社会人の教養

社会人の教養としての法律知識【liberal-arts #4 貸与PC等の私的使用】

はじめに

(この記事は2021年4月19日に作成されたものです。)

会社に就職する形で社会人となった方のうち、会社から、自らのデスク等で使用するデスクトップパソコン、社外に持ち出し可能なノートパソコン、スマートフォン、タブレット型端末の貸与され、また、個別のメールアカウントの設定も受け、これらを使用して会社の業務を行う方も多いと思います。

それでは、従業員が、これらの貸与PC等を私的に使用して、例えば、私用でネットサーフィンをしたり、私用の電話を掛けたり、私用のメールをしたりすることは、許されないのでしょうか。

また、許されない場合に該当するとして、従業員は、どの程度のペナルティを課される可能性があるのでしょうか。

貸与PC等の私的使用の禁止の範囲

業務時間内の私的使用

就業規則等が存在する場合

例えば、就業規則等において、「会社内において業務以外の目的でコンピューターを使用しないこと。」、「会社内において私用メールの配信および受信を行わないこと。」、「会社内において業務以外の目的でインターネット接続を行わないこと。」との服務規程が周知されている場合、いかなる私的使用も当該服務規程違反となり、懲戒処分の対象となり得るのでしょうか。

結論としては、このような服務規程が周知されている場合であっても、常識の範囲内で、職務に支障を生じさせるものでなければ、裁判例上は、当該服務規程違反を理由に懲戒処分をすることは認められていません。

具体的には、裁判例は、「就業時間内に世間話,同僚の批判やうわさ話,懇親会の打ち合わせといった業務と直接的に関係のない会話等をするといったことは世間で一般的に行われていることであるし,これらが業務上の円滑な人間関係の形成,維持のために必要となる側面も否定できないことからすれば,これらの行為があったからといって,これを全て職務専念義務違反に問うことが許されるものではない。そして,被告就業規則が私用メールのやり取りを禁止しているのも,主に従業員が就業時間中に私用メールのやり取りをすることにより職務を懈怠することを防ぐことに重点をおいてのものと解されることからすれば,原告の前記私用メールのやり取りも、これが,社会通念上許容される範囲を超え,職務に支障が生じさせる程度のものであったかどうかが問題とされるべきであって,これが肯定される場合に,初めて就業規則違反を問えると解される。」(東京地判平成19年9月18日労判947号23頁)と判示しています。

就業規則等が存在しない場合

反対に、貸与PC等の私的使用を禁止する服務規程が周知されていない場合は、私的使用は認められるかというと、もちろん、そうではありません。

結局、この場合も、常識の範囲内で、職務に支障を生じさせるものでなければ、裁判例上は、当該服務規程違反を理由に懲戒処分をすることは認められていません。

具体的には、裁判例は、このような服務規程が周知されていないとの「事実関係の下では,会社のネットワークシステムを用いた電子メールの私的使用に関する問題は,通常の電話装置におけるいわゆる私的電話の制限の問題とほぼ同様に考えることができる。すなわち,勤労者として社会生活を送る以上,日常の社会生活を営む上で通常必要な外部との連絡の着信先として会社の電話装置を用いることは許容されるのはもちろんのこと,さらに,会社における職務の遂行の妨げとならず,会社の経済的負担も極めて軽微なものである場合には,これらの外部からの連絡に適宜即応するために必要かつ合理的な限度の範囲内において,会社の電話装置を発信に用いることも社会通念上許容されていると解するべきであり,このことは,会社のネットワークシステムを用いた私的電子メールの送受信に関しても基本的に妥当するというべきである。」(東京地判平成13年12月3日労判826号76頁)と判示しています。

業務時間外の私的使用

それでは、業務時間外であれば、常に問題ないのでしょうか。

業務時間外であれば、基本的に「会社における職務の遂行の妨げ」となることはないと思いますので、あとは、常識的な範囲で、「会社の経済的負担も極めて軽微なものである場合」の使用であれば、これが問題となる可能性は低いのではないかと思います。

許されない私的使用に対するペナルティ

貸与PC等の私的使用が「社会通念上許容される範囲を超え,職務に支障が生じさせる程度のもの」である場合に、従業員は、どの程度のペナルティを課され得るのでしょうか。

前提として、貸与PC等の私的使用が服務規程違反となる場合であっても、会社としては、余程の事情がない限り、いきなり懲戒解雇等の強力なペナルティを課すことは許されていません。

それは、労働契約法において「使用者が労働者を懲戒することができる場合において、当該懲戒が、当該懲戒に係る労働者の行為の性質及び態様その他の事情に照らして、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、当該懲戒は、無効とする。」(労働契約法15条)と規定されていて、この社会通念上相当ではない場合に該当するからです。

通常のケースでは、まずは、(懲戒処分ではない)注意、指導がなされ、それに従わない場合に、(懲戒処分としての)戒告等がなされ、それでも従わない場合に、懲戒解雇等の強力なペナルティを課すかどうかが問題となります。

従業員としては、もちろん、貸与PC等の私的使用には気を付けるべきですが、いきなり懲戒解雇等の強力なペナルティを課されることが労働契約法において許容されるわけではないことは教養としての法律知識として知っておくとよいのではないかと思います。

さいごに

以上、禁止される貸与PC等の私的使用の範囲、許されない私的使用をした場合に課され得るペナルティについて説明しました。