フランチャイズ

フランチャイザーのブランド価値維持義務【franchise #17】

はじめに

(この期日は2021年6月12日に作成されたものです。)

フランチャイジー(以下「加盟者」といいます。)は、フランチャイザー(以下「本部」といいます。)からノウハウの提供を受けることに加え、フランチャイズ・チェーンの商標が持つ顧客誘引力に期待して、フランチャイズ・チェーンに加盟することも多いです。

商標権の管理は、ノウハウの管理と同様に、フランチャイズ・チェーンの根幹を為す重要な事項となり、本部による商標権登録は必須となります。

他方で、本部は、商標登録し、加盟者が商標を使用できるようにしさえすれば足り、加盟者に対し、その商標が持つ、フランチャイズ・チェーンのイメージ等のブランド価値を維持する義務(以下「ブランド価値維持義務」といいます。)までは負わないのでしょうか。

この問題は、本部がブランド価値を毀損する行為を行い、その結果、加盟者の収益が減少するなどの損害が発生した場合に、加盟者が、本部に対し、当該損害の賠償を請求できるか、という観点から問題となります。

ブランド価値維持義務

この点につき、裁判所は、以下のとおり、本部が加盟者に対してブランド価値維持義務を負うと判示しています。

東京地立川支平成26年3月27日2014WLJPCA03276004

学習塾のフランチャイズ事業を営む本部が学習塾の名称を変更したことについて、加盟者が、本部によるブランド価値維持義務違反であり、債務不履行に基づく損害賠償請求をした事案において、裁判所は、以下のとおり判示しました。

「フランチャイズ契約においては,フランチャイジーは,フランチャイザーから提供される商標等(特定の標識やサービスマークなど)を使用して,同一のイメージの下に,商品の販売やサービスの提供等の事業を行う権利が与えられ,これらの事業を行うに当たっては,フランチャイザーから提供される統一的な経営ノウハウを用い,それらの見返りとして,対価(ロイヤリティー)の支払が義務付けられているのである。フランチャイジーが支払う対価には,単に統一的な経営ノウハウの提供に対するものにとどまらず,フランチャイザーが従前培ってきたイメージや商標等の一定の信用や顧客集客力を使用することの対価が含まれている。

それゆえ,フランチャイジーには,前記のようなフランチャイザーの名誉及びイメージ等のブランド価値を損ねる行為が禁止されているのであるし,公平の観点から,フランチャイザーにおいても,フランチャイザー自身の名誉及びイメージ等のブランド価値を損ねる行為を行ってはならない義務が当然に内在しているというべきである。」

そして、本部による学習塾の名称の変更が、ブランド価値維持義務に違反するとして、加盟者の逸失利益(名称の変更前2年間の粗利益の平均からの差額)の賠償を認めました。

東京地判平成22年7月14日判時2095号59頁

本部が消費期限切れの牛乳を使用したシュークリームを製造販売したことについて、加盟者が、本部によるブランド価値維持義務違反であり、債務不履行に基づく損害賠償請求をした事案において、裁判所は、以下のとおり判示しました。

「本件フランチャイズ契約は,被告が原告に対し,商標,サービス・マーク等を使用し,経営ノウハウ及び商品等の継続的な提供を受ける権利を付与するとともに,被告が開発したシステムによるY洋菓子チェーン店の経営を行うことを許諾し,その対価として,原告が被告に対し,ロイヤルティー,加盟料等を支払うことを内容とするものというのであるから,被告は,原告に対し,その使用を許諾した商標,サービス・マーク等のブランド価値を自ら損なうことがないようにすべき信義則上の義務を負うものというべきである。」

本部が消費期限切れの牛乳を使用したシュークリームを製造販売したことが、ブランド価値維持義務に違反することは認定されましたが、元々加盟者の店は赤字経営であったことから、本部によるブランド価値維持義務違反と因果関係のある存在がないとして、加盟者による損害賠償請求は否定されました。

小括

裁判例は、ブランド価値維持義務はフランチャイズ契約に「当然に内在している」と考えているため、フランチャイズ契約において、本部のブランド価値維持義務が明示されておらずとも、本部は、加盟者に対し、当該義務を負います。

本部にブランド価値維持義務違反があり、加盟者の収益が減少したような場合、本部は、全ての加盟者から、ブランド価値維持義務違反による損害賠償請求を受ける可能性があります。

事案によってはその金額が莫大なものとなり、フランチャイズ・チェーンの継続を困難にする可能性がありますので、ブランド価値を毀損する行為がないかについては常に注意をしておく必要があります。

おわりに

以上、本部のブランド価値維持義務について説明しました。