フランチャイズ

フランチャイズ契約書の重要事項①【franchise #12】

はじめに

(この記事は2021年5月30日に作成されたものです。)

フランチャイザー(以下「本部」といいます。)は、フランチャイズ契約書を作成する際に、インターネットで公開されている又は書籍に掲載されている雛形を使用することがありますが、それぞれの条項の意義を理解していなければ、自らの事業の実態に沿った適切なフランチャイズ契約書を完成させることはできません。

その結果、例えば、実現できない事項について合意してしまったり、当該事業固有のリスクに対応できないものとなってしまったりして、後日、フランチャイジー(以下「加盟者」といいます。)との紛争に発展したり、想定外の損害を被ったりすることもあります。

他方で、加盟者も、本部から提示されたフランチャイズ契約書を確認する際に、それぞれの条項の意義を理解していなければ、後日、思わぬ支出や想定外の義務の履行を余儀なくされたり、実施を予定していたことが禁止されてしまったりすることがあります。

そこで、以下、フランチャイズ契約書を締結する際に、特にチェックするべき重要事項について、説明します。

フランチャイズ契約書の重要事項

公正取引委員会の「フランチャイズ・システムに関する独占禁止法上の考え方」(以下「フランチャイズ・ガイドライン」といいます。)によると、フランチャイズ・システムは、「本部が加盟者に対して,特定の商標,商号等を使用する権利を与えるとともに,加盟者の物品販売,サービス提供その他の事業・経営について,統一的な方法で統制,指導,援助を行い,これらの対価として加盟者が本部に金銭を支払う事業形態である」と定義されています。

「特定の商標,商号等を使用する権利を与える」に関連して、商標・標章の使用等に関する条項が、「加盟者の物品販売,サービス提供その他の事業・経営について,統一的な方法で統制,指導,援助を行い」に関連して、研修、マニュアルの貸与、経営指導、店舗運営等に関する条項が、「加盟者が本部に金銭を支払う」に関連して、加盟金、加盟保証金、ロイヤルティ、システム使用料等に関する条項が、フランチャイズ契約書に設けられることが通常です。

これらは、本部が加盟者に提供する/加盟者が本部から提供を受ける、フランチャイズ・システムの根幹を為すものである以上、これらの事項を事前に精査せずにフランチャイズ契約書を締結することはないと思います。

他方で、フランチャイズ・システムを維持・存続させるために、例えば、以下のように、本部が加盟者に対して一定の利益、権利を保障したり、反対に、義務を課したりすることがあります。

  • 売上保証
  • テリトリー権
  • 競業避止義務

これらは、前述の条項に匹敵するほど重要な事項ではあるものの、前述の条項とは異なり、フランチャイズ・システムそのものではなく、必ずしも保障される/課されるものではなく、その内容の事業により様々なものとなりますので、フランチャイズ契約書において適切に規定し、又はその条項を適切に理解しておかなければなりません。

また、フランチャイズ契約書の締結時は、本部も加盟者も、加盟者による事業が順調に展開され、期間満了まで契約が存続することを期待するものではありますが、締結後に何らかの事情が生じ、期間途中で契約の終了又は契約の離脱が問題となることがあります。そこで、フランチャイズ契約書では、例えば、以下のような規定が設けられることが通常です。

  • 契約上の地位の譲渡
  • 中途解約
  • 契約解除
  • 契約終了後の措置

何らかの事情が生じ、契約が終了する又は契約から離脱する以上、これらについても、フランチャイズ契約書において適切に規定し、又はその条項を適切に理解しておかなければなりません。

これらが特にチェックするべき重要事項となりますので、以下、順に説明していきます。

売上保証

前提として、売上保証の有無に関する条項は、中小小売商業振興法の法定開示書面の記載事項ではありませんので、本部において、法定開示書面に記載する義務はありません。

しかし、フランチャイズ・ガイドラインにおいては、「独占禁止法違反行為の未然防止の観点からも,加盟希望者の適正な判断に資するよう本部の加盟者の募集に当たり,次のような事項について開示が的確に実施されることが望ましい」として、「事業活動上の損失に対する補償の有無及びその内容並びに経営不振となった場合の本部による経営支援の有無及びその内容」(要するに、売上保証の有無に関する条項)が挙げられています。

したがって、本部としては、特に、売上保証をしない場合には、法定開示書面やフランチャイズ契約書において、

「本部は、加盟者に対し、本件店舗の売上、利益及び成功を保証しない。」

と規定しておくことが望まれます。

これにより、本部の担当者の発言を加盟者が誤解するようなことがあったとしても(誤解が生じ得るようなセールストークは控えるべきことは言うまでもありません。)、本部において、想定外に売上保証をさせられるといった事態を回避することが可能となります。

実際、本部が「初期の投資金額の回収は,約3年で可能である」との説明をしたことが、売上保証に該当するか否かが問題となった事案において、「被告が原告らに対して売上保証をしたか否かについては,担当者Dの当初の発言はセールストークにとどまるもので,売上保証したものとはいえず,むしろ,本件契約の契約書には,フランチャイジーは契約店舗においてフランチャイザーの代理人としてではなく,自己の責任において経営に専念すると明示され,b店の事業計画書の初年度月次損益計画表には(甲6の10枚目),末尾に「売上は過去の実績に基づく予測ですので,上記売上を保証するものではありません。」と明記されているのであり,売上げ保証の主張には理由がない。」と判示されています(東京地判平成3年4月23日判タ769号195頁)。

他方で、本部において、売上保証をする場合は、売上保証の有無及び内容に疑義が生じないように、特に以下の点を明確にした規定にしましょう。

  • 売上保証の有無
  • 売上保証の内容
    • 最低保証の対象及び計算方法(対象は、売上又は利益等のいずれであり、どのように計算されるのか)
    • 最低保証額(最低保証の対象がいくらに到達しない場合に保証されるのか)
    • 会計期間(最低保証額はどの会計期間を対象としたものであるのか)
    • 最低保証の条件(最低保証額の未達以外の保証履行の条件の有無及び内容)

加盟者としては、セールストークの可能性がありますので、本部の担当者の口頭の説明のみを鵜呑みすることは避けるべきです。加盟者においても、以上の点を中心に、売上保証の有無及び内容に関する条項が法定開示書面やフランチャイズ契約書においてどのように記載されているのかを必ず確認しましょう。

おわりに

次回は、テリトリー権及び競業避止義務について解説します。