関係にないロイヤリティの支払を受けることができないわけではない、ということになります。

おわりに

以上、契約締結前の情報提供義務違反を理由とするロイヤリティの支払拒絶の可否について説明しました。